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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 在日朝鮮人の祖国往来に関する北朝鮮政府声明

[場所] 平壌
[年月日] 1963年7月15日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),450ー451頁.神谷不二編「朝鮮問題戦後資料」3巻,363ー5頁.
[備考] 
[全文]

 在外公民の民主主義的民族的権利を擁護することを自己の義務とみなしている朝鮮民主主義人民共和国政府は,最近,日本各地で祖国への往来の自由を実現するための在日朝鮮公民の運動が広範に展開されていることと関連して,次のように声明する。

 現在,日本には六〇余万の朝鮮公民が居住している。しかるに,かれらは八・一五解放後一八年が経過した今日に至るまで,ただの一度も,ただの一人も祖国に往来することができなかったし,引き続き祖国と海外への往来の自由を抑えられている。

 周知のように在日朝鮮公民は,アメリカ帝国主義者が日本と南朝鮮を強占し,朝鮮を分裂させたことによって祖国との連係がとだえて以来,祖国への往来を実現するために絶えず努力してきた。

 在日朝鮮公民のこのような努力は,日本の支配層の非友好的な態度のために肯定的な結果をみるに至らず,今日に至るまでかれらは日本に監禁されたのと同様の不自由な状態に置かれている。

 このような状態にもはや我慢することができなくなった在日朝鮮公民は,最近に至って遂に,自分たちの差し迫った生活上の要求を実現するための大衆的な運動を展開するようになり,その運動は日を追って拡大されている。

 去る五月以後,在日朝鮮公民は東京をはじめとする日本各地で引き続き群衆大会や集会を開いて,祖国への自由な往来についての切実な念願が実現できるように保障することを日本政府に要求し,また,日本人民と世界各国の人民に対して自分たちの正当な闘争を支持してくれるように訴えている。

 日本の各政党,社会団体と広範な階層は,在日朝鮮公民のこの正当な要求を積極的に支持声援しており,すでに多くの日本の地方議会が在日朝鮮公民の祖国への往来を早急に認めるべきことを日本政府に要求する決議を採択した。

 国際的にも日増しに広範な社会世論が,在日朝鮮公民の合法的な要求を支持している。

 しかし日本政府は依然として祖国への往来についての在日朝鮮公民の正当な要求を理不尽にも拒否している。

 日本政府のこのような行為は,到底黙過するわけにはいかない。

 朝鮮民主主義人民共和国政府は,祖国への自由な往来についての在日朝鮮公民の要求が全面的に正当であり,日本政府にはこれを保障すべき法的,道徳的な責任があると認める。

 在日朝鮮公民は,朝鮮民主主義人民共和国の堂々たる公民である。

 一独立国家の在外公民が生活上の必要によって自分の祖国と海外とを自由に往来することは国際法によって公認された原則である。

 今日世界のすべての国は国際法のこの原則を実施している。実際,いま日本政府も,国交関係の有無を問わず,朝鮮民主主義人民共和国の国籍をもつ朝鮮公民を除くすべての在日外国人に日本国外への自由な往来を許容している。

 日本政府はひとり在日朝鮮公民に対してのみ,祖国への往来の自由を抑えつけるなんらの根拠もない。

 とりわけ在日朝鮮公民の歴史的地位に照らして見るとき,日本政府は在日朝鮮公民の差し迫った生活上の要求を当然保障すべき,避けることのできない義務がある。今日日本に居住している朝鮮公民は,自らすすんで日本へ渡ったのではない。

 在日朝鮮公民は,かつて日本帝国主義の植民地支配者により徴兵または徴用によって強制的に引っ張られて行ったか,日本帝国主義者の苛酷な植民地支配の結果生きる道を失い,その故郷を追われ日本へ流浪して行った人々である。

 日本帝国主義者は,強制的に引っ張って行った朝鮮人を牛馬のように酷使しながら,際限のない搾取と略奪を敢行し,ありとあらゆる民族的蔑視と虐待を加え,無慈悲に弾圧,殺戮した。

 日本帝国主義者の苛酷な抑圧のもとで,数十年間にわたり在日朝鮮公民が蒙ってきた犠牲と苦痛と不幸は筆舌に尽しがたい。

 今日,日本に残っている朝鮮公民は,まさに日本帝国主義のこのように悪辣な民族的な蔑視と虐待のなかでかろうじて生命を保ってきた人々である。

 もし日本政府が,かつて日本帝国主義が犯したすべての犯罪行為に対して心から責任を感じ,国際法の諸原則に忠実であろうとするならば,当然在日朝鮮公民に対しても,過去のすべてのことに対して贖罪し,かれらが日本にいる間は外国人としてのすべての合法的な待遇を保障しなければならない。

 しかるに日本政府はそのようにしないばかりでなく,かえって在日朝鮮公民を法的保護の外に置き,かれらに引き続き民族的蔑視と弾圧と各種の差別待遇を行なってきたし,また行なっている。

 日本政府が,日本に居住している他のすべての外国人に対しては国外への往来の自由を許しながらも,在日朝鮮公民に対してのみこれを抑えつけているのは,このような不法な差別待遇のいま一つの典型的な実例である。

 すでに数十年間も祖国から離れ,異国の生活に苦しんでいる在日朝鮮公民が,懐かしい祖国の山河を尋ね,父母,兄弟,親戚,友人たちと会うことを念願するのは当然なことである。

 また約四年間にわたって行なわれた在日朝鮮公民の帰国事業によって,すでに約八万名の在日朝鮮公民が朝鮮民主主義人民共和国へ帰国した今日,やむをえない事情によっていまだ日本に残っているかれらの家族と親戚,親友たちが,先に祖国へ帰ってきた肉親と会うことを望むのも,しごく当然なことである。

 それにもかかわらず日本政府が依然として在日朝鮮公民の祖国への往来の自由を許さないのは,朝鮮民主主義人民共和国に対する一貫した非友好的態度から出発した故意の行動であるとしか思えない。

 日本政府は,アメリカ帝国主義のそそのかしのもとで進行している「韓日会談」で,南朝鮮軍事ファシスト一味との政治的取引に利用する材料を得るためにこのような差別政策を実施している。

 在日朝鮮公民に対する日本政府の差別政策は全面的に不法である。

 日本政府は,いかなる口実をもってしても,在日朝鮮公民に祖国への自由な往来を含む諸般の民主主義的民族的権利を保障すべき法的および道義的責任から逃れることはできない。

 朝鮮民主主義人民共和国政府は,日本政府が,祖国への往来の自由のための在日朝鮮公民の正当な要求と念願が一日も早く実現されるように,早急にしかるべき措置を取ることを強く要求する。

一九六三年七月一五日

平 壌