データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] フェリペ・スペイン皇太子殿下歓迎晩餐会における橋本内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1998年3月24日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),492−493頁.
[備考] 
[全文]

フェリペ皇太子殿下、ご列席の皆様

 今夕ここに、フェリペ・スペイン皇太子殿下をお迎えすることは、我が国国民、政府及び私にとってこの上ない光栄であります。

 スペインと我が国は四百五十年も前から交流がありました。聖フランシスコ・ザビエルの来日以来、スペインは我が国の近代への黎明に最も大きな影響を与えた国であります。

 本日ここにお招きしている支倉哲男さんから十五代さかのぼった支倉一族の俊英、支倉常長は、一六一五年にスペインを訪問し、フェリペ三世に謁見したのです。今から約三百八十年前のことです。

 話はこれで終わりではありません。当時、二百日にわたるこの大航海に同行した日本人の幾人かは、スペインに残ったといわれます。そして驚くべきことに、その子孫は、支倉哲男さんと同じくおそらく十五代余りにわたり、ハポン姓を名乗り、今日、スペイン社会で活躍されていると聞きます。

 この一事をもってしても、私たちは、歴史の流れを現実に生きていると感じざるを得ません。この絆を礎にして、今日、両国の関係は、非常に広範な分野に拡大し、大きな共感と友情の流れが出来ています。

 両国は世界でも最も大きな経済力を持つトップテンに入る国です。両国は経済的な交流を一層強化し、世界のためにも働こうとしております。

フェリペ皇太子殿下

 両国国民の間の親近感をいやが上にも強固にしているのは、皇室と王室の関係です。我が国皇族がスペインをご訪問したのは実に十一回を数え、その度に大変な歓迎を受けているところです。

 一方、国王同妃両陛下におかれましても、一九六二年に新婚旅行で初めて我が国を訪問されて以来、その後も、最近の長野オリンピックに際してのご訪問に至るまで、我が国をたびたび訪問いただいております。フェリペ皇太子殿下におかれまいては、一九九〇年の即位の礼にご参列いただいて以来、今回が二度目のご訪問であります。未来への理想に溢れ、また、オリンピックにも出場されたスポーツマンであられる皇太子殿下の訪日は、日本国民に大きな印象を残すに違いありません。

 ここで、私は、プロトコールという面倒くさいものを迂回して、一つ重大なご提案をさせていただきたいのであります。それは、フェリペ皇太子殿下に、将来、ご成婚祝儀と事が運ばれる際には、是非御両親陛下の例に倣って、我が国に新婚旅行でお越しいただきたい。日本国民はこぞって心からお祝い申し上げるに違いない。そう確信するものであります。

フェリペ皇太子殿下

 皇太子殿下のご健康とご活躍、またスペイン王室のいやさかを祈念し、更に日西両国の一層の友好を祈念してここに皆様と杯を上げたいと思います。

 乾杯