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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第一回日韓定期閣僚会議共同コミュニケ

[場所] 
[年月日] 1967年8月11日
[出典] 外交青書12号,16−19頁.
[備考] 
[全文]

一 第一回日韓定期閣僚会議は一九六七年八月九日から一一日までの三日間東京で開催された。

二 会議には,韓国側からは張基栄副総理兼経済企画院長官,崔圭夏外務部長官,徐奉均財務部長官,金栄俊農林部長官,朴忠勲商工部長官及び安京模交通部長官が金東祚駐日大使とともに出席し,李洛善国税庁長及び呉定根水産庁長も参加した。

三 日本側からは,三木武夫外務大臣,水田三喜男大蔵大臣,倉石忠雄農林大臣,菅野和太郎通商産業大臣,大橋武夫運輸大臣及び宮沢喜一経済企画庁長官が,木村四郎七駐韓大使とともに出席し,泉美之松国税庁長官及び久宗高水産庁長官も参加した。

四 会議は,次の議題を採択し,討議した。

 (一) 両国関係一般のレヴュー及び展望並びに国際情勢一般に関する意見の交換

 (二) 両国の経済情勢の説明

 (三) 経済協力問題

 (四) 貿易問題

 (五) 租税問題

 (六) 農林水産問題

 (七) 海運問題

五 両国の閣僚は,終始率直かつ友好的雰囲気の中に,議事を進めた。

 両国の閣僚は,まず全体会議において両国関係の全般的レヴューを行ない,両国それぞれの経済情勢につき説明を行なった後,両国関係及び国際情勢,経済協力,貿易,租税,農林水産,海運の各問題別の個別会議を開催し,最後に再び全体会議を開催して総括を行なった。

六 両国の閣僚は,国際情勢一般に関して広範囲に意見を交換した。日本側は,世界的な緊張緩和の情勢を指摘し,日本の外交の基本方針が平和の維持にあることを説明した。韓国側は,アジア地域における緊張状態の存在を強調し,共産主義勢力の直接の脅威に直面している韓国の特殊な立場を説明した。

 両国の閣僚は,両国間の緊密な協調関係がアジア太平洋地域での自由諸国の平和と繁栄に寄与することを確認し,アジア太平洋閣僚会議(ASPAC)等を通ずる地域的協力体制の維持強化のため引続き協力することに意見の一致をみた。

七 両国の閣僚は,両国間の条約及び諸協定の実施状況を含め,両国間における諸般の関係を検討し,相互の理解と信義に基づき両国間の協調関係を着実に発展させなければならないこと,及び両国間の諸問題に関して,一層緊密な協議を行なうことが必要であることに意見の一致をみた。

 (一) 韓国側は,在日韓国人の法的地位及び待遇に関する協定の日本国内における実施に関して去る七月二〇日及び同二一日の両日にわたり東京で開催された両国政府関係実務者の会談で了解された事項は,最短期間内に確認されるべきであると述べ,これに対して日本側は異議がない旨表明した。

 (二) なお「北送問題」については,韓国側はこれに強く反対する立場を再び明らかにし,その即時打切りを要請した。これに対し日本側は,今年一一月をもって終了することになっているいわゆるカルカタ協定を再延長する考えのないことを明らかにした。

八 日本側は,日本の経済事情に関し,昨年に引続き本年も国内経済活動が活発に推移している反面,国際収支等に問題が生じるおそれの出てきたことを指摘し,今後における均衡がとれ安定した経済成長のため財政金融政策の適切な運営をはかる意図であると述べた。

 韓国側は,昨年九月,ソウルで開催された日韓経済閣僚懇談会以後の韓国の経済成長につき説明し,特に第二次経済開発五カ年計画の早期完遂の展望を明らかにした。

九(一) 韓国側は,韓国の第一次経済開発五カ年計画をはるかに上廻る顕著な経済成長の実績を説明し,第二次経済開発五カ年計画の早期達成に対する日本側の協力を要請し,これに必要な一般プラントについて今後二億ドルを限度とする新たな商業上の民間信用にかかる輸出承認を一九七〇年上半期までに,これらプラントが完成するよう行なうことを要請した。

 日本側は,これに対し,二億ドルを限度とする新たな商業上の民間信用にかかる輸出承認を行なう用意がある旨を述べ,その実行のスケジュールについては,至急両国政府間で協議することに合意した。

 (二) 九千万ドルの漁業協力のための民間信用供与及び三千万ドルの船舶輸出のための民間信用供与については,日本政府は一九六七年以降一九六八年末までに三千万ドルを限度として輸出承認を行なうこととし,その後もなるべく速やかに実施するよう両国政府間で合議することとなった。

 (三) 一九六七年八月一〇日現在すでに韓国側が銀行保証状を発行したプラント契約に関しては,日本政府は所要の手続を経て今後六カ月以内に輸出承認を行なうこととした。

十 両国の閣僚は両国貿易の現況と趨勢を検討し,互恵の原則に基づき将来両国貿易の拡大と均衡を図ることを念頭におきつつ意見の交換を行ない,

 (一) 開発輸出,加工貿易及び合弁投資等を含む貿易拡大の方策に関し検討するため両国政府の関係者によって構成される貿易合同委員会を設けるとの韓国側提案について日本側は同意した。

 (二) 加工貿易に関する韓国側の要望については,日本側は韓国に対して,原材料の無為替輸出及び機械設備の貸与はケース・バイ・ケースで認めることとしており,逆委託加工によって再輸入される商品の原材料部分に対する関税免除については,現状では困難であるが,国内産業と競合しない品目についてはなお十分検討してみたい旨述べた。

 また特恵関税制度についてはなお検討中であるがこれを実施する場合には韓国側の要請する品目に対して十分に配慮する旨述べた。

 (三) 韓国側が要請したプロトタイプ技術訓練センターの設置については,日本側は,その要請に考慮を払い,今後事前調査等により具体的な内容を検討する旨述べた。

 (四) 韓国産葉煙草輸入要請に対して,日本側は試験輸入の結果をまって将来の輸入額の増加を検討する旨約した。

 (五) 在韓日本商社問題に関する日本側の要望に対し,韓国側は現在問題となっている商社に対するオファー商の登録を認めることを考慮し,商社員等の入国,滞在及び家族同伴についても好意的な検討を行なう旨述べた。

 (六) 工業所有権の保護に関しては,日本側は韓国側の要望した関係資料の提供等の便宜をはかり,韓国側は日本の工業所有権の保護に対し好意的考慮を行なう旨約した。

 (七) 日本映画輸入に関する日本側の要望に対し,韓国側は文化映画につき好意的に検討すると述べた。

一一(一) 日本側は,在韓商社に対する課税問題に関し,韓国政府が,韓国内での事業活動に対応した合理的な課税を行なうことにより,早期にこれを解決することを要望した。

 これに対し,韓国側は関係国内法の解釈の許す限り,公正妥当な課税となるよう措置することを確認した。

 両国の閣僚は,租税条約を早期に妥結するため本年一〇月から交渉を開始することにつき,意見の一致をみた。

 (二) これに関連して,韓国側は,在日韓国人に対する日本政府の課税に関して日本政府の好意的な配慮を要請し,かつ,これら在日韓国人の経済活動,特に銀行設立の許可と信用組合の認可及び活動について,日本政府が特別な考慮を払うことを要望し,日本側は,韓国側のこの要望を具体的に検討することを約した。

一二(一) 両国の閣僚は,農林水産物の貿易については,

  (1) 韓国の農林水産物輸出増大を促進するため,日本産品と競合しないものにつき,両国の実務者により契約栽培及び飼育に関する調査を行なうことについて合意した。

  (2) 生牛については,将来の牛肉輸出を促進する趣旨から,牛肉の品質,価格等について必要な資料を得るため,この際例外として,本年度内に生牛の試験輸出をするよう早急に検討することに合意した。

  (3) 農林水産物の輸入制限品目に関する日本側の輸入割当は,日本産品との競合に留意しつつ,漸増を期することに合意した。

 (二) さらに漁業問題については,

  (1) 韓国側は,漁業協力のための民間信用供与九千万ドルの使用に関し,日本国内の船台事情と船価にてらして,必要に応じ,韓国国内造船のための資材及び機器の輸出を認めるよう強く要請した。これに対し,日本側はその趣旨を理解し,これについて検討する旨述べた。

  (2) 漁業協力のための民間信用供与九千万ドルのうち五千万ドルの運用と関連し,海外漁場における市場の共同開拓並びに両国漁業の相互発展等の共同利益をはかるため,両国当局は,民間の合作投資及び相互協力を奨励することに合意した。

  (3) 韓国側は,両国間の増大する水産物の需要を充たし,併せて交易の拡大をはかるため,日韓両国当局は,韓国沿岸増殖事業開発のための共同調査を年内に実施するよう提案した。これに対し,日本側は,日本産品と競合しないものにつき,これを実施することに同意した。

  (4) 韓国側は,両国間の現行協定に基づく漁業協力の見地から,日本国が最近制定した「外国人漁業の規制に関する法律」の施行について,韓国漁船の日本寄港等に支障をもたらすことがないものと理解する旨述べた。これに対し,日本側は同法律の運用に当っては,韓国漁船の日本寄港等に支障のないよう配慮する旨表明した。

一三 日本側は,海運問題に関し,なるべく速やかに海運自由の原則に基づく海運協定を締結することにつき,韓国側の協力を要望し,韓国海運振興法の運用につき,日本海運に不利な影響を与えないよう韓国側の善処を望んだ。

 これに対し,韓国側は,海運自由の原則を将来実現されるべき共同の努力目標とし,両国海運の実情を勘案しながら,海運協定の早期締結のため今後とも継続して努力する旨述べた。

 なお,韓国側は同法は特定国を対象とするものでなく,自国海運の現状にかんがみ,その育成のためやむを得ざるものである旨,またその運用面においては日本側の要望に留意する旨述べた。

一四 両国の閣僚は,今回の会議が,両国の相互理解を深め,相互の協力を一層推進する上に極めて有益であったことに意見の一致をみた。

一五 第二回日韓定期閣僚会議は,来年,日韓両国政府が合意する時期にソウルで開催されることに合意をみた。

一六 韓国側閣僚はこのたびの第一回日韓定期閣僚会議中に日本国政府と国民から示された歓待に対して謝意を表した。