データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・EU首脳会談後の共同記者会見

[場所] オランダ
[年月日] 1997年6月27日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),374−380頁.
[備考] 
[全文]

 二十六日午後、当国ハーグ市ビネンホプ内ロルの間において、約三十分にわたり行われた日・EU共同記者会見の概要以下の通り。(橋本総理、コック・オランダ首相、サンテール欧州委員会委員長、及び、ファン・デル・ブルーフ・オランダ政府情報総局次長(司会)出席)

一、各首脳発言

○コック首相 当地ハーグ市は六年前に日・EU共同宣言が発出された場所であり、今回は出発点に戻るという意味で、当地において日・EU首脳会談が開催されました。また、短時間ながら日・蘭のバイ会合が開催されたことも欣快です。この会合はバイの協力が強化される中で行われた会合でありました。二〇〇〇年は日蘭修好四百周年の年であります。こうした中でもちろん過去を無視することはできません。だからこそ、今日、バイの会合を持てたことは、大変な誇りであり、喜びでありました。

 日・EU首脳協議では、いくつかの点について話し合いました。まず、EUの拡大のベースを作り、九九年ユーロ導入についてのべースを作ったアムステルダム欧州理事会に関しての報告を行いました。ユーロの基準を維持しながら、できる限り多くの国に参加してほしいとの趣旨であります。続いて、日本における改革プログラムについてのご説明がありました。日欧関係は、対話と協力の関係にあります。今回の会合では、さらにあらゆる分野での検討を模索し、深めていくことについて合意しました。世界経済での大きな立場を占める日本とEUが、各々の責任を果たしていこうということで話し合いを行いました。貿易関係についても話し合いました。貿易不均衡はさらに検討を進めるべき問題であります。また、長年にわたって規制緩和についての対話も日・EU間で行われてきました。その対話をさらに強化、継続していくことにつき本日合意しました。さらに、日本における流通構造に関する検討と対話を深めていくことも決定しました。また、医療機器の検査の問題は、日本側で本年十二月一日より受け入れるということになり、事態はかなり容易になりました。さらに、日・EUに係わりのある分野について、今後の相互承認制度(スタンダードや規範)の改善についても話し合いました。これについては、最終段階というところまではきていませんが、よい進捗が見られました。

 さらに、国際政治についてもデンバー・サミットで取り上げられた項目等に関してかなり深い討議が行われました。また、ニューヨークでの国連環境特総で討議されたことについても言及されました。日・EU政治対話は今後ともさらに強化されていくといえましょう。政治対話の目的は、日・EU関係で経済の占めるウェートを政治分野まで敷延させることにあります。国際社会における重要問題として環境、高齢化、テロリズム、人口問題等があります。高齢化問題については、橋本総理が世界福祉構想という非常に重要なイニシアチブをG7でとられました。

 最後に、橋本総理のご来訪、特に、討議の内容がすばらしいものであったということについて感謝申し上げたく思います。会合は、友好的雰囲気の中で行われ、日・EU協力を強化していく土台になったと思います。

○総理 本日非常に有益な話し合いができ、真に欣快です。先般の欧州首脳会議でマーストリヒト条約改正案が合意されたわけでありますが、この欧什統合の進展が、欧州地域だけでなく、世界の安定と繁栄にも必ず寄与するものと信じて、私は歓迎の意を表明しました。こうした新しい段階を迎えた欧州と日本の関係を一層緊密なものにする上で、今回の会合は非常に有効なものであったと思います。そして、細かい議論を行いましたが、特に経済問題では冷静な議論を尽くしながら懸案を一つ一つ解決して、双方が国際経済に占める地位に十分留意しながら貿易投資をさらに拡大するために協力することで一致しました。

 国際情勢についても、今お話があ一たように、中国、朝鮮半島、ミャンマー等幅広い議論をしました。また、協力関係を強化するため、あらゆるレベルで日欧対話の拡大を図っていくということでも一致しました。次回のASEM会合の成功のため協力していくことについても一致しました。

 さらに、グローバルな分野である環境、麻薬、福祉及ぴ組織犯罪の分野でも、我々は協力を強めていきます。ことに、今年京都で開かれる第三回気候変動枠組条約締約国会議の成功に向けて、EUは自らの提案を出しておられますが、日本は議長国として、これをまとめることに全力を尽くしていくと申し上げました。日・EU間には包括的なパートナーとしての関係は十分にできていますが、この関係を基礎として、さらにより深いものとしていきたいと我々は考えております。

 また、コック首相は実はEUの責任者としての帽子と、オランダ首相としての帽子をかぶ。ておられるわけですが、オランダと日本のバイの対話も非常に友好的なものでありました。我々は、実は多少不幸な関係を作ってしまったわけですが、それを越えて四百年の長い交流の歴史を有する日蘭両国が一層友情を深めていく努力をしていきたいと申し上げたところであります。

○サンテール欧州委員会委員長 本日の会合は、すばらしい首脳協議であり、非常に建設的な環境の下に行われました。本日の協議でも明かなように、日・EU関係は政治的にも重要な側面を強めてきました。経済パートナーシップだけでなく、非常に強力な政治的同盟を形成して、世界及び欧州、アジアにおける我々の役割を強化していかなければなりません。また、密接な協力を対外政策関係において行っていかなければなりません。これは、日本がアジアのみならずそれ以外の地域においても、平和、安定、経済繁栄という観点で地位を高めてきたことによるものであり、また欧州においては、さらに統合が進んできた結果によるものであります。今日は、我々の共通のコミットメントを再確認しました。すなわち、中国のWTO加盟問題、WTO金融サービス交渉締結、さらには積極的に我々のWTO

作業プログラムを追求していくといったことであります。

 経済面では、総合的にバランスのとれた相互承認制度に関する話し合いを行っていくことに同意しました。さらには、流通に関する対話を始めようということで合意しました。規制緩和に関して高級担当者が年に一回会合を開くことになりました。さらに不幸な状況としては、過去一年間の貿易赤字があります。EUの対日赤字が過去三か月間増大していることは、懸念の根拠となっています。これは先程申し上げたような展開が出てきて非常によかったと思います。

 気候変動に関しては、EUは、明確な態度を示しています。二〇一〇年までに、温室効果をもたらすガスを一五%削減するということを明記しています。また、十二月の京都会議の成功に向けて双方努力することについても同意しました。

 アムステルダム欧州理事会についても話し合いました。ユーロは軌道に乗っており、重要国際通貨となるべく非常に重要な過程にあり、日本を含む欧州の貿易相手国にとっても、重要な通貨となるであろうといわれています。橋本総理の前向きのアプローチを非常にうれしく思っており、また、ユーロが実際に誕生した際には、日本はユーロを重要視することにつき総理に支持していただき大変ありがたく思っております。

二、質疑応答

 − 今日の定期首脳会議でもEU側から貿易の不均衡問題について懸念を表明され、総理は今後もう増えることはないというふうに言われていましたけれども、日本政府としてEU側の懸念を少しでも和らげるための方策があればお聞かせ下さい。

○総理 既に私たちそれぞれの立場から触れたように、例えばさまざまなべースでの話し合いを新たな項目で始めます。流通分野についてもそうです。規制緩和もそうです。そしてここ数年間のEUと日本の間の貿易収支は次第に改善されてきました。確かにこの一月から五月までの間の数字を見ると、EUからの輸入も六%も増えているんですが、我が国の輸出の方がそれを上回ってしまっている。その点で懸念をもたれることは、私も理解できないわけではありません。ただ、これは一時的な現象であり、短期的な変動があるにしても、中期的に大幅に拡大するとは私は考えていないし、日本としては内需中心の経済運営というものにこれからも努めていくということをご説明申し上げます。

 そして併せてもう一つ、皆さん黒字、赤字の方ばかりを言われるんですけれども、私はEUから日本に対する投資も増やしていただきたいというお願いをしたのです。今日本がEUに対して投資している額の六分の一しかEUから日本に投資していただいておりません。この点では、オランダの帽子を被ったときのコックさんは非常に威張っていて、オランダはその中で成績がいいんだと言われるんですけれども、それは確かにその通りですが、しかし、日本がEUに投資している六分の一しか日本にヨーロッパからの投資がないという状況は変わりません。我々も努力します。しかし、我々も同じように投資を求めたい。今日そんな議論もさせていただきました。

○コック首相 これも本当に誇りを持って言えるんですけれども、オランダは日本において第二位の投資国です。金額は非常に小さいんですけれども。オランダにおいてこういつた状況があるということは、我々もまた国際投資において相対的な役割を果たすべきだということです。ですから、ここでは対日投資ということでは実行していく上でかなりの可能性があるということです。また、そのうちのかなりの部分は、現在日本において外国からの投資についてのオファーが十分出てきているというところにあると思います。ですから、ただいまのご意見は我々にとってかなりのチャレンジです。欧州におきましては、全般的に潜在的可能性はあるといえると思います。日本への対外投資の可能性があり、また、橋本総理がおっしゃったということでもあり、それを実現しなければなりません。

 − 橋本総理に質問がございます。ヨーロッパの金融市場についてですが、今日日本からの報告がございまして、特にメーカー側からの信頼がいろいろあると聞いておりますが、ここで日本の金利を見直す、そしてまたこれが日本の貿易黒字を更に増やすことになってしまうのではないかと考えておりますが、その点についてご意見を伺わせていただきたいと思います。

○総理 金利だけは実は中央銀行の専轄で、私は答えることを許されていないテーマなんです。その上で、日本自身が今、金融システムを改革している最中ですから、これからいろいろな変化が当然のことながら起きてくるでしょう。そして、私たちは、ヨーロッパで今生まれようとしているユーロという新しい通貨が誕生する時には、しっかりした安定したものになって欲しい。同時に、円もローカル・カレンシーの地位に甘んずるつもりはありませんから、今進めている金融システムの改革をそれまでには仕上げて行きたい。これも我々にとって大きな挑戦ですが、今努力をしている最中です。

 − 一つお伺いしたいんですけれども、今日の会合の中でもウルグアイ・ラウンドに続くニューラウンドのことが話題になったと伺っているんですが、このニューラウンドの開始について、現在EUはどのようなお考えをお持ちなんでしょうか。

○サンテール欧州委員会委員長 ウルグアイ・ラウンド関連の動きについてのご質問だと思いましたが、私どもどうやって包括的なパッケージを造り上げることができるのか、今世紀末までに、あるいは来世紀初頭にできるのか。ウルグアイ・ラウンドのようなものを始めるのは早いと思います。今は何か包括的なパッケージを出すということも必要でしょうけれども、それと同時に、ヒれにっきましては、パートナーとその包括的なパッケージを造り上げるという方向で話しをしていく必要があると思いますけれども、今日や明日のことを考えなければいけない。ですから、新しいウルグアイ・ラウンドといいますか、どんな名前になりますか、次の名前になるわけでしょうけれども、今世紀末や来世紀の初頭についてこれから考えていくということだと思います。

 − 橋本総理に質問がございます。日本とオランダの関係のことをおっしゃいました。しかし、また、歴史の中には不幸な事件があるとおっしゃいました。ここで何十人かの第二次大戦の犠牲者のデモがあったことでございます。しかし、日本がこれを許したと、そしてまた、公けの場での謝罪を要求しているのですが、そのようなことをお考えなのでしょうか。

○総理 われわれは過去にあったことを否定することはできません。そして日本は一九九五年の八月十五日、ちょうど第二次世界大戦に日本が敗れたその日ですから、五十年経ったその日ですが、当時の内閣が、村山内閣総理大臣談話というものを内閣として正式に発表しました。私もその閣僚の一人として、これに署名をしましたが、お国を含め多くの国の人々に対してわれわれは多大の損害と苦痛を与えた。この事実を率直に受け止めながら、これらに対する深い反省とお詫びの気持ちを持って、これからの世界の中で努力していく、これは、日本政府としてかつて正式に発表した声明です。そして、私自身がその宣言文、その文章を創った一人でした。そしてその気持ちは今も変わりません。そして同時に、国際法的に議論する、そういうことだけではなく、いまオランダにおける戦争犠牲者の代表の方々と、日本のオランダに駐在する大使がずっと話し合いを続けてきていますが、これからもこういう対話はわれわれは続けていきたいと思います。同時に今日、いまデモのお話もありました。そして私も先ほどコック首相に申し上げたことですが、このあと慰霊碑に、記念碑にお参りをさせていただきたいと思っています。それを受け入れていただけるかどうか、これはオランダの皆様の気持ちですが、私としては、この犠牲者の碑にきちんと頭を下げて、申し訳なかったという気持ちを表して、その上でこの国を離れたい、そう思っています。