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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回日韓定期閣僚会議共同コミュニケ

[場所] ソウル
[年月日] 1968年8月29日
[出典] 外交青書13号,33−38頁.
[備考] 
[全文]

1 第2回日韓定期閣僚会議は,1968年8月27日から29日まで3日間,ソウルにおいて開催された。

2 会議には,日本側からは,三木武夫外務大臣,水田三喜男大蔵大臣,西村直己農林大臣,椎名悦三郎通商産業大臣,中曾根康弘運輸大臣及び宮沢喜一経済企画庁長官が金山政英駐韓大使とともに出席し,亀徳正之国税庁長官,森本修水産庁長官,荒玉義人特許庁長官も出席した。

3 韓国側からは,朴忠勲副総理兼経済企画院長官,崔圭夏外務部長官,黄鍾律財務部長官,李啓純農林部長官,金正濂商工部長官及び姜瑞竜交通部長官が厳敏永駐日大使とともに出席し,李洛善国税庁長及び金在植水産庁長も出席した。

4 会議は,議題として次の事項を採択し討議した。

 (1)両国関係一般及び国際情勢の検討

 (2)両国の経済情勢

 (3)経済協力問題

 (4)貿易問題

 (5)農林水産問題

 (6)交通運輸問題

5 両国の閣僚は,終始率直かつ友好的なふんい気のうちに議事を進めた。

 両国の閣僚は,まず全体会議において,両国関係を全般的に討議し,両国経済情勢についてそれぞれ説明を行なったのち,両国関係及び国際情勢,経済協力,貿易,農林水産,交通運輸の各問題別の個別会議を開催し,最後に再び全体会議を開催して総括を行なった。

6 両国の閣僚は,国際情勢一般特にアジア・太平洋情勢に関して広く意見を交換した。

 (1)両国の閣僚は,韓国の安全と繁栄が日本のそれに重大な影響があることを認め,さらにアジアにおける平和と繁栄が両国共通の目標であることを確認し,その目標の実現のために,両国が引続き協調し努力することに意見の一致をみた。

 (2)韓国側は,1月21日の事態及び武力による最近の済州島浸透企図事件を含め,大韓民国に対する北からの脅威が増大している最近の事態を説明した。日本側はこれに対し,関心を表明しつつ,大韓民国政府と国民が,かかる事態に対処し,その安全の確保と急速な経済発展のために傾注している努力に対して敬意を表した。

 (3)両国の閣僚は,ヴィエトナム問題に関するパリ会談に注目し,ヴィエトナム共和国国民が,外部からの圧力なしに自らの将来を決定しうる自由と権利が保障されるような名誉ある平和を達成しうるよう強い希望を表明した。

 (4)両国の閣僚は,両国が引続き国際連合等諸国際機構を通じ協力することが有益であることを再確認し,とくに韓国統一のための国際連合の諸般の努力に対し引続き協力することに合意した。

 (5)両国の閣僚は,アジア・太平洋理事会の着実な成長に満足を表明し,この機構を通ずる地域的協力体制の維持強化のため,両国が引続き協力することに合意した。

7 両国の閣僚は,両国間の条約及び諸協定の実施状況並びに第1回定期閣僚会議の共同コミュニケの内容の施行状況を中心に両国関係一般を検討した結果,両国が長期的な観点から互恵の原則と信義に立脚した善隣協調関係をいっそう発展させるため,両国間の諸般の事項に関し,隔意なき協議と効率的施行のため両国政府が引続き努力することに合意した。

8 両国閣僚は,在日韓国人が日本国の社会秩序の下で安定した生活を営むことを希求し,在日韓国人の法的地位,教育及び生活の向上に関する問題について,これら韓国人の福祉をいっそう増進するため,必要に応じ両国の関係閣僚間の会合を含め,関係当局間の会談を可及的速やかに開催することに合意した。

9 韓国側は,これら在日韓国人の経済活動につき,信用組合の設立及びその銀行への昇格について日本側の好意的配慮を要望し,日本側は,信用組合の設立問題は都道府県知事の認可事項であるが,政府としては好意的に考慮している旨述べた。また,韓国側は,在日韓国人の持帰り金の枠,家族送金等について日本政府の特別な配慮を要望し,日本側は,枠をこえた持帰り金については実情に即し好意的に処理する旨約した。

10 韓国側は,在日韓国人の「北送」に強力に反対する立場を再び明らかにした。これに対し,日本側は,1967年11月12日を以つて,いわゆる「カルカッタ協定」は終了し,効力を失っていることを確認した。

11 在樺太韓国人の帰還問題に関し,韓国側は,第2次大戦後20余年を経た現在まで帰還しえないでいるこれら韓国人が早急に樺太から出境しうるよう日本側の協力を要請した。これに対し,日本側は,これら韓国人が早急に樺太から出境しうるようできる限りの協力を行なう旨を表明した。

12 両国の閣僚は,科学技術関係を含む両国間の文化交流の状況につき検討し,今後とも民間の交流を促進し,勧奨することに同意した。

13 両国の閣僚は,日韓間の経済協力と貿易が引続き拡大していることは事実であるが,他方,両国貿易の不均衡もまた大きいことに鑑み,このような貿易の不均衡状態を改善するためには,相互に環境を整備する必要を認め,互恵と地域協力の原則に基づき,貿易の拡大と均衡を図ることが両国の利益に合致することを認め,両国はこのため,できる限りの方策を講ずることに合意した。

 (1)日韓両国は貿易不均衡の改善を図ることを共同の努力目標とし,その具体的方策については,今後概ね5年間の中期的観点から次回貿易合同委員会において討議することに合意した。

 (2)日本側は,委託加工貿易に関し,委託加工により日本に再輸入される物品で国内産業に打撃を与えるおそれのないものについては,原材料に相当する部分につき実際上関税を免除することができる制度を創設する意図である旨述べ,韓国側が要請した品目については今後約3カ月間に産業の実態調査を行なった上,可能なものにつき,逐次品目を追加することを約した。

 (3)両国閣僚は,両国が相互の立場を十分に理解し,長期的には工業所有権相互保護が必要であることを認め,まず商標権に関する取決めを締結する原則につき合意した。

 (4)日本映画輸入に関するかねてからの日本側の要望に対し,韓国側は,まず文化映画輸入の具体的実施のため好意的配慮を行なう旨述べた。

 (5)韓国側は,対馬地区での「密貿易」が韓国経済秩序と両国間の一般貿易に悪影響をおよぼす旨述べ,このような「密貿易」防止のための日本側の協力を求めた。これに対し,日本側は,これを検討し可能な措置をとる旨述べた。

14 農林水産問題に関し,両国の閣僚は,

 (1)農産種子の交換その他の技術交流の問題について検討することを目的とする実務者によって構成される農林水産技術協力委員会を設けるという原則について合意した。

 (2)貿易の不均衡是正については,韓国側は,第一次産品である農林水産物の輸入障壁を除去して自由取引きを主張したのに対し,これらの問題については,両国の経済事情に十分な考慮を払い,可能な範囲において解決して行くことが望ましいことに合意した。

 (3)韓国の農林水産物の輸出拡大の要請を考慮して,かつ日本の国内産品の需給事情を考慮して,一次産品の貿易拡大のために相互に適当と認める品目の開発について技術,資材の面で協力を行なうことに合意した。

 (4)また,漁業問題については,日韓両国は,第1回日韓定期閣僚会議において相互協力することに合意した韓国沿岸増殖事業開発に関して,その後,両国専門家による適地調査の実施,生産品の交易に関する実務者会議および浅海干潟地綜合開発計画検討のための実務者会議開催等順調な進展があったことを確認し,以上の進展に基づき,今後本事業実施のため,水産増殖技術者の相互交流等を行なうことに合意した。

15 韓国における旱害対策事業に関し,韓国側は,農業用地下水開発に関する第3年度無償経済協力実施計画の修正について日本が行なった協力に対し感謝の意を表明するとともに,恒久的な旱害対策を講ずるために日本側に水源開発に要する技術用役ならびに資金の支援(請求権資金の繰上げ使用を含む)を要請したのに対し,日本側は,直ちに技術調査団を派遣し現地調査に積極的に協力することに同意し,具体的計画が作成された場合には,その恒久的対策事業に要する資金は明年度以降の無償供与その他の経済協力資金の中でこれを最優先的に供与する旨約した。

16 韓国に対する商業信用供与について,両国の閣僚は,すでに輸出承認が行なわれた仁川火力発電設備2,587万8千ドル,および近く輸出承認が行なわれる予定の嶺東火力発電設備1,500万ドルを含めた1968年(暦年)の一般プラント分供与枠と1969年(暦年)の漁業協力・船舶輸出の供与枠とを併せて9,000万ドルとすることで意見の一致を見た。

 なお,この使用限度額には,その内容と条件に関する両国間の合意が得られれば,沿岸増養殖事業並びに零細漁業用資材も含めることができる旨了解された。

17 両国の閣僚は,対韓投資については,両国の法令の範囲内において民間で話し合いのまとまった案件について前向きに処理することに合意した。

 さらに,日本側は,対韓投資について日本人と居住者たる在日韓国人との間に取扱い上なんらの差別なり区別を設ける考えは全くない旨付言した。

18 韓国側が要請したプロトタイプ技術訓練センターの設置に対しては,韓国側が具体的な計画を提出する旨述べた。

 日本側は,さきに日本側の協力により大邱に設置された技術訓練センターが所期の成果を挙げたことを確認の上で本件に関する所要の調査を行ない,これが実現のため協力する旨述べた。

19 (1)両国の閣僚は,二重課税防止協定を早期に締結することが両国間の経済協力の促進のための環境整備の重要な一環であることに留意し,貿易の不均衡等を含む両国間の経済関係を考慮に入れた妥当合理的な課税原則に立脚して,できるだけ早い時日内に協定を締結するよう努力するということに意見の一致をみた。

 (2)二重課税防止協定に関して,両国の閣僚は,次のとおり合意した。

  (イ)事業所得の課税に関しては,恒久的施設がある限り,相手国取引から発生するあらゆる所得を課税対象とする。

  ただし,課税所得の計算方法においては,両国間の経済関係を勘案した総括主義により近い基準により相互間で配分するよう両国の実務者間で協議決定する。

  (ロ)船舶,航空機の国際運輸所得に対しては,二重課税防止協定で相互に免税するよう規定する。

  また,これに関しては,両国で協定発効前に暫定的に相互免税に関する覚書を交換する。

 (3)請求権資金取引に対しては,二重課税防止協定付属文書等で営業税を賦課しない方向で検討する。

 (4)日本側が在韓日本商社などに対する課税に関し,韓国政府が韓国内での事業活動に相応した課税を行なうことを要望したのに対し,韓国側は,関係国内法の規定に従い妥当な課税を行なうことを約束した。

 これに関連して韓国側は,在日韓国人に対する日本政府の課税につき日本側の好意的措置を要望したところ,これに対し日本側は今後とも公正な課税が行なわれるよう十分配慮することを約束した。

20 日本側は,日韓両国の海運協調の促進が両国海運の発展にとり不可欠の条件である旨強調し,そのため1968年10月を目途に第3次政府間海運会談をソウルで開催し,海運協定逐条案審議のためのワーキング・グループの設置,その構成,スケジュール等を決定すること及び現在民間で進められている海運協調交渉を側面より助成し,その早期妥結を図ることを提案した。

 これに対し,韓国側は日韓海運協調が両国海運の共存共栄に必要であることを確認しつつ,本年10月に海運会談を開催し,海運協定案の逐条審議のためワーキング・グループの設置等を論議することに同意し,船舶輸出のための民間信用供与3000万ドルと韓国海運の体質向上のための5000万ドルの追加借款に対して日本側の積極的配慮を要望するとともに,民間海運協調を側面より支援することを確認した。

 これに対し,日本側は,船舶輸出のための民間信用供与5000万ドルの増枠については,3000万ドルの船舶輸出のための民間信用供与が消化された時点においてあらためて検討する問題であると述べた。

21 両国の閣僚は,今回の会議が,両国の相互理解を深め,相互の協力をいっそう促進する上に極めて有益であったことに意見の一致をみた。

22 第3回日韓定期閣僚会議は,来年,日韓両国政府が合意する時期に東京で開催されることに合意をみた。

23 日本側閣僚は,このたびの第2回日韓定期閣僚会議に際しての韓国政府と国民から示された歓待に対して謝意を表明した。