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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日韓会談「久保田発言」に関する参議院水産委員会質疑

[場所] 
[年月日] 1953年10月27日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),584‐592頁.官報号外.
[備考] 
[全文]

 午後三時二分開会

○委員長(森崎隆君) それでは午前に引続きまして委員会を開会いたします。

 先ず第一に先だつての日韓会談で日本代表として交渉されました、久保田君から、特に新聞等で久保田発言と言われております御発言に関して一つお話を頂きたいと思います。

○説明員(久保田貫一郎君) 実は日韓会談の決裂の原因と韓国側で言つておりまする私の委員会の席上の発言につきましては、韓国側にも委員会の席上で言つたのでありますけれども、前後の関係がわかりませんと人の発言の本当の意味というものはわかりませんからして、一部分だけを捉えて新聞なんかで言つてもらつては困ると言つておいたのでございますけれども、大体新聞の記事といいますものは、その場所だけが大きく出るものでございますから、前後の関係を詳しく御存じのないかたには、私がどうしてああいうことを言つたのかということが不明瞭であるのじやないかという感じを受けておりますので、少しその前後の関係を申述べさして頂きたいと存じます。実はこれは全部請求権の分科会と言いますか、部会と言いますかにおきまする私の発言が元でございますので、それはこの十五日の請求権の分科会と言いましようかの席上のことでございます。この前にいわゆる夏休みが済みまして、日韓会談が開かれましたのは今月の六日でございましたけれどもいわゆる夏休みの前は双方から新たに原則的なことは言わないで、実際的に事務的に事をやつて行こうということで申合せができまして、そのようにやつておりました。それでまあ例えば韓国側からいろんな請求権につきまする詳しい例えば未払給料のリストだとか、日本から返してもらいたいという国宝とか美術品なんかのリストがたくさん来まして、そういうものを調べておつたのでございます。我が方からは請求しましたけれども回答はなかつたのでございますが、水産関係でも双方の漁業の実態を調べて、それからだんだんと実際的な魚族の保存措置に入つて行こうということで、準備的なそういう事務的なことをやつておつたのでございます。従いまして双方大体長い間やつておつたのでございますが、十月六日から開かれましたいわゆる夏休み後の会議は、非常に劈頭から空気が変つておりまして、韓国側では漁船を捕えたり、船長以下船員を抑留したり実力行使をやつておつたものですからそういう既成事実の圧迫の前にあらゆる問題を一気に解決しようと図つたように思われます。従いまして請求権の分科会でも劈頭早々先方では今までのようないわゆるフアクト・フアインデイングと言いますか、事務的なことをやめて、単刀直入に問題の本質に入つて行こうということで、向うのほうからは請求権の問題につきましては、日本側の要求というものは認められないので、日本側の請求権というものはないのである。請求権の問題として考えられるのは韓国側から日本に対する請求権の問題だけである。その範囲できめればいいのだ、そういうふうに出ておりましたものですから、勢い我が方としても主義の問題に入らざるを得なかつたわけでありまして、私どもとしましては日本側の従来の請求権の、つまり私有財産の尊重という原則に基いた対韓請求権は放棄しておらないのだという議論に入らざるを得なかつたわけでございます。そうしますと向うのほうでは早速日本の請求権の要求は多分に政治的であると、まあこういうわけなんです。その意味はよくわからないのですが、実は日本の請求権の問題は政治的ではございませんでして、非常に細かい法律論ではあるわけでございますけれども、向うはそう申しまして、政治的であると、ところが韓国の請求権の要求というものはもう裁判所にも出してもいいような細かい最小限的な要求で全部法律的であるのだ、若し日本のほうでそういうふうな政治的な要求を出すということが前から韓国のほうでわかつておつたと仮定すれば、韓国側のほうでは朝鮮総督の三十六年間の統治に対する賠償を要求したであろう、そう出て来たわけでございます。そこで私どもとしましては韓国側がそういうふうな朝鮮総督政治に対する賠償というふうな、それほど政治的な要求をいたさなかつたことは賢明であつたと思う、若し韓国側のほうでそういう要求を出しておつたなれば、日本側のほうでは総督政治のよかつた面、例えば禿山が緑の山に変つた。鉄道が敷かれた。港湾が築かれた、又米田……米を作る米田が非常に殖えたというふうなことを反対し要求しまして、韓国側の要求と相殺したであろうと答えたわけでございます。そういうところからいわゆる朝鮮総督府の政治のことが出て来たわけでございまして、それがまあいわゆる新聞で久保田発言と申されましたものの始まりでございます。これでおわかりのように、私どもとしましては、この朝鮮総督のことなんかは、日韓会談におきましては未だ曾つてこの四月始まつて以来我が方から口に出したことはなかつたわけでございます。今回も向うのほうから言い出されなければ勿論言及するつもりはなかつたのでございましたけれども、図らずも向うからそう出て来たものでございますからして、必要な意見を述べたというわけでございます。そうしますと向うのほうではだんだんとそれから深入りしまして、朝鮮総督政治は決して朝鮮の民衆を利したものではない、日本が警察政治で以て韓国民を圧迫して、そうして搾取したのだし、それから自然資源なんかも枯渇せしめたのだ、そうであればこそカイロ宣言に韓国の奴隷状態ということを連合国が言つておるじやないかというので、いわゆる韓国の奴隷状態でカイロ宣言が問題にされたわけでございます。それに対しまして私は、カイロ宣言は、戦争中の興奮状態において連合国が書いたものであるから、現在は、今連合国が書いたとしたならば、あんな文句は使わなかつたであろうと一言答えたわけであります。そして、これがいわゆる私の発言と申されましたものの第二点でございます。第一点は総督政治の問題、第二点はカイロ宣言、第三点は、その前から問題でございました日本の請求権の主張というもので、日本の請求権の主張のように、つまり韓国にありました日本の私有財産が没収されていないのだという解釈をとれば、これはアメリカの軍政府のやつた措置というものは国際法に合致しているのだけれども、仮に韓国のように、日本の私有財産は没収されておるのだという解釈をとれば、米国が国際法違反をやつたということになる。日本としてはそういう解釈はとりたくないのだ、そう申しましたのでございます。それが三点でございます。そうしますと、韓国側のほうでは、大体今度の第二次世界大戦後の処理におきまして、非常に国際法が変つて来たのだ、そうして被圧迫民族、例えば朝鮮民族の独立と解放というふうな新らしい国際法の原則が出て来ましたので、その大原則の前に、例えば私有財産の尊重というふうな旧来的な国際法の原則が無視されておるのだということから、そうだということであれば、例えば朝鮮の独立にしても、講和条約を待たずにその前に独立をしておつた、それを日本が国際法違反と言うかと、そう出て来たわけであります。そこで、それは第四点でございますが、それに対しまして私は、それは日本から見れば、韓国の独立したのはサンフランシスコ条約の効力の発生したときなんだから、その前に独立したということは、たとえ連合国が認めておつても、それは日本から見れば異例の措置である、そう答えたわけであります。又終戦のときに日本人が一括すべて裸で以て強制的に朝鮮から送還されたことも、これ又新らしい国際法の原則から割出した措置であつて、当り前の措置であつたので、これも日本側から言えば国際法違反であると言うかと向うからの質問であつたのであります。これは第五の点でございますが、それに対しまして、それは占領軍の政策の問題でありまして、国際法の違反であるともないとも言わないと、それが大体十五日の請求権委員会におけるいわゆる私の発言というもののいきさつの大要でございます。それがございましたので、向うのほうでは、そういうふうな日本側の考えではとても話が続かないというようなことを言つておりましたけれども、果してその翌日にございましたほかの部会を向うは休みまして、それから日曜を越えて月曜日のほかの部会も向うは休みました。それで二十日の会合でございますけれども、これは本会議の例会が予定されておつたのですが、それに出て来まして、向うの金代表が、この十五日の私と韓国側の応答を一々あらかじめ書いて来たものを読んだわけでございますが、一々繰返しまして、そうして向うはこう言うわけです。日本の代表はこの前の請求権の会議で、先ず……少し順序が逆になつておりましたけれども、五の問題が逆になつておりましたが、先ず第一点として、韓国が講和条約の発効の前に独立したことは国際法違反であると言つた。第二点に、日本人が終戦後朝鮮から裸で帰されたことが国際法違反であると言つた。それから請求権の解釈について、日本は米国と韓国が国際法違反をしておると言つた。それからカイロ宣言の奴隷状態というものは興奮状態で書いたものであると言つた。それから三十六年間の朝鮮の統治というものは……これは非常に向うは力を入れて言いましたけれども、少し向うの発言を要約紹介いたしますと、非常に興奮的なものであつて、強制的な占領である、そうして日本は貪慾と暴力を以て侵略したのであつて、そうして朝鮮の自然資源を破壊したのである、言論の自由も何もなくて、朝鮮人は奴隷状態になつたんだということを非常に強調したわけでございます。そこで私は、こういう議論は際限なく繰返しても、会議の問題の前進には寄与しないのであるからして、簡単に答えるということを申しまして、もう一遍委員会におきまする十五日の発言の通りに、韓国の独立ということは日本から見れば異例であつたのだ、併しそれは国際法違反であるとかないとかいう問題ではない、ただ異例であるのだということを申しまして、それから日本人の送還は、これは国際法違反であるともないとも言わなかつたのだ、これはまあ財産請求権に対する日本の解釈は、当時にすれば、米国側の軍政府も国際法違反を犯したことにはならないのだ。それからカイロ宣言の効力は戦争中の興奮状態で書かれたものである。それから朝鮮三十六年間の統治は、あなたがたの言われるような悪い部面もあつたかも知れないけれども、いい部面もあつたのだ。第一この問題は日本側は触れたくなかつたのだけれども、あなたがたは、マイナスばかりを述べるから、私のほうはプラスのことを述べたのだ、そういうことを言つたのでありますけれども、向うの側の金代表は、日本側の代表の発言は破壊的であると、これは五回も六回も同じことを繰返して言われるのです。これはもうすべてこの前に回答した通りであるのだと言つて取り上げなかつたわけでございますが、向うのほうじや、こういうふうな日本側の代表の言うことは、すべて日本政府の基礎的な態度を示すものかと言いますから、一体それはどういうことだと言いますと、向うは又、朝鮮の独立は異例であるとか、カイロ宣言の文句をああいうふうに書いておるとか、朝鮮総督政治は韓国側に利益を与えたというようなことはとても受取れないというようなことを繰返しまして、結局二十日の本会議はそれで済んだわけでございます。そしてそのとき最後に、日本側としては、委員会は毎週一回開くことになつておるのだから、この次は来週火曜日にしよう、明日は水産の委員会があるのだ、この水産の委員会では漁業委員会があるのだ、漁業委員会では、この前の漁業部会でも申したように、日本側は具体的の案を出すつもりであるのだ、水曜日の朝は予定通りに漁業委員会をやろう、その次に日本の請求権の委員会をやろうと、それをやつて第四回の本会議を来週の火曜にやろうと言つたのですけれども、向うが聞きませんでして、明日の漁業部会は一日延ばして、請求権も又一日延ばして順繰りにして、明日二十一日には第四回の本会議を開こうと頑張るものですから、そういたしまして、二十一日の本会議になつたわけでございます。第四回で最後であつたわけですが、開いて見ますと、向うはやつぱり同じことを繰返しますので、ここで一々御説明する必要はございませんが、要するに同じことでございます。もう私どもとしましては、この前答えた通りであると、向うのほうではこの通りになつていると言つて、私の言つたことを、例えば第一点の講和条約の発効前の韓国の独立は異例であると言つたのを、韓国側の議事録では、国際法違反だと言つたということになつているからということで、非常にいわゆる食い下つて来まして、それで最後に金代表は、こういうことだからして、先ず第一点として私にこの五つのステートメントを引込めてもらいたい。第二点にこの五つのステートメントは無論間違つておつたということを認めろ、そうでなければ韓国側はこの日韓会談の会議に出席することが不可能である、そう言うものですから、私は同僚と相談いたしましたけれども、まあ一時そうして従来の日本側の日韓会談の妥結に対する熱意を述べましたあとで、特に水産関係のことで李承晩ラインの強制実施ということは非常に不当なことで、日韓会談の順調な進行を害したということを強調しましたあとで、最後に金代表のあれに答えると言いまして、第一点のステートメントを取消せ、ウイズドローしろ、引込めろと言つたことは、引込める考えは毛頭ありません、第二点の悪かつたことを認めろという点は、悪かつたとは考えませんと、これによつてあなたがたが会議に出て来られないということは、日本の代表部の希望と相反することであつて甚だ遺憾であるけれども、止むを得ないということで、まあいわゆる会議が続行不能と言いますか、決裂になつたような次第でございます。これが大体まあ私の、新聞で言いました久保田発言というものの内容と、その前後の関係であるわけでございます。

○委員長(森崎隆君) 何か御質疑はございませんか。

○秋山俊一郎君 そういうことのために韓国の代表部の者は全部引揚げてしまいましたか。

○説明員(久保田貫一郎君) まだこちらにはおるようでございます。その後は会議は行われませんけれども、まだ韓国に帰つておらない。日本におります。

○秋山俊一郎君 大体全部の者がおりますか。

○説明員(久保田貫一郎君) 全部の者がおると思つております。

○秋山俊一郎君 それは何かほかに意味があつてのことでしようか、或いは又問題をほぐして行こうというような意向が多少でもあると受取れるような点はございませんか。

○説明員(久保田貫一郎君) 新聞に会議が決裂したのじやないと韓国側が言つたということが出ておりましたが、韓国側のほうでは日本側の代表のほうで発言を取消さないから会議に出て行かないので、まだ決裂したのじやないという解釈をとつておるのか知らんとも考えられるわけでございます。そうしますと向うのほうじや日本の出方を待つておるということも想像できるわけでございますけれども、その点は的確にそうだというような見極めは実はついておらないわけでございます。

(中略)

○委員長(森崎隆君) 速記を始めて下さい。一つお聞きしたいのですが、十五日の日にあなたの例の発言が、或る意味で引出されて来たという、話の経過全体を見まして、計画的に、と言うと語弊があるかも知れませんが、あらかじめこういうことを意図してあなたのこういう質問を出すようにだんだんと向けて来たというようなところはございませんか。そういう点は感じられますか。偶然にああいう話になつてあそこへ行つてしまつたというように御解釈していられるのか、或いは考えて見ればどうも大体準備しておつたところがあつたというようなところはございませんでしようか。

○説明員(久保田貫一郎君) 今度開かれましたのは十月の六日でございますが、そのときにこういう戦略と言いますか、戦術と言いますかを想定しておつたと私は考えられないのであります。十五日の先日の委員会でたまたまそういうふうに話が進んで行つたものですから、この次のいわゆる第三回の本会議の二十日、それから第四回本会議の二十一日、この両回はもう私の十五日の分科会の発言を捉えて、やろうと思つたことは明らかでございます。従いまして十五日の会のあつたあと、そういう戦略というものを編み出して、これで以て日本側に全責任をおつかぶせて処置してしまおうという作戦に出て来たということはほぼ明らかだと思います。

○委員長(森崎隆君) 十五日の議論は、お互いに予想せずして結局こういうような不当なやりとりになつて来たわけでございますね。

○説明員(久保田貫一郎君) そうでございます。実はこの十五日の前にこの日は大蔵省の阪田局長が出ておられましたが、会が始まる前に十時前から相談いたしまして、今日は余り議論をしないで、差当り漁業問題が主なんだからして、それで以て具体案が出て相当軌道に乗るまでは請求権の問題など余り原則論なんかやらないで、簡単に散会しようじやないかと言つて出たわけでありまして、図らずもこういうことにだんだん話が深入りしたということが事実でございます。

○松岡平市君 或る人は、朝鮮はあなたの発言を取消せ、取消しさえすれば交渉すると言うから、取消せばいいじやないか、何も面子に捉われる必要はないじやないか。こういうようなことを言う人もあるようでありますが、私たちはこれはそういうわけには行かんと思うのですが、若し向うが言うから向うの言う通りに会談を継続するために、或いは会談を新らしくやれるようにするためにあなたの発言なるものを取消す、向うの要求通りにしたということは、一体外交上どういうことを意味するか。これは重大なことを意味すると思うのですが、これは一つ簡単で結構ですから、それが絶対取消し得べき性質のものでないということを御説明願つておきたいと思うのです。

○説明員(久保田貫一郎君) 私はやつぱり取消すべきものじやないと思つておるのでございますが、あれ以来考えました結果といたしまして、例えば朝鮮総督府政治の問題で、これは朝鮮側の言い方は、日本が暴力と武力で以て侵略したんであつて、天然資源、ナチユラル資源を枯渇したというようなことは、これは事実に反しておりますので、これはどうしても認められないと思うのでございます。総督府政治の悪い点もあつたことは認めるとしましても、いい点もあつたということはこれは日本としましてはどうしても取消せないことだと存じます。それからあとの問題は、大体国際法の原則論になりますけれども、例えば私が、日本人が裸で帰されたのは、それは国際法違反であると言わんと言つたのを、向うのほうでは違反と言つたと一方的にきめておりまして、私の発言を認めないで、向うの議事録にあると称する国際法違反だと言つたというのですから、それを認めますと私が言わなかつたことを言つたことになりますので非常に困る。その点からもそのほかの問題に対してもそうでございますけれども取消すということは非常に困ると存じます。

○委員長(森崎隆君) 今の久保田さんの御説明でちよつと考えたのですが、この五つの項目の御発言を引込めるということと、それからこれが間違いであつたということを認めこと{ママ}と二つ要望しておるのですね。その二つを要望しておるということは、言い換えましたならば引込めるというは別のもののだ{ママ}。間違いであつたという詫びを入れて過ちを認めるということは、これ又別の問題ですから、五つの久保田さんの発言を引込めるということはできないことはないのです、できるとすれば当日のお互の議論は全部ないものと考えて、韓国側の発言も日本側の発言も全部白紙に還元するという形でお互に引込めればこれは引込めることができる。従いましてこれが間違いであつたとかいうことを認めることは絶対にしない。そういうことですね。そういう意味の可能性はもう全然ないのですか。

○説明員(久保田貫一郎君) そういたしましても、今度はすぐ又請求権の問題とか出てくるのでございまして、日本の請求権はこちらから言いますと正当だと言うし、向うではそうぢやないということがすぐ出て来るのでございまして、そのほかにカイロ宣言とか、独立の時期とか日本人の送還、これは直接関係ございませんけれども、請求権の問題から来るいろいろな議論、それから三十余年間の政治、これに対して向うは賠償でも請求しようというわけなんですからちよつとこれは困りましてね。

○森八三一君 今までのお話を聞いておりますと、結局日韓の会談というものはあなたの発言が取消されなければ再開の見込みはないというように私は受取つたのでございますが、そうするとその内容はどういうものであるのか十分検討しなければなりませんが、仮に当面する漁業の問題を解決して参りますために具体的な案というものができたといたしましても、それを提示するチヤンスというものは与えられないというようになつてしまうのではないか。だからこつちのほうでも了解ができ、向うも納得ができるであろうという仮にそういうような具体案というものが考えられたといたしましても、それを先方に伝えるというような公式な機会というものがめぐつて来ないというように一応考えられるが、そういうようなことについて何か話をとり進めて行くというような緒というものが取消さずして何らかの方法でまとめられるという対案が考えられないものかどうか。

○説明員(久保田貫一郎君) これはやはり私はこういうような恰好で会議を続行不可能になりましたので或る期間は止むを得ませんから、いわゆる冷却期間と申しますか、というものを置いておかないといかんと思うのですが、そうすると又自然に気持が収まつて来まして再開の機運というものが出て来ないものでもない。去年の春の会談も日本の何で決裂したのでありますけれども、又再開の機運があつたというわけでありますので、今すぐには駄目であると思いますけれども、再開が絶対できないということじやないというように思うのでありますけれども……。

○森八三一君 先刻松岡委員の御質問にお答えなつたように日韓の間に今問題になつている事項を協議して参りましたところで、韓国側には直ちに非常な有利な条件になるというようなものではなくて放つて置いても大して痛痒を感じない。財産の請求権にしてもこつちに持つて来れるものではなくて、向うは現に使つているのですから何ら痛痒を感じない、困るのは漁業ですね、ということが肯定されたように思いますが、そうすると放つて置いても向うは痛痒を感じないから、ここで冷却期間を置いて見たところでそういう緒が開けて来るというようにはちよつと考えられないのですが、そこで冷却期間を置けば又新らしい事態というようなものが想像されて来るのか、何か国際的にそういうような雰囲気というものが違つて来るという見通しがあるのかどうか、又そういう雰囲気を作つて行くために何か手を打つておられるのかどうか、ということをお伺いしたい。

○説明員(久保田貫一郎君) これは向う側がこういう態度に出ますもう少し深いところを考えますと、日本と韓国側と非常に考え方に根本的に差がございまして、韓国のほうじやまだ依然として日本は敗戦国であつて、韓国は、戦勝国であるような錯覚に陥つているところがあります。先ほどもちよつと申上げましたように、いわゆる被圧迫民族の独立という新らしい国際法ができたから、それにすべてが従属されるというようなちよつと今国際法では言われておらないような独特の解釈を持ちまして、従つて韓国は国際社会で或る意味における寵児である、ちやほやされている国家であるというふうな二つの根柢があるのぢやないかと思います。そういうような考えは両方とも余り根拠がございませんので、実は去年もそういうことがあつたのですけれども、決裂の原因には……。今年はそういうことがもう大部なくなつていると私は想像しておつたわけでございますけれども、図らずも去年と同じような考えを持つていることに失望したのでありますが、こういう考え方は併しだんだんと時がたてば正常に向うの方で考えるようになりまして、本当の意味の対等間の国際会議というような恰好で日韓会談が開かれる日が必ず来ると思つているわけでございまして、少々気の長い話でございますけれども、そういうふうな、同じ対等の立場で以て話をするというところまで向うのほうが折れて来てくれなければこの問題全部の問題を解決するということはできがたいでありましようし、たとえ形の上でできましても、満足な実行ができないのじやないかと思つておるわけであります。

○森八三一君 そうしますと、今当面している漁業の問題を解決するということのためには相当の冷却期間というようなものを考えなければならんというように受取れるのですが、そういうことになると、日本側のこうむる損害というものは、非常に大きいので、そういつまでも、今お話になつたような情勢が展開してくるのを待つておるというわけには参りかねるのじやないかというように考えられるのですが、外交当局としてそういう理解に立たれるとすれば、積極的にその冷却期間というものを短縮せしめて行くような手というものを打たなければならんように思うのですが、そういうような点でとり進めて行かれるような見込みがあるのか、具体的にお考えになることがあれば、一つお話を得たいと思うのですが……。

○説明員(久保田貫一郎君) これはまあ冷却期間を待つという消極的ばかりでなくて、積極的に働きかけなければならんというのは勿論でありますので、例えて申しますと、韓国側の漁業という問題に対するいわゆる李承晩宣言というものは、甚だけしからんものである、国際法の原則から言つても不当なものであるということに、これは少し今までの日本側の宣伝がまだ徹底できないのじやないかと思いますので、利害関係の直接ない国はそんなに不当なものであるということを考えてないのじやないかと思われますので、これはまあアメリカは勿論でありますけれども、国際輿論に訴えまして、その不当を大いに鳴らすというふうな工作は勿論しなくちやならんであろうと思います。もつと具体的に申しますと、この問題は例えば、国連に提訴するとか、国際司法裁判所へ持つて行くとかというようなこと、これはまあ時間のかかることでありまするけれども、そういうふうな方法をきめて、そういう決心を日本政府が示すということは、国際輿論の前に韓国の不当というものを明らかに描き出すわけでございますので、そういうふうな大きなところからして、向うの考え方を変えて行くというようなことも、これは勿論やらなくてはならん一つの大きな手ではないかと考えられます。

○委員長(森崎隆君) ほかに御質疑ございませんか。一応この問題は、今日はこの程度にいたしまして、又いろいろな点が、質疑がございましたら又御足労願うことにいたします。有難うございました。

 ちよつと速記をとめて下さい。

 午後四時十四分速記中止