データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日伊アクションプラン(2024−2027)

[場所] イタリア・プーリア
[年月日] 2024年6月14日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

 2023年1月、両国関係を戦略的パートナーシップに格上げして以来、日本とイタリアは、価値と原則を共有する同志国として、二国間協力を一層強化してきた。2023年にG7議長国を務めた日本と、2024年にG7議長国に就任したイタリアは、国際場裡での協力及びG7の成果とコミットメントに係る強力なリーダーシップによって生み出されたモメンタムを活かし、今後両国の関係を更に強化していく。

 両国は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を強調する。両国は、欧州の安全保障とインド太平洋の安全保障が不可分であるとの共通認識の下、また、世界の平和と安定の保護に貢献するという共通の目標の下、今日のグローバルな課題に対処するため、引き続き協力していく。両国は、ロシアによる侵略に対抗するウクライナを必要な限り支援し、国連憲章の原則を損なういかなる試みにも断固として反対する。両国は、インド太平洋における緊張の高まりについて深刻な懸念を共有し、自由で開かれたインド太平洋の実現の重要性を改めて強調するとともに、世界のいかなる場所においても、武力又は威嚇による一方的な現状変更のいかなる試みにも反対することを強調する。両国は、また、国連安保理決議に従った朝鮮半島の完全な非核化、全ての関連する国連安保理決議の完全な履行及び拉致問題の即時解決の重要性を改めて強調する。両国は、人道支援と持続可能な政治的解決の達成に向けた外交努力への断固とした支援を通じて、アフリカ大陸の繁栄と成長に貢献し、中東とそれ以遠の緊張緩和のために協力する。移住、AI(人工知能)のガバナンス、気候変動、エネルギー安全保障、食料安全保障を含む今日のグローバルな課題に直面し、両国はまた、二国間レベル及び関連する全ての多国間枠組みにおいて、国際協力を引き続き促進する。

 日本とイタリアは、今日の国際情勢に関するこの共通の認識に基づき、2024年から2027年にかけて、具体的な協力を追求しつつ、日本とイタリアは以下のコミットメントを確認した。

1 外交

(1) 日伊外務省戦略対話  

− 2022年から継続的に開催されている日伊外務次官協議のモメンタムを踏まえ、この協議メカニズムを年1回の「日伊外務省戦略対話」として制度化する。

(2)既存の協議の枠組みの強化

− 二国間の国連協議や二国間・G7の政策企画協議など、既存の協議メカニズムが定期的に最大限に活用されることを確保する。

(3)アフリカ開発

− アフリカのパートナーとの協力に関する情報共有や両国の経験を活用することにより、アフリカの持続可能な開発とグッドガバナンスに貢献する方法を探求する。

− アフリカ開発会議(TICAD)やアフリカのためのマッテイ計画などのイニシアティブに基づく連携を強化する。

2 防衛と安全保障

(1)外務・防衛当局間(PM)協議および防衛当局間(MM)協議➢2024年3月に開催された第1回PM協議のモメンタムを踏まえ、PM対話の定期的な開催を確立する。

− 2012年から継続的に開催されているMM協議を引き続き開催する。

(2)自衛隊とイタリア軍の共同訓練

− 日本への寄港を含め、インド太平洋におけるイタリアの関与の増大に伴い、安全保障分野における更なる二国間協力と共同活動の方途を探求する。

(3)グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)

− 2035年までに次世代戦闘機を開発するプロジェクトを、対等なパートナーシップの精神の下、円滑に実施するため、緊密な連携を維持し、GCAPを活用し、両国の先端技術を活用した産業協力を促進する。

(4)航空自衛隊員のイタリア空軍飛行教育課程への参加について

− 国際飛行訓練学校(IFTS)におけるイタリア空軍飛行教育課程への航空自衛隊パイロットの参加を引き続き確保する。

3 経済的強靱性と経済安全保障

(1)経済的強靱性と経済的安全保障に関する更なる連携

− 関連するG7のコミットメント、特に2023年5月20日に発出された「経済的強靱性及び経済安全保障に関するG7首脳声明」及び2024年6月のG7首脳声明に基づき、以下における二国間の連携を更に強化する:

 −− WTOを中核とする自由で開かれたルールに基づく多角的貿易体制を支持する。

 −− 経済的威圧や、不透明かつ有害な産業補助金といった非市場的政策・慣行に、両国それぞれの法制度に則り、WTO協定及びその他の関連する国際法に従い対処する。

 −− 広島でG7首脳が確認したとおり、透明性、多様性、安全性、持続可能性及び信頼性から成る「強靭で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則」に基づき、信頼できるパートナー国との間で強靭なサプライチェーンネットワークを構築及び強化する。

 −− 需要及び供給の両面から戦略的な物資のサプライチェーンを強化するためG7パートナー間で連携する。

 −− 研究セキュリティ・インテグリティを強化する取組を含め、重要・新興技術を促進及び保護する。

 −− G7の枠組内での取組を含め、同志国との協力を通じて、基幹インフラの安全性と強靱性を強化する。

(2)重要鉱物に関する協力

− 二国間及び鉱物資源安全保障パートナーシップ(MSP)や強靱で包摂的なサプライチェーンの強化に向けたパートナーシップ(RISE)等のイニシアティブを通じて、クリーン・エネルギー移行を進展させるために必要な、強靱で信頼性のある重要鉱物資源のサプライチェーンを構築するための協力及び取組を強化する。

(3)半導体に関する協力

− 両国のそれぞれの強みを生かし、半導体技術に関する連携を強化する。

− 二国間協力及び国際協力を通じて、半導体サプライチェーンの強靱性を改善するために協働する。

(4)経済的強靱性及び経済安全保障に関する協議

− 様々なチャンネルを通じて、経済的強靱性及び経済安全保障に関する協議を行う。

4 経済

(1)経済・産業における戦略的対話

− 2023年12月に発出された日本経済産業大臣とイタリア共和国企業・メイドインイタリー大臣との共同声明に基づき、閣僚級での戦略的対話の実施を目標に、局長級での経済分野における定期的な協議を実施する。

(2)二国間投資、産業協力及び貿易の更なる促進

− 日・EU経済連携協定(EPA)の枠組みを通じた二国間投資・貿易を促進し、同協定の実施において緊密な連携を維持する。

− 自動車、交通・モビリティ、エネルギー及びグリーン移行、航空宇宙、アグリテック、医療・製薬、半導体、その他新技術など、特に両国が優先的に関心を寄せる分野において、第三国における両国企業の新規プロジェクトの立ち上げを含めた協力を促進する。

− 両国の関係省庁・機関間での対話を実施することにより、両国の投資環境の改善に努める。

− 日本貿易振興機構(ジェトロ)とイタリア貿易振興庁(ITA)間の協力覚書の改訂に基づき、イノベーションとスタートアップに関する協力を促進する。

(3)日伊ビジネスグループ(IJBG)の活動の深化と拡大

− IJBG総会及び会合への両国のハイレベルの出席を確保し、特に産業パートナーシップの強化について両国企業間の協力を促進する。

− IJBGの枠組内で生じる機会を活用し、JETROとITAを通じた、スタートアップ企業を含む企業間ビジネスマッチングを促進する。

(4)クリーン・エネルギーへの移行

− 技術的に中立なアプローチを通じて、持続可能で包摂的かつ強靭な経済成長と循環型社会の発展を確保するために協力する。

− 多様な道筋を認識しつつ、ネット・ゼロ、経済成長、エネルギー安全保障を同時に達成することの重要性を強調しつつ、クリーン・エネルギー移行への過程における天然ガスの役割を支持しながら、クリーン・エネルギー分野での二国間協力を強化する。

(5)宇宙分野における協力

− 宇宙航空研究開発機構(JAXA)とイタリア宇宙機関(ASI)との間の協力覚書に基づき、災害リスク管理及び国際宇宙ステーションの高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)における協力の進展を踏まえ、更なる協力を促進する。

− 両国の宇宙関連産業間の更なる協力を支援する。

(6)繊維産業における協力

− MilanoUnica等の展示会を通じて、繊維産業における協力を促進する。(7)2025年大阪・関西万博への協力

− 2025年大阪・関西万博への関心を高めるための広報活動を両国で実施し、万博の成功に向けて協力する。

5 文化・人的交流

(1)芸術・文化交流

− ベネチア・ビエンナーレ日本館、国際交流基金ローマ日本文化会館、イタリア文化会館東京・大阪のような成功例を踏まえ、現代美術を含む日伊間の芸術・文化交流を促進する。

− 日伊映画共同製作協定の発効を機に、両国の更なる魅力発信と人的交流の促進を図る。

(2)日伊ワーキング・ホリデー協定の実施

− 日伊ワーキング・ホリデー協定の速やかな発効を確保し、協定を活用した若者の交流を促進する。

(3)観光分野における協力の促進

− 日伊間の直行便も利用しながら、観光分野における意見交換の機会を更に充実させ、官民の連携を強化する。

(4)文化遺産の保護に関する協力

− ユネスコ世界遺産及び無形文化遺産の登録及び保護に関する協力を強化し、文化遺産保護分野における二国間連携を強化する。

(5)スポーツ交流

− ミラノ及びコルティナ・ダンペッツォで開催される2026冬季オリンピック・パラリンピックを契機として、日伊間のスポーツ交流を促進する。

6 学術・科学技術分野における協力

(1)学術・研究交流及び共同研究プロジェクト

− 1988年に署名された日伊科学技術協力協定及び2023年に署名された文部科学省と大学・研究省の間の科学技術研究分野に関する協力のための覚書の下で、日本とイタリアの学術機関及び研究センター間の新規及び既存の技術的取決めに基づく協力活動を促進・支援する。

− 2024年中の研究活動開始を目指し、エネルギー貯蔵技術と重力波に関する2つの共同研究協力が、所管省庁と研究機関により決定されたことを歓迎する。

− 二国間及び多国間共同研究プロジェクト、相互学習活動、学術・研究交換・交流プログラム、研究者及び専門家のためのネットワーキングの機会を更に発展させる。

(2)高等教育機関間の相互交流

− 高等教育機関における両国の文化の紹介や日本語・イタリア語教育を促進する。

− 社会科学や自然科学など、共通の関心分野における両国の知的交流・協力を促進する。

(3)長大橋分野における協力の促進

− 両国のインフラ・プロジェクトの実施を支援するため、長大橋の建設、運営、維持管理の分野における二国間技術協力を促進する。

7 食と農業

(1)食に関する交流拡大

− 両国の多様な食文化の促進を強化し、両国のアグリツーリズムやアグリビジネスを支援する。

(2)農産物の輸出入に関する連携強化

− 日・EU経済連携協定(EPA)の完全な実施を確実にすることにより、輸出入の更なる拡大を促進する。

(3)地理的表示

− 日・EU経済連携協定(EPA)の枠組みの中で、両国における地理的表示の保護に関する適当な措置を講じるための連携を強化する。


2024年6月14日