[文書名] 第16回日・EU定期首脳協議共同プレス声明
1.欧州理事会議長であるアンゲラ・メルケル・ドイツ連邦首相、これを補佐するハビエル・ソラナ共通外交政策上級代表及びジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長と、安倍晋三日本国内閣総理大臣は、6月5日、ベルリンにおいて、第16回日・EU定期首脳協議を行った。
2.日・EU首脳は、日・EU間の長年にわたるパートナーシップを一層強化することへの希望を再確認した。日・EUは、民主主義、法の支配、人権、及び市場経済といった基本的価値を共有している。日・EU首脳は、地球規模の気候変動やエネルギー安全保障の問題を含むグローバルな課題の解決に貢献するとのコミットメントで一致している。この関連において、日・EU首脳は、2001年に採択された日・EU協力のための行動計画の実施にあたり特筆すべき更なる前進があったことに留意し、次回日・EU定期首脳協議までに実施すべき優先事項を確定した(別添参照)。
国際的及びグローバルな問題
3.気候変動に関し、日・EUは、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガス(GHG)の濃度を安定化するために、緊急かつ力強い行動が必要であるとの共通理解に達した。この観点から、日・EUは、全ての主要排出国の参加を確保する公平、柔軟、実効的かつ包括的な国連の2013年以降の枠組みの進展に向け強力な指導力を発揮することにコミットする。この関連で、2007年末にバリで開催される国連気候変動会議は決定的な重要性を持つ。2012年の後の空白を回避するため、2013年以降の枠組みに関する交渉は可能な限り早期に妥結されるべきである。日・EU首脳は、温室効果ガス(GHG)の世界的排出量を2050年までに半減またはそれ以上削減するための長期的目標が策定されることが必要であるとの考えで一致した。日・EU首脳は、気候変動への対処において先進国が果たすべき継続した指導的役割を認識する。しかしながら、日・EU首脳は、先進国の努力では十分ではなく、その他諸国による公平な貢献を得るための新たなアプローチが必要であることを認識する。日・EUは、包括的合意の交渉及び妥結を促進するために、包括的な枠組み合意のための国連における交渉を支持する目的で、グレンイーグルズ対話を含むG8プロセス及びその他のフォーラムが、主要なエネルギー消費及び温室効果ガス排出国を建設的に関与させる重要な基盤を提供するとの考えを共有する。この関連で、日・EU首脳は、排出削減及びエネルギー効率向上のための技術の開発・移転、排出量取引、パフォーマンスに基づいた規制、消費者ラベル等の市場型措置の利用、気候変動による避けられない影響に対処するための適切な適応措置、及び途上国における森林破壊による排出削減問題への対処の重要性を認識する。日・EUは、適応措置の効果的な計画を支援する全球地球観測システム(GEOSS)等、気候変動研究及び関連の観測活動における協力を強化する。
日・EUは、双方の共通利益を強調するとともに、EUの新エネルギー戦略と日本の新・国家エネルギー戦略における共通性を認識し、以下(a)〜(i)の主要分野においてエネルギー安全保障に関する協力を強化する:
(a)世界市場における透明性、予見可能性及び安定性の向上、(b)エネルギー部門における投資環境の改善、(c)エネルギー効率及び省エネルギーの向上、(d)エネルギー・ミックスの多様化、(e)重要なエネルギーインフラの物理的な保全の確保、(f)エネルギー貧困の削減、(g)気候変動及び持続可能な開発への取組み、(h)非化石燃料、クリーンコール技術等の低炭素技術、再生可能エネルギー源(例:太陽エネルギー、風力、バイオ燃料)の使用の増進、(i)原子力エネルギーの選択肢を利用すると決定した国による原子力エネルギーの利用。エネルギー効率に関する新たな国際戦略が、国際エネルギー機関(IEA)との緊密な協力の下に展開されることとなっている。日・EUは、国連国際気候会議及び日本のG8議長国に向け、気候変動及びエネルギー分野における双方の協力を強化するために、更に議論を継続し、予定されるハイリゲンダムG8首脳協議での成功を期待する。
4.東アジアで形成されつつある地域枠組み(「アーキテクチャー」)に関し、EUは、東アジアにおける普遍的に認められた価値及びグローバルなルールを基礎とした、開かれかつ透明な地域協力を強化するための努力を歓迎し、日本がこの面で建設的かつ積極的な役割を果たしていることを評価した。日本は、EUが東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム、EU・ASEAN関係の強化、アジア欧州会合(ASEM)プロセスを通じて、アジア太平洋における地域の政治的枠組みに対して行っている建設的な貢献を歓迎した。日本は、EUの東アジア首脳会議プロセスへの関与に対する関心と、友好協力条約(TAC)に参加する意図を歓迎した。双方は、この地域に関する日・EU戦略的対話を継続して行うことの重要性を強調した。
5.EUは、日中関係の強化と深化に留意し、これを評価した。日・EU首脳は、中国が国際社会に対し開放的な改革政策の下、経済的に発展していることを歓迎し、中国が国際社会における責任ある建設的なパートナーであることの重要性を強調した。日本はEUの対中武器禁輸措置解除に対する反対を改めて表明した。
6.日・EUは朝鮮半島の非核化という目標への強固なコミットメントを再確認し、第一段階として2007年2月13日の六者会合で達成された合意と、国連安保理決議第1718号が迅速に実施されるべきであることを強調した。日・EU首脳は、北朝鮮の人権状況に対し、継続した、また、極めて深刻な懸念を表明した。EUは、拉致問題のできる限り速やかな解決を導くことを意図するあらゆる努力に対する強い支持を確認した。
7.アフガニスタン・コンパクトの着実な実施の重要性を認識し、日・EUは地方開発、警察・司法改革、非合法武装集団の解体(DIAG)の分野におけるアフガニスタンへの支援に関する緊密かつ効果的な協力を継続する。日本は、アフガニスタンにおける欧州安全保障防衛政策(ESDP)警察ミッションの開始を歓迎した。日本はESDPミッションと緊密に連携しつつ警察分野の改革の強化に貢献する意向があることを表明した。
8.日・EU首脳は、中央アジアに関する日・EU戦略的対話の有用性と、緊密な連携の重要性を強調した。日・EUは、透明性、地域協力及びドナー間の連携が、中央アジアにおける安定と繁栄を共同で強化するために不可欠であることを確信する。国境管理、水資源管理、保健、教育を含む人材開発、人権、民主主義及び法の支配は特に相互に関心を有している分野である。中央アジア諸国自らが強化された協力を望むことを特に表明している分野にも、相応の考慮が払われるべきである。
9.中東に関し、日・EUは、イラク、イラン、中東和平プロセス等といった諸課題に対処するための努力を一層強化するとのコミットメントを改めて表明した。双方はこの目的のために緊密な協力を継続する意思があることを再確認した。イランについては、日・EUはイランの核計画に対する深刻な懸念を表明した。日・EU首脳はイランが国際原子力機関(IAEA)理事会及び国連安全保障理事会により要求された措置を履行していないことに対する遺憾の意を表明し、この状況の平和的な解決に達することの重要性を再確認し、イランに対し、交渉が行えるよう濃縮計画を停止し、このためにIAEAと完全に協力するよう強く求めた。双方は、この問題について緊密な意見交換を継続することを決定した。
10.日・EU首脳は、国際社会が直面する様々な課題に取り組むために、2005年の国連首脳会合において採択され、同会合の成果文書で言及されている国連の主要機関の改革を含む、進行中の改革プロセスの実施の重要性を強調した。日・EU首脳はまた、人権理事会及び平和構築委員会の作業における一層の協力の重要性を強調した。
11.EUは、日本が今年、国際刑事裁判所に関するローマ規程を締結予定であることを強く歓迎した。
12.日・EU首脳は、持続可能な開発を通じた貧困削減及び人間の安全保障の促進のための協力を強化していくことの日・EUにとっての重要性を強調した。ミレニアム開発目標の達成に向け前進するために、グレンイーグルズにおいて表明されたアフリカ諸国を支援するとの戦略的なコミットメントを想起し、またハイリゲンダムで開かれる本年の主要8か国首脳会議(G8)でアフリカに焦点が当たることを指摘しつつ、日・EU首脳は、アフリカの課題としての主要な開発課題及び政治・安全保障問題に関する立場をよりよく調整していくことの重要性を認識すると共に、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)及び日本のG8議長国の準備のため緊密な協力を開始する重要性を認識した。日・EU首脳は、援助効果向上に関するパリ宣言に対するコミットメントを再確認すると共に、開発問題に関する高級事務レベル協議を開始することを決定した。日・EU首脳は、安定と持続可能な開発を確保するために地域機関が果たす重要かつ積極的な役割を強調した。
13.日・EU首脳は、世界貿易機関(WTO)に関し、ドーハ開発アジェンダ(DDA)を成功裡かつ迅速に妥結することが極めて重要であることを強調した。日・EU首脳は、野心的で、バランスのとれた包括的な合意に達するために緊密な協力を継続する。日・EU首脳は、全てのWTO加盟国に対し、そのような合意を達成するために貢献することを求めた。
日・EU関係
14.普遍的な価値と知識集約型社会への移行に向けた同様の戦略を共有する日・EUは、(a)テクノロジー面での競争力によって世界経済を主導し、(b)気候変動、環境及びエネルギーといった共通のグローバルな課題への取組に貢献し、(c)日・EUの人々に加えてそれ以外の地域の人々に繁栄をもたらすことを可能とするイノベーションを促進することの重要性を強調した。日・EU首脳は、日・EUがイノベーション分野で協力を更に強化できる領域を特定する目的で、付属文書「繁栄に向けた研究及びイノベーションの促進」を採択した。日・EU首脳は、相互に持続可能な繁栄を確保し、グローバルな日・EU関係を更に深化することを目的として、日・EU科学技術協力を速やかに強化することを決定し、また、科学技術協力協定の仮署名が近い将来行われることを期待した。2006年12月に発効した、原子力の平和的利用に関する協力協定は、不拡散及び高レベルの原子力安全・核セキュリティーへの日・EUのコミットメントを反映している。また、日・EU首脳は、融合エネルギーの実現に向けたイーター事業及びブローダー・アプローチ活動に関する積極的な協力に留意した。
15.日・EU首脳は、今日の繁栄する知識集約型社会の原動力としての知的財産権の保護及び執行の死活的な重要性について確認した。日・EU首脳は、この分野における日・EU間の協力を強化するために、この共同プレス首脳文書の付属文書として、「知的財産権の保護及び執行に関する日・EU行動計画」を採択した。
16.日・EU首脳は、日・EUハイレベル協議による全体的監督下での、多くの二国間対話、特に規制改革対話が、良く機能し進展していることを評価した。日・EU首脳は、4月に開始した貿易に関する新たなハイレベル対話、及び産業政策・産業協力ダイアログを歓迎した。これらの対話では、同様の競争上の課題に直面している日・EUの間の緊密な協力の必要性が確認された。日・EU首脳は、会計及び監査の問題に対処し、日・EUで適用されるルール及び基準の同等性に関し満足できる解決策を見出すことを目的とした、継続中の対話及び努力を歓迎した。また、 日・EU首脳は日・EC税関相互支援協定の仮署名を歓迎した。
17.日・EUは、日・EUビジネス・ダイアローグ・ラウンドテーブル(BDRT)を通じた、ビジネス界からの共同インプットを評価し、BDRTの提言に対応していく重要性を再確認した。日・EU首脳は、6月4日にベルリンで採択されたビジネス提言書が手交されたことを歓迎する。日・EUは、日欧産業協力センターの創設20周年を祝福し、同センターが今後の10年間において、更に積極的な役割を果たすことを期待する。
18.双方は民間航空分野における協力の重要性を強調した。EUは、日本とEU加盟国との間の既存の二国間航空協定の法的安定性が確保されることの重要性を強調した。日本は、日本とEU加盟国との間の航空協定の問題は各協定の締約国間で議論すべきであると述べた。
19.日・EUは、学術分野の協力及び交流が、相互理解、イノベーション、教育の質を促進するための手段として重要であることを認識する。日・EUは、この分野におけるパイロット・プロジェクトの経験を踏まえていき、高等教育分野における日・EU間の協力を更に強化していく。また、日・EUは、相互に関心を有する教育政策の事項に関するアドホックなセミナーを開催する可能性を検討する。
20.日・EU首脳は、刑事共助の分野における日・EU間の協力に向けた非公式な予備協議の開始を歓迎した。
別添
日・EU行動計画の実施
次回日・EU定期首脳協議までに重点を置く措置
重点目標1:平和と安全の促進
●国際的、地域的な情勢に関する幅広い政治対話を、特に東アジアの安全保障環境並びに中央アジアに関する戦略的対話を推進することによって継続する。
●地球規模の課題に対処する手段としての効果的な多国間主義を促進するための努力を継続し、このため国連が果たす極めて重要な役割を再確認する。2005年の国連首脳会議成果文書に述べられているように、開発、平和及び安全、人権及び法の支配といった分野において多国間の解決策を提供し、また主要な国連機関を強化するために協同する。
●貧困、感染症、紛争後の復興、人道的地雷除去、小火器及び小型武器の非合法な拡散への対策、環境の劣化、森林減少、気候変動への適応等の課題にさらされた人々の生活を回復するために幅広い問題における具体的実施に焦点を置きつつ、人間の安全保障に関する対話を推進する。
重点目標2:万人のためにグローバル化の活力を活かした経済・貿易関係の強化
●DDA交渉の成功裡な妥結を確保するための共同の努力を強化。
●日・EUハイレベル協議の全体的監督下における様々な対話の促進。
●未解決の規制問題に関し相互利益的な結果を実現するために、日・EU規制改革対話を引き続き活用。
●4月16日に東京で開催された第一回貿易ハイレベル対話を活用していく。
●税関相互支援協定の締結及び実施開始。
●「情報通信技術(ICT)に関する協力についての共同ステートメント」に基づき、ICT研究における協力を推進し、また、関心を共有する分野(融合環境における規制の在り方、次世代ネットワーク構築への取組、RFID(無線ICタグ)、オープン・ソース・ソフトウェア、安心安全なICT利用環境の整備)における規制及び政策について更なる意見交換。
●会計及び監査のルール及び基準の同等性に関する2009年の目標の達成を重点として、予定されている高級レベル協議を含め、金融サービス規制分野での協力の継続。
●新たな「知的財産権の保護と執行に関する日・EU行動計画」下で協力を継続。
●日・EUマクロ経済対話の継続。
重点目標3:地球規模の問題及び社会的課題への挑戦
●日・EC科学技術協力協定の締結及び実施。
●イーター協定の効力発生後直ちに、同協定に従ってイーター事業を実施。2007年6月1日に発効したブローダー・アプローチ協定に従ったブローダー・アプローチ活動を実施。
●環境高級事務レベル会合を定期的に開催するとともにあらゆる機会をとらえアドホックの協議を実施し、気候変動分野において、実効性のある2013年以降の枠組みの構築に向けた日・EU協力を強化。
●新たに開始されたエネルギーに関する専門家間対話を通じ、エネルギー効率、エネルギーの持続可能性、エネルギー安全保障に関する協議を継続。
●国際エネルギー機関(IEA)と密接に協力し、エネルギー効率に関する新たな国際的戦略を発展。
●特に2007年11月30日に南アフリカのケープタウンで開催される第4回地球観測閣僚会議の成功に向けて、全球地球観測システム(GEOSS)の開発を引き続き主導。
●開発政策と協力に関する進行中の対話を継続、強化する。
●海運政策及び海上安全に関する相互利益の問題につき対話を追求。
●雇用の分野における協力を継続し、2008年初頭に東京において労働並びに雇用形態の多様化に関する政労使合同シンポジウムを開催する。
重点目標4:人的・文化的交流の促進
●高等教育分野をはじめとする交流強化の可能性の見直しにより、2005年日・EU市民交流年の成果を更に活かしていく。
●高等教育分野におけるパイロット・プロジェクトの経験を踏まえていき、この分野における日・EU間の協力を更に強化していく。相互に関心を有する教育政策の事項に関するアドホックなセミナーを開催する可能性を検討する。
付属文書
繁栄に向けた研究及びイノベーションの促進
1.研究とイノベーションは、将来の人類社会の進歩に道を開き、経済成長に大きなモーメンタムを提供する。日本、EU等の先進経済においては、創造性及びアイディアや研究成果を質の高い製品やサービス、新たなビジネスモデルに作り変える能力が、さらなる発展の鍵となる推進力になる。研究とイノベーション及びこれらの分野における協力を推進することにより、日本とEUは、技術競争力を通じて世界経済をリードし、日本とEUの人々に加えてそれ以外の地域の人々にも繁栄をもたらすことができる。
2.日本とEUはともに、それぞれの適切な国内政策において、研究とイノベーションを促進する措置に重点をおく。
●日本は最近、長期的戦略ガイダンスに関する最終報告(イノベーション25)を発表し、引き続き、経済成長戦略大綱に基づくイノベーション・スーパーハイウェイ構想等のイノベーション政策、並びに第3期科学技術基本計画及びイノベーション創出総合戦略に示されたイノベーション政策を追求する。
●EUにおいては、第7次研究開発枠組計画(FP7)、競争力・イノベーション枠組計画(CIP)、教育・訓練計画、地域の収れんと競争力のための構造及び結束基金等の教育、研究及びイノベーションを統合するための重要なイニシアティブが着手されている。大学、産業界及び研究の垣根を取り払うことを目的とした、欧州工科大学構想が進行中である。さらに、ヨーロッパ規模の戦略に追加する形で、多くのEU加盟国が研究・イノベーションに関する国内政策を有している。
3.日本とEUは、研究とイノベーションのための最良の枠組の条件を創造し、ベスト・プラクティスを明らかにし、民間と政府の双方においてそれらの利用を促進し、研究の成果とイノベーションを推進し保護するために好ましい法律と規制環境を確立することを目的として、協力を強化する意図を共有している。そのために、日本とEUは、研究、科学技術、貿易政策特に知的財産権の保護の問題について、また民間部門とビジネスのイニシアティブなどの幅広い分野で、既に行われている共同の協力に立脚して取り進めていく。日本と個別のEU加盟国との協力は、こうした分野における協力の重要な柱の一つを構成している。
4.日本とEUが協力を強化できる領域は次のとおり。
イノベーションの上流源としての研究協力の促進
●第6次研究開発枠組計画(FP6)に基づく協力:第6次研究開発枠組計画に基づくこれまでのEUと日本の協力は、上記に述べられた共通の課題に対処する世界の二大プレーヤーが有する膨大な研究開発の潜在的可能性を、十分に反映しているとは言いがたい。日本の研究プロジェクトに参加する欧州研究機関の数及び研究者の数も、控えめなものにとどまっている。こうした事実は、欧州と日本の研究と開発における協力が、両者の関係を新しい次元へ導くような、より活気ある高いものとして成長するよう呼びかけている。
●研究者の交流:日本とEUは、研究者間の交流が、共通の問題に関する深い認識を促進し、より高いレベルの研究及びイノベーションの活動に結びつくとの考えを共有する。これまでの研究者交流は、日本から欧州に向かう研究者の数の方が、欧州から日本へ向かう研究者の数を上回っていた。日EC科学技術協力協定の発効後は、2008年から実施されるFP7の新たな「人物交流スキーム」について、日本も参加することが可能となる。参加研究機関は今後4年間にわたり、1〜12ヶ月の短期間、研究者の交換を行うことができる。これにより、研究機関間の関係が改善され、交流のバランスを回復する機会が得られる。
●欧州研究圏(ERA)リンク・プロジェクトは、海外在住の欧州研究者に情報を提供し相互に交流するためのネットワークを構築し、海外在住の欧州研究者を結ぶ絆を形成しようとするその他の国内活動と共に欧州レベルの相乗効果を構築し、共に欧州の研究者社会と協力して、「頭脳の循環」を推進することを目的としている。ERAリンクは昨年、米国において開始され、次の実施国を日本として、既に準備活動が開始されている。2007年6月時点では、日本で活動する欧州の研究者に関する調査が開始されており、日本におけるERAリンクの立案に利用される。
●日本とEUは、核融合エネルギー開発の共同研究を加速する。両者はともに核融合エネルギー実現のためにイーター事業及びブローダー・アプローチ活動に対する強いコミットメントを表明し、日本とユーラトムの間のブローダー・アプローチ活動の共同実施に関する協定の発効を歓迎した。
日本とEUは、日本政府と欧州委員会の間の科学技術協力協定早期仮署名に向けてコミットメントを新たにした。協定は、日本と欧州委員会の協力を促進する基盤となることが期待される。日・EUは、科学技術分野の共同活動を更に活発化する意志を表明し、日本とEUの14の加盟国の間の二国間科学技術協力協定に基づく協力活動の重要性に留意した。
知的財産権の保護と執行及びその他の貿易関連措置
EUと日本は、先進的かつ知識集約型の経済として、イノベーションと競争を促進する上で知的財産権の保護と執行が不可欠であるとの認識を共有する。この理由により、首脳協議は知的財産権の保護と執行に関する日・EU行動計画を採択した。日・EUはまた、多数国間の貿易ルールが、模倣品・海賊版対策措置及び税関協力を含む知的財産権の保護と執行など、イノベーションの努力を阻害する慣行を撲滅するための様々な手段を提供するとの認識を共有する。
産業界、学界に対する協力と支援
研究から得られた新しいアイディアを、革新的な製品、サービス及びビジネスモデルへと翻訳していくためには、日・EU相互の民間部門、産業界、学界及び政府間のより緊密な連携を促進することが不可欠である。この文脈において、日本とEUは、日・EUビジネス・ダイアログ・ラウンドテーブル及び日欧産業協力センターの活動の重要性を認識した。日本とEUは、日欧間のクラスター協力を歓迎し、その可能性を十分に探求したさらなるクラスター協力を慫慂した。
イノベーションを促進する環境の整備
産業活動を活性化させる開放的かつ競争的な環境が、新たなアイディアを革新的な製品やサービス及びビジネスモデルへ変換することを容易にする。こうした環境が、また、研究と開発に関連する直接投資を促進する。日本とEUは、イノベーションに優しい法及び規制環境、並びに2004年の双方向投資促進のための枠組を通じたより高いレベルにおける民間部門による双方向投資、とりわけ規制改革対話等の様々なチャネルを通じた対話を促進する努力を継続する。加えて、日本とEUは、規制及び基準の収れんがイノベーションに優しい環境の整備につながるとの認識を共有し、規制アプローチと基準の間の相互連関を産業政策・産業協力ダイアログを含む様々な対話の機会に取り上げる意図を再確認した。
分野別のイニシアティブ
ライフサイエンス
EUと日本は、ライフサイエンス及びバイオ技術が、両者の競争力に貢献すると共に、石油依存がもたらす災難、地球温暖化、食料安全保障、高齢化する人口の健康といった新たな諸課題に対処するために有効であるとの見通しを提供するとの見解を共有する。この文脈において、両者は、バイオ燃料、バイオ・プラスチック、グリーン・ケミカル等の開発及び市場開発の促進を含む対話と研究の協力を促進する。
情報通信技術(ICT)
2004年6月、日EU定期首脳協議において採択されたICTに関する共同声明を想起し、両者は、次の分野における協力を加速する意思を確認した。すなわち、(a)ICT分野の規制枠組に関する意見交換、(b)より安全なICT利用環境の開発に向けた協力、(c)高齢化等の共通の諸課題に対処するための公共政策を支えるICTの活用、(d)共同研究の促進、開発と標準化/相互運用の促進、(e)先端技術(高度道路交通システム、無線ICタグ及びユビキタス・ネットワーク及び次世代携帯電話システム等)に関する意見交換の促進である。
ナノテクノロジー
EUと日本は、責任ある研究の推進に関心を有しており、責任ある研究に関する国際対話会議を組織するとの観点から、この分野における国際的な協力に関与していく。コミュニケーションと協力に関する国際ナノテクノロジー会議(INC)もまた重要である。INC4会議は、2008年4月に東京で開催される。両者はこの分野における協力のレベルを上げる可能性を探ることを意図している。
エネルギー/気候変動
両者は、共同プレス声明に記載された目的を達成するためには、イノベーションの必要性と可能性が非常に高いことを考慮した。両者は、対話を継続し、適切な研究開発の促進及びクリーン・テクノロジーの展開を加速する費用効果的な措置の開発と促進等の努力を通じてこの分野におけるイノベーションを推進する。日本とEUは、気候変動の探知、予測、対処の向上、特に2007年3月にブリュッセルで行われた日・EU気候変動ワークショップで決められた全球地球観測システム(GEOSS)の観測活動、モデリング、大気の構成、水の循環、対処戦略を視野に協力を継続する。
5.日本とEUは、研究とイノベーション政策に関する意見交換と協力を深めるために全ての関連チャネルを引き続き利用していく。日本とEUは、同分野における適切な官民のイニシアティブを支持し、対応することを期待し、準備を整える。同分野の議論の強化と共同の努力の可能性の範囲については、2008年に東京にて開催される日EU情報通信技術フォーラム及び欧州で開催されるその他の関連行事等、上記の適切な機会に探求されるべきである。次回日EUハイレベル協議は、こうした機会を通じた進展状況についてレビューを行う。
付属文書
知的財産権の保護と執行に関する日・EU行動計画
知的財産権の保護と執行は、世界経済の成長のための主要な原動力であるイノベーションと競争にとって死活的に重要である。これは、ともに先進的で知識集約型の経済を有する日・EUにとり特にあてはまる。消費者及びビジネス界の利益及び権利を保護し、イノベーションを促進する責任を共有する日・EUは、既存の共同イニシアチブ(「アジアにおける知的財産権の執行に関する日・EU共同イニシアチブ」)を更新し、二国間及び多国間枠組みの双方において、世界的に知的財産権を保護し、執行する共同の努力を拡大することを決定した。
この目的のため、日・EUは、以下の通り、知的財産権の保護と執行に関する日・EU行動計画を採択した。
1.知的財産権の執行
(a)二国間枠組み
●特に第三国における情報交換の強化を通じた、第三国における知的財産権の保護・執行に関する協力強化
知的財産権に関し大きな懸念がある第三国において、大使館・代表部間で定期的またはアドホックに知的財産権に関する情報交換を行うための二国間ネットワークを構築する。これら大使館・代表部は、民間部門または第三国政府が行う知的財産権関連セミナー/フォーラムへの参加を通じて、産業界と積極的に連携する。日・EUは、第三国における知的財産権の保護・執行を促進するための他の効果的な協力方法を引き続き探究する。
●中小企業への共同支援
第三国で操業する中小企業が被る損害に関する情報交換を促進するとともに、そのような中小企業に対し知的財産権侵害の課題に対処するために有益な指針及び情報を提供する。
●税関協力の促進
日・EC税関相互支援協定の早期締結のための作業を強化。執行に関する情報及びベストプラクティスの交換を含む、知的財産権執行のための国境管理に関する税関当局間の協力を更に強化する。
●知的財産権保護のための模倣品・海賊版撲滅における連携
第三国並びに日本及びEUにおける模倣品・海賊版による知的財産権侵害に関する情報共有を促進する。侵害状況、及び著作権、意匠権、ブランド等に対する損害に対処するための方策について議論する。知的財産権に関し大きな懸念がある第三国に対し、模倣品・海賊版撲滅への更なる努力を要請する際に意見を調整する。第三国における日・EU消費者の模倣品・海賊版購入に対処する方策を議論する。
●官民連携
第三国において公共部門と民間部門(例えばJETRO等を含む)間の連携を強化する。公共部門は民間部門が行う知的財産権関連の行事に対し積極的に参加する。
●その他(第三国における技術支援を含む)
シナジー効果を得る目的で、第三国における知財保護・執行のための技術協力活動に関し連携する。これは、能力構築、啓蒙活動等の分野を担当する専門家間で情報交換を通じて実施される。専門家は首都または第三国で会合を持つ。
(b)多国間枠組み
●模倣品・海賊版撲滅のための国際的法的枠組みの実現
知的財産権の保護及び執行に関する共通の国際基準の確立、並びに、国際協力の促進を通じた、世界的な模倣品・海賊版撲滅のための国際的な法的枠組みを強化する可能性を探求する。
●世界貿易機関(WTO)/知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)
当初欧州委員会が提案した知的財産権の執行に関する共同提案等を含め、特に知的財産権執行の分野において、TRIPS理事会の会合における緊密な協力を維持する。
2.知的財産権の保護
(a)二国間枠組み
●世界レベルでの特許審査の改善
調査・審査結果の相互交換等を通じて、双方の権限を有する特許当局において、特許審査を合理化する可能性を引き続き探求する。
●地理的表示制度
地理的表示に関連するお互いの制度に関し相互理解を促進すること、及び、お互いの制度に基づく協力を強化することを目的として、地理的表示に関連する商標保護等、地理的表示に関連する保護の技術的側面に関する情報交換ネットワークを立ち上げる。
●著作権補償料制度に関する情報交換
著作権保護の制度的側面、特に著作権補償料制度の分野に関し、相互理解を促進するために担当当局間で専門家レベルの情報交換を促進する。
(b)多国間枠組み
●特許調和
(1)予見可能で安定的な国際特許制度を確保する問題に特別な重要性を付与する。異なる特許制度間の調和に向けた、関係国際フォーラムにおける双方の権限を有する特許当局間の協力を支持する。
(2)日本は、共同体特許及び欧州特許司法制度の分野等、現在行われている欧州の特許制度を改革する努力を歓迎する。
●世界知的所有権機関(WIPO)
世界知的所有権機関(WIPO)の著作権等常設委員会(SCCR)で現在議論されている、放送機関の保護に関する条約の締結に向けた作業を行い、積極的にWIPO会合で協力する。