データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] シラク・フランス共和国大統領歓迎晩餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1996年11月19日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),467−469頁.
[備考] 
[全文]

大統領閣下、大統領令夫人、並びにご列席の皆様

この度、ジャック・シラク大統領閣下を令夫人とともに国賓として我が国にお迎えし、歓迎の宴を催すことができますことは、私にとり、この上ない喜びであります。去る六月のリヨン・サミットでお会いして以来、妻ともども大統領ご夫妻の訪日を一日千秋の思いで待ちわびておりました。

シラク大統領、既に、貴方のお許しをいただいておりますので、貴方のことをジャックと呼ばせていただきます。

ご列席の皆様

我が友ジャックが、青年の頃からアジア、特に日本の文化・歴史に関心を持たれ、既に四十三回も我が国を訪問されている大の知日家・親日家でいらっしゃることは、皆様よくご存じのことと思います。このような我が国の友人が、

欧州の中核たるフランスを率いて行かれることは、日本にとり大変喜ばしいと思います。

日仏両国は、ともに国際社会で責任ある位置を占め、多くの問題で立場を同じくしており、国際社会において、また、アジア欧州関係において、ともに手を携えて一層重要な役割を果たしていこうとしています。今回のジャックの訪日は、二十一世紀へ向けての日仏関係の飛躍的発展の記念すべき出発点だと申し上げても過言ではないでしょう。

昨日、私は、ジャックと日仏両国間の問題のみならず、国際政治、国際経済等についても幅広く意見交換し、両国間の協力を強化することにつき意見の一致をみました。その内容は、昨日二人で署名した「二十一世紀に向けての日仏協カニ十の措置」に集約されています。本日ご列席の日仏双方の関係閣僚をはじめ、各界の皆様方におかれましては、今後この「二十の措置」の実施に、最大限お力添えいただければ幸いです。

昨年は、十年越しの懸案であったパリ日本文化会館が開設し、また、日本を総合的にフランスに紹介する「フランスにおける日本年」の行事が繰り広げられます。更に、再来年には「日本におけるフランス年」も開催される予定です。私は、これら一連の文化交流行事を是非とも成功させたいと思います。なぜなら、国際化の進展する今日の世界において、自らのアイデンティティーを大切にしながら、相手の文化・伝統を理解し尊重することが、真の相互理解であると思うからであります。

親愛なるジャック、貴方は、この考えを自ら実践されています。昨年の日・EU定期首脳協議で、私ども日本側代表団がエリゼ宮にお招きいただいた際、貴方はギメ東洋美術館より運び込まれた素晴らしい古美術品を披露して下さり、私たちは、貴方の日本文化へのご造詣の深さ、展示品の豪華さに感動いたしました。また、現在パリで開催されている「興福寺展」にも、三度も足を運ばれ、更に薪能も鑑賞されたと聞き、改めて貴方のわが国文化に対するご関心の高さに感服したところです。

今夕は、貴方のこのような熱意に負けないよう、そして、いささか早いのですが二十九日のお誕生日をお祝いする意味も込めて、貴方のお好きな縄文・弥生時代の作品をはじめ、我が国の一級の文化財を陳列させました。お楽しみいただければ幸いです。

ご列席の皆様

それでは、ジャック及び令夫人のご健康とますますのご活躍、並びに今回のご滞在が思い出深いものとなることを祈念し、さらにフランス共和国及び国民の一層の繁栄をお祈りして、ここに杯を上げたいと思います。