データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・北欧首脳会談後の共同記者会見

[場所] 
[年月日] 1997年6月26日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),381−386頁.
[備考] 
[全文]

 六月二十六日、日・北欧首脳会談に続き、十八時十五分から約二十五分間、共同記者会見が開催された。概要次の通り(出席者・・・橋本総理及び北欧五か国首脳。我が方同席者…与謝野官房副長官)。

一、冒頭発言

(一)ヤーグラン・ノールウェー首相

 北欧諸国を代表して、橋本総理をベルゲンにお迎えでき、大きな喜びである。この首脳会談は第一回で、歴史的な会談である。北欧側では、私たちを含め、日本がアジアで最も重要な政治的経済的パートナーであると考えている。日本が国際舞台で積極的な役割を果たしていることを歓迎する。そして、定期的な対話を北欧諸国と日本との間で行うことを歓迎する。

 多岐にわたる話題を話し合った。一つは、我々と日本との間で協力を全般にわたって高めるということ。更に、北欧及びアジアの地域情勢についての話し合いを行った。その中には、ロシアとの協力を高めるということが共通の利益になるという話があった。そのほかに国連改革の話もあったし、貧困に対応する必要性、技術を最貧国に移転する必要性についても話した。また、野心的な、法的拘束力のある、気候変動についての協力の必要性についても話した。そして、最後のところで橋本総理の方から、G7サミットの枠組みの中で出された世界福祉構想についての説明があった。私の方でも高齢化について懸念を表明した。福祉政策、労働政策についても意見を交換した。望むらくは、来年またお目にかかるときに、このような話題について話し合いたいと思っている。

(二)橋本総理`

 五か国の首脳がこうして集まっていただき、このベルゲンで日本と北欧との初めての首脳会議を開くことができた。しかも、今日の会談は非常に実りの多い会談であった。国際情勢の他にも、国連改革、環境、社会福祉等、いろいろな議論をすることができた。できればこの会合を続けたい、私は心からそう願っている。

 国際情勢については、北欧諸国より、北欧周辺地域でロシアあるいはバルト諸国を含む各国との協力が、安定した形で進んでいるという話しを伺った。私の方から、最近のアジア情勢に関し、香港を含む中国情勢、朝鮮半島情勢、ミャンマーの問題について説明した。特に、中国については、中国が国際社会における建設的。パートナーとしての地位を固めていくようにすることが重要であると申し上げた。

 国連改革については、安保理早期改革実現のための積極的取組み、国連改革を全体として均衡のとれた形で実現していくこと、これはお互いに共通するテーマであった。そして、日本の国際貢献についても、さまざまな分野で評価をいただくと同時に、これからも積極的な貢献を続けて欲しいとのご要望をいただいた。

 環境分野については、北欧各国の見解をご紹介いただくと同時に、私から、デンバー・サミットでの議論を紹介し、二〇一〇年までに温室効果ガスを削減する、結果をもたらすような、意味のある、現実的かつ衡平な目標にコミットする意思があることでG8が一致したことを申し上げた。また、環境分野においても、我々は積極的な協力をしていくことになる。

 社会福祉の分野では、昨年のリヨン・サミットで私が提唱した「世界福祉構想」を説明すると同時に、デンバー・サミットにおける議論、そしてその中から生まれたものについての説明をした。殊に高齢化社会というものを考えたとき、北欧諸国は比較的長い時間をかけてなだらかに高齢化に突入していったが、我が国は出生率の低下と相まって極めて急再度に高齢化社会に入っている。同じ高齢化社会というものについて、その状況の違いを踏まえた上で、お互いの経験を交流させていくことは、必ずいい結果を生むだろう、ということを我々は考えたわけで、こうしたデータの交換もこれから進めていくことになる。

 本日の議論を通じ、改めて、北欧諸国が地球規模の問題に関心を持ち、既に行動し、成果を上げている、同時に、日本と北欧が知見とビジョンを共有するパートナーとして協力することが重要であるということを改めて感じた。今後ともさまざまなチャンネルを通じ、今回の会談でスタートした日本と北欧との協力のモメンタムを維持していきたい。今後も日本と北欧の首脳会談を開催していきたいと申し上げ、歓迎の意思を表明していただいた。

二、質疑応答

 − 福祉先進国である北欧五か国の首脳との会談で、どういう点を学び日本の政策に反映させたいのか。データの交換については、どのような点で行いたいと考えているのか。

○総理 データの交換という点に答えれば、昨年の沖縄で行われた東アジア福祉担当閣僚会議の際に、過去の日本の社会保障、福祉行政に関する精繊な資料を作った。英文の資料も作ってあるので、これを早急に送付し、皆さんの方からも問題提起をしていただければと思っている。特に私の方で参考になったことは、なだらかなかたちで高齢化社会になった北欧の皆さんの体験の中から出たことである。高齢者雇用について非常に良いいくつかのアドバイスを得た。デンバー・サミットでもお年寄りは社会で無力な存在として扱うのではなく、それぞれの自覚と選択の中でその存在の意義を明らかにしていくという方向を確認したので、これから議論をしていく上で非常に良い勉強になると思う。世代間同居率の高い日本と比較的低い北欧諸国との体験の中で自ずと政策の違いはあるであろう。OECDでは、この構想の一環として社会保障に関する国別報告書の取りまとめ、あるいは高齢化研究の作業を行っており、こういう作業にも北欧諸国とともに取り組んでいきたい。そういった中で新しいテーマも生まれて来るであろう。

 − 気候変動枠組み条約第三回締約国会議に向けて共同戦略について話し合ったのか。

○ヤーグラン・ノールウエイ首相共同戦略は話し合わなかったが、京都会議については話をした。その結果、拘束力のある気候変動に関する合意を京都で達成しなければならない、その必要性については合意した。もちろん、その見解については相違はあるが、野心的な気候変動に関する合意を達成しなければならないということでは合意した。

 − 今日の議論では、安保理改革については意見の一致は見られたか。日本は常任理事国入りを希望しているが、北欧五か国はどのような見解を持っているのか。

○ヤーグラン・ノールウエイ首相 ノールウエイ政府としては、日本は安保理の新たな常任理事国になるべきであるとの立場である。これは私の確固たる立場である。この点は総理にもお話しした。

○オッドソン・アイスランド首相 アイスランドとしても、ノールウエイ首相が述べたことを支持する。安保理は大きくなりすぎてもいけないが、日本やドイツのような主要国が常任理事国になる時であると思っている。それは国連が将来きちんと機能するためにも必要である。

 − 日本にとっては、十二月のCOPIII京都会議でどのような形で二酸化炭素を削減できるかが非常に重要な課題である。EUの一律一五%削減の案と日米の立場が食い違っている。EUのメンバーではないノールウエイ及びアイスランドの首脳とEUの代表としてスウエーデンの首相に見解を伺いたい。

○ヤーグラン・ノールウエイ首相 まず、EUの提案について国連で二日前に言った事は、EUの立場を支持するということである。つまり温室効果ガスを二〇一〇年までに一五%削減するという立場を支持するということである。私が申し上げているのはCO2ばかりではなく、すべての温室効果ガスについて語っている。

 更に強調したのは、差別化が必要であること、費用対効果に関する合意が必要であるということである。今日昼食時に総理にお話ししたが、欧州がロシア産のガスをノールウエイ産ガスに代えて使用したら、欧州での二酸化炭素の排出が七倍に増える。なぜならばロシア側のパイプラインで洩れが生じるからである。だから、ロシア側のパイプに投資する方が、巨額の資金を、我々の側でささやかな削減をするために投資するよりも、費用対効果は高い。好ましい気候変動に関する合意を達成するためには、費用対効果の点は重要である。また、我が国はEUの立場にも参加しているが、差別化も重要である。EUの立場を支持するということは二日前の国連の場でも申し上げたことである。

○パーシヨン・スウエーデン首相 EUの立場を申し上げれば、ノールウエイの支持をうれしく思う。一五%削減は、ささやかな第一歩とみなすべきである。スウエーデンとしては先駆者になりたい。積極的に追加的な措置を推進していきたい。いずれにしてもこれは第一歩で、この一五%削減目標で歩調を合わせることが出来た。京都でも歩調を合わせ、その目標に向かって他国の支持も得られればと思っている。

○オッドソン・アイスランド首相 アイスランドはEUの提案のメンバーではないが、一五%削減については、どこの点から削減するかという点で違うということを指摘したい。たとえば、百五十kgの人がいて、七十五kgの人がいるとすれば、双方ともに五十kgを減らすということになると、余り体重が残らない人もいる。個々の状況に応じた対応をすべきである。課税等によって地球温暖化に対抗しようとしている人がいる。確かにそういう案も重要であるが、忘れてはならないのは、その資金を実際に取組み可能な環境問題に使うということである。政治家はあまりに多くの問題に資金を使いたがる。地球温暖化の問題にしても、たとえば資金を遠大な海洋の問題に使いたがる。実際に行動可能なところ、たとえば河川に資金を使うことを考えるべきである。

○デンマーク・ラスムセン首相 単刀直入に申し上げて、リオのサミット後、何が正しくて何が間違っているかが分かってきた。知識を巡る議論の段階は過ぎた。温室効果ガス、そしてその気候に対する影響については、議論の段階は過ぎた。今は行動の時である。そして、流れを逆転させなければいけない。だから、京都では我々は決定を下さなければならない。率直に申し上げて、世界全体のパートナーと合意することに関しては、欧州連合と日本との間では難しいことであるとは思わない。むしろ、他の国々と交渉しなければいけない。まず、その先頭に立つ立場として、北欧諸国がEUと日本と手を組んで、パートナーシップを組み、好ましい成果を京都会議から生みだそうではないか。更に、この議題について、橋本総理には、国連特総で発言されたことに感謝したい。なぜならぱ、最貧国に対して我々がしなければならないのは、グリーン・テクノロジーを輸出するということであり、そしてグリーン知識についての訓練、協力を進めることであるからだ。今日、再生可能なエネルギーとしては風力、太陽エネルギーなどがある。既に我々の知識は相当高くなっている。我が国の場合には、既に世界の風力エネルギーの六〇%をデンマークが輸出している。十年前にやっていたことよりもはるかに今はできるようになっている。いろいろとやらなければいけないこともあるとも考えている。

○橋本総理 各国首脳が今述べられた、京都会議をなんとしても成功に終わらせなければならないとの決意を示していただいたことを、EUに入っている国、入っていない国を含めて、非常に高く評価している。我々は実行可能な、しかも衡平な議定書を京都でどんなことがあっても作らなければならない。今各国の間で意見の開きがある。しかし、我々は効果的でしかも衡平な議定書を作らなければならない。皆さんにも協力をしていただきたい。マスコミの協力を得られるかどうかも、この問題を進めていく上での大事な鍵である。どうぞよろしくお願いします。