データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本・EU定期首脳協議共同プレス発表

[場所] 東京
[年月日] 1998年1月12日
[出典] 外交青書42号,261−265頁.
[備考] 
[全文]

 橋本龍太郎日本国内閣総理大臣、ブレア欧州理事会議長及びジャック・サンテール欧州委員会委員長は、1998年1月12日、東京で第7回日・EU定期首脳協議を行った。

 首脳協議の参加者は、1997年のハーグでの首脳協議以来の日・EU関係の一層の進展を歓迎し、対話と協調を通して、地域情勢及び世界情勢における共通の目標を達成するための新しい機会を活用することを探求すると強調した。

 日本とEUは、アジアの長期的な経済展望に信頼を表明したーアジア経済のファンダメンタルズは基本的に健全と見られる。しかしながら、双方は、現在のアジア金融・証券市場の不安定が地域経済及び世界経済に引き続き大きな影響をもたらすことを認識した。双方は、現在の状況において、アジア諸国が適切なマクロ経済運営、金融部門の再編成及び監視機能の改善、並びに金融市場の開放の促進、規制緩和その他の構造的措置(人材育成、中小企業育成等)を含む貿易の自由化を通じて安定と経済面での信頼を回復するために行っている改革努力を支えるために、時宜を得てかつ効果的に支援することの重要性を強調した。経済改革措置の迅速かつ完全な実施がその成功の見通しを高めることが認識された。双方は、これらの努力を支援するために、多国間金融機関、特にIMF、世界銀行及びアジア開発銀行を通じて、緊密に協力していく決意を表明した。

 日本側は、その経済政策が日本の経済を再活性化し、金融システムの安定を回復するために策定されたことを説明し、また、規制緩和プロセスを継続する決意を表明した。日本側は、日本の経済状況がアジア地域内及び世界経済の成長及び金融の安定を維持していく上で特に重要な役割を果たすことを認識した。EU側は日本経済のファンダメンタルズの強さに信頼を表明し、効果的かつ時宜を得た経済政策の実施を通じてこうした目的が達成されるであろうとの日本側説明を歓迎した。

 EU側は、経済通貨統合(EMU)達成に向けてなされた進展及びEU拡大のプロセスを紹介した。健全なマクロ経済政策及び構造政策により支えられたEMUの成功及びEU拡大が、欧州の成長と安定に寄与し、世界の他の地域に対して好ましい影響を及ぼすことが説明された。日本側は、この説明及びEMUと拡大を達成するためにEUが行っている努力を歓迎するとともに、これらの努力は国際社会全体の利益となる方法で進められるべきであるとの見解を表明した。

 参加者は、EMU関連事項の議論を含むマクロ経済事項に関する対話を継続していくとの意図を確認した。参加者は、更に、ビジネス界がユーロ導入により提供される機会を捉えるよう十分に備えることを支援するため、協力していく。

 双方は、グローバル化の進展に伴い、日本と欧州連合それぞれを取り巻く経済の諸条件が緊密に相互依存し、相互に重要な影響を与えるようになったことに留意するとともに、これにかんがみて、両者間での対話を深めていく必要性を強調した。

政治対話

 首脳協議参加者は、政治対話の機会が充実し、率直かつ生産的な意見交換及び国際情勢に対するより効果的な対応が行われていることを歓迎した。

 双方は、ロシアと国際社会との間のより緊密な絆を構築することに貢献することを確認した。

 双方は、旧ユーゴーにおける和平プロセスを促進するとのコミットメントを確認し、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおいてデイトン合意を実施することが重要であること及び再建プロセスに貢献する用意があることを強調した。

 双方は、中東和平プロセスに対する支援を継続していくことの重要性を強調した。双方は、対話を通じてイランの政策変更を引き続き奨励するとともに、イラクに対しては国連安保理の関連の決議に基づく義務を全て履行するよう求めていく。

 双方は、アフガニスタンにおける紛争解決のための国連の努力に積極的に貢献していく。

 双方は、中国の国際社会との結びつきをより一層強化すべく協力する。双方は、7月1日以降の香港の「一国二制度」の考え方の下での、円滑な進展を歓迎し、香港特別行政区との協力を共に促進する。

 双方は、朝鮮半島における公的な南北対話の成立を促進し、北朝鮮が四者会合への建設的な参加を継続していくことを奨励するため、朝鮮半島における恒久的平和を達成することの重要性を確認した。双方は、KEDOに対する継続した支援の重要性を強調した。

 双方は、4月の第2回ASEM首脳会合が成功するよう協力するとともに、アジア・欧州間の積極的な対話、協力及び人と人との交流をASEMを通じて促進していく。

 双方は、カンボディアにおいて和平を回復する必要性を強調するとともに、カンボディア関係機関に対し、帰還政治家の安全を保障するとの約束を遵守しつつ、本年の自由かつ公正な選挙を確保するよう促した。双方は、選挙プロセスに対する国際的支援の提供に向け協力している。

 双方は、ミャンマー政府(SPDC)に対し国民和解のため反対派との実質的対話に乗り出すよう要求した。

 双方は、安保理改革を始めとする国連の改革がバランスのとれた形で行われるべきである点で意見の一致をみた。双方は、国連事務総長の改革提案の早期実施を支持することを確認した。双方はまた、国連の財政困難の解決に向けて協力する。

 双方は、国連における日本のイニシアティヴを含む小火器に関するイニシアティヴを支持し、小火器の不法取引及びその他の問題に取り組むことを目的とした補足的な政策を促進するための情報交換を行う。

経済関係{前4文字下線}

 双方は、1997年に多数の日・EU間貿易紛争が成功裡に解決されたことを歓迎するとともに、他の紛争についても、協力の精神で国際約束及び政治的コミットメントに従って解決していくことの重要性を強調した。

 EU側は、昨年における日本の対外黒字の急速な増加を指摘した。日本側は、この黒字増加は、中長期的には、内需主導の力強い成長につながる構造改革を通じて減少することが期待されることを説明した。

 双方は、日・EU間の双方向の貿易及び投資を一層促進していくことへの努力を認識しつつ、対外投資に好ましい環境を提供するための諸政策を追求していく決意を再確認した。

 双方は、規制緩和が構造面及び規制面での障壁を取り除くことにより、経済活動及び経済成長を刺激する上で果たす重要な役割を認識した。この関連で、日本側は、1998年度を初年度とする新たな規制緩和3か年計画を策定すること、及び、当面、民間有識者を中心とする新たな規制緩和委員会を設置するとの決定を説明した。EU側は、更なる規制緩和計画を開始するとの日本側の決定を歓迎するとともに、同計画が日本経済の広範な諸分野にわたって早期に実施されることへの期待を表明した。この関連で、EU側は、市場アクセス改善のための規制緩和の重要性を強調した。双方は、双方向の規制緩和対話を深めていく過程で、双方の規制緩和の経験の蓄積から学ぶことの重要性を強調した。

 双方は、前回の首脳協議以降、相互承認協力(MRA)協議で達成された進展を歓迎するとともに、可能な限り早期に広範囲な対象とする相互承認協力の実現を目指すべく作業を加速し強化することの重要性を再確認した。

 EU側は、車両規則に関する国連欧州経済委員会1958年協定への1998年の加入に向けた日本政府の努力を歓迎し、この分野における日本との更なる協力強化への期待を表明した。

 双方は、知的所有権が全世界で適切かつ効果的に保護され、このためのコミットメントが完全に尊重されることを確保するため、適切な場合には協力していく。

 双方は、電子商取引のもたらす機会と課題に関し、将来の協力を発展させていくため、意見及び経験に関する情報交換を行う必要性を認識した。

 双方は、50年に亘る多角的貿易体制の下での貿易自由化、及び、最近のWTO金融サービス交渉の成功裡妥結といった成果を踏まえ、多角的貿易体制を強化し、WTOの下で更なる広範な多角的貿易自由化を推進するため協力することを決意している。こうした共同の努力の一部として、双方は、5月のWTO閣僚会議を成功させるよう努め、WTOのビルト・イン・アジェンダの諸規定及びそのタイムテーブルの完全な尊重へのコミットメントを再確認するとともに、特に投資、競争政策、政府調達の透明性及び貿易円滑化の各分野の作業計画を更に推進する。双方は、また、中国及びロシアを含むすべての加盟申請国・地域が商業的に意味のある条件でWTOに加盟することを引き続き促進すること、及び後発開発途上国の世界貿易への一層の統合を継続的に促進することにより、WTOの普遍性を強化するためともに作業を行っていく。双方は、多角的貿易体制の優位性、及び地域統合がWTOルールと整合的であるとともに外向きであるべきであることを再確認した。

 双方は、1998年のOECD閣僚理事会までの多数国間投資協定(MAI)の交渉終了を目指す交渉の成功に向け緊密に協力していくことの重要性を強調した。

 双方はまた、それぞれの経済情勢の変化に対しより効果的に対応するために、民間からの焦点を絞った有益な貢献を慫慂する意図を確認した。

日・EU協力{前6文字下線}

 日・EU協力は、幅広い分野において進展してきており、双方は、当該活動を拡大、深化させる意図を表明した。双方は、日・EU協力週間が、日・EU関係の主要な要素についての理解を高めたと認識した。EU側は、フォローアップとなる行事を行うとの意図を確認した。双方は、日・EU関係のヴィジヴィリティー高めるための更なる措置をとる。

<地雷分野>

 オタワ会議での成果に続き、双方は、普遍的かつ実効的な対人地雷禁止を実現すべく種々のフォーラムにおいて協力する意図を確認した。双方は、地雷除去及び犠牲者支援の分野についての国際的な取組を強化する必要性を支持した。そのために、双方は、国連の枠組みの中での調整を含む国際的な調整の強化及び被埋設国における地雷対策センターなどの機構を十分に活用しつつ、具体的な協力の可能性を探求することを決定した。

<援助協力>

 双方は、主要援助国が、最も大きな経済的及び社会的な開発ニーズに配慮した統合されたアプローチの範囲の中で、健全な経済政策及び政治改革を推進している国に焦点を当てて、開発途上国への効率的・効果的な援助実施のために協力することが重要であることにつき意見の一致をみた。双方は、98年10月に開催される「第2回アフリカ開発会議」が、貧困撲滅目標及びその他の国際的に認められた援助目標を含むDACの新開発戦略を推進する重要な機会の一つとなることを確認した。双方は、本年中に援助政策協議を開催することも決定した。

−双方は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナにおける日・EUの援助協調及び、適当な場があれば、このような個別プロジェクト・レベルでの協力を進めていくことにつき意見の一致をみた。

−双方は、人道援助に関しても、専門家会合を含む協力を推進するために更に努力を行っていくことを意図する。

<社会保障・雇用>

 双方は、1997年11月の神戸雇用会議における議論を踏まえ、来月ロンドンで開催される成長と雇用に関する8ヶ国会合及びバーミンガムG8サミットにおいて協力する。双方は、「世界福祉構想」実現に向けた一歩として、双方がOECD、特に1998年6月の社会保障閣僚会議等の場を活用しつつ、高齢化社会に関連する諸問題を含む社会保障の政策分野における意見交換を一層促進すべきであるとの見解を共有した。

<環境協力>

 先般の気候変動枠組条約第3回締約国会議の成功を歓迎し、双方は、京都議定書の成功は、京都で合意された取り決めの詳細な実施及び開発途上国の参加に関する国際的なコンセンサスの形成に向けた更なる進展にかかっていることを確認した。双方は、環境分野及び持続的開発分野において幅広い協力を行う決心を表明した。双方は、日・EU環境ハイレベル協議の範囲を拡大、深化させる見通しを歓迎した。

双方は、エネルギー、科学、研究、技術、高等教育、及び日・EU青年交流などの分野における協力を更に強化し高めていく。

 双方は、原子力の平和的利用に関する長期的な、かつ安定した協力のための、準備プロセスを進展させなければならないとの見解を共有した。

双方は、マネー・ロンダリングに関するASEMにおける協力を促進し、この脅威に対処するための適当な地域グループの進展を促す。双方は、3月に東京で開催されるアジア太平洋グループ会合及び4月のASEM首脳協議において協力について議論することを慫慂する。