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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第6回日韓定期閣僚会議共同コミュニケ

[場所] ソウル
[年月日] 1972年9月6日
[出典] 外交青書17号,496−501頁.
[備考] 
[全文]

 1 第6回日韓定期閣僚会議は,1972年9月5日及び6日の両日,ソウルにおいて開催された。

 2 会議には,日本側からは,大平正芳外務大臣,植木庚子郎大蔵大臣,足立篤郎農林大臣,中曽根康弘通商産業大臣,佐々木秀世運輸大臣及び有田喜一経済企画庁長官が後宮虎郎駐韓大使とともに出席し,太田康二水産庁長官及び三宅幸夫特許庁長官も出席した。

 3 韓国側からは,太完善副総理兼経済企画院長官,金溶植外務部長官,南悳祐財務部長官,金甫●{火(ひへん)に玄}農林部長官,李洛善商工部長官及び金信交通部長官が李●{水(さんずいへん)に白に告}駐日大使とともに出席し,金東洙水産庁長も出席した。

 4 会議は,次の事項を議題として採択し,討議した。

  (1) 両国関係一般及び国際情勢

  (2) 両国の経済情勢

  (3) 経済協力問題

  (4) 貿易問題

  (5) 農林水産問題

  (6) 交通運輸問題

  (7) 財務問題

 5 会議は,まず全体会議において,国際情勢及び両国関係を全般的に討議し,両国の経済情勢についてそれぞれ説明を行なつた後,国際情勢及び両国関係,経済企画及び財務,貿易,農林水産並びに交通運輸の各問題に関する個別会議を開催し,最後に再び全体会議を開催して総括を行なつた。

 6 両国の閣僚は,国際情勢一般,特にアジア・太平洋情勢に関して広く意見を交換した。

 7 両国の閣僚は,アジア・太平洋地域の情勢が基本的に緊張緩和の方向に向つており,地域内の各国家が相互に協力し,緊張緩和のための努力を継続すべきであることに意見の一致をみた。

 両国の閣僚は,このような情勢下で,この地域の多くの諸国が自助努力により着実に国造りを推進していることに満足の意を表明するとともに,平和と安定と繁栄の中で生きようとする地域内開発途上諸国の念願が尊重されるべきであることを強調した。

 8 両国の閣僚は,アジアにおける平和と繁栄が両国共通の目標であることを認め,この目標実現のため両国が引き続いて協調し,努力することを再確認した。

 9 韓国側は,離散家族の相互訪問及び再会のための赤十字会談の開催と1972年7月4日に発表された南北共同声明に言及し,朝鮮半島の緊張緩和のための韓国政府の努力とイニシアティヴを説明し,日本側はそのような努力とイニシアティヴを高く評価し,歓迎した。両国の閣僚は,朝鮮半島の緊張緩和はアジア地域の平和に寄与するところ大であることにつき意見が一致し,朝鮮半島における緊張緩和努力が成功裡に結実することにより,近い将来朝鮮半島の平和的統一が成就されることを希望した。

 10 両国の閣僚は,アジア・太平洋閣僚協議会がアジア・太平洋地域における地域協力機構として有益な役割を果しており,去る6月ソウルで開催された同協議会第7回閣僚会議が成功裡に終つたことにつき満足の意を表するとともに,この種の地域協力により域内の平和と発展のため,両国が引続き努力することに合意した。

 11 両国の閣僚は,両国が引き続いて国際連合その他の国際機構及び会議を通じて協力することが有益であることを再確認した。

 12 両国の閣僚は,両国関係全般に関して検討した。両国の閣僚は,両国間の友好関係及び協力関係が著しく増進されてきたことに満足の意を表明し,両国政府が,長期的な観点から互恵の原則と信義に立脚した両国間の善隣協調関係を一層発展させるため引き続いて協力することに合意した。

 13 両国の閣僚は,今後とも在日韓国人の福祉の増進につき,外交経路を通じ,また必要に応じその他の方法により,適切な話し合いを行なうことに意見の一致をみた。

 14 両国の閣僚は,第5回日韓定期閣僚会議における合意に基づき,両国間の友好関係と相互理解を深めるため,1972年5月,日本側が韓国農村青年を日本に招請したことに満足をもつて留意し,今後ともこの種の相互交流計画を発展させることが望ましいことにつき意見の一致をみた。

 15 韓国側は,在日韓国人信用組合の昇格問題について日本側の好意的配慮を要請したのに対し,日本側は,種々問題はあるが検討する旨約した。

 さらに,在日韓国人信用組合による日本政府関係金融機関の代理業務取扱いについて,日本側では,差別しないという原則のもとに前向きに検討する旨約した。

 16 (1) 両国の閣僚は,両国間の長期的にみて健全な経済関係を今後一層増進するために,通商関係の拡大均衡が緊要であること及び両国における不均衡是正をさらに推進することが,両国の経済関係の増進に重要な課題であることを再確認し,今後とも可能な方法により,この解決に努力すべきことに合意した。

   (2) 韓国側は,依然として両国間の貿易不均衡が持続しており,これが日韓両国経済関係の増進に大きな障害になるおそれのあることを指摘し,両国間のより一層の関係改善のためには,不均衡の是正策が至急に講ぜられなければならないと主張し,そのための方策として第9次日韓貿易会議において韓国側が要請した輸入自由化,対日輸出関心品目の関税引下げ,加工再輸入品原材料分関税軽減制度適用対象品目の拡大及び特恵関税制度改善が積極的に推進されるよう要望した。

 韓国側は,第5次日韓定期閣僚会議において合意された政府及び民間専門家からなる通商振興調査団の日本側からの派遣が早急に実現されるよう要望するとともに,その調査結果が日本民間企業の対韓投資に対する指針ともなるよう期待すると述べた。

   (3) 日本側は,両国の経済関係は,貿易面,資本協力面のいずれにおいても緊密の度合を深めていること,及び近年両国間の貿易不均衡是正が進展していることを指摘するとともに,日本政府は輸入自由化及び関税引下げを漸次グローバル・ベーシスで推進していくことを基本方針としており,その際,関税引下げについては,韓国側の要請を反映するよう努めることとし,可能なものから引き続き前向きに検討する旨述べた。

 また,加工再輸入品原材料分関税軽減制度対象品目拡大については,一部の韓国側関心品目について,品目の追加をしたい旨述べた。

 さらに特恵問題については,他の主要先進国と協調しつつ,特恵スキームの実質的な改善を行なうこととし,所要の検討を進める意図を有しているので,その際,シーリング方式の改善等について韓国側の要望を留意しつつ検討すると述べた。

 日本側は,通商振興調査団の早期派遣を約すとともに,調査項目については,十分韓国側の要望に沿うようとくに留意する旨述べた。

   (4) 韓国側は,両国間の貿易の不均衡是正が,国際分業の原則に従つた分業体制の促進によつて実現される面を強調し,その具体的方策として,貿易面での諸措置とともに,輸出振興の見地から,日本の民間企業による対韓投資促進を図るため,韓国内において,企業誘致協議会を設置する意向を有する旨述べるとともに,日本側に協力を要請した。

   (5) 日本側は,最近,日本民間企業の対韓投資が引き続き増大していることにかんがみ,民間ベースによる対韓投資調査団の派遣,民間機関による投資斡旋事業等の相互提携関係の積極化が好ましいものであることを述べた。

 韓国側の述べた企業誘致協議会が,日本民間企業の対韓投資の円滑化に寄与することを期待し,その運営に対し民間機関を通ずる協力を促すことに努めると述べた。

   (6) 両国の閣僚は,工業所有権の相互保護が必要であることを認め,特許権及び実用新案権に関する取極を1972年中に締結し,1974年1月1日からこれを適用する原則につき合意し,直ちに必要な交渉を行なうことに意見の一致をみた。

 17 農林水産問題に関し,

   (1) 韓国側は,勤勉,自助,協同を精神的基盤とし,農業生産基盤の造成,農業生産性の向上及び農漁村環境の改善を目標とするセマウル運動が,1971年末頃から盛り上り,今や全国的に広がりつつあること並びにこの運動は,豊かで住みよい農漁村をつくることにより,農林水産部門とその他の部門との間の隔差を縮小し,均衡のとれた経済発展をはかろうとするものであることを説明した。

 日本側は,セマウル運動に関する韓国側の説明に深い関心を示し,農林水産部門の開発が韓国経済の安定的成長のための極めて重要な政策課題であることを理解する旨述べた。

   (2) 韓国側はセマウル事業の成功を確保するために農業の指導者が新しい状況にふさわしい見識と技術を身につけることが重要であることを認識し,全国にわたり模範的な指導者を選抜して日本農村に派遣する農村視察研修計画を実施したいと述べ,日本側の協力を要請した。

 日本側は,韓国農業指導者の農村視察研修計画の意義を認め,1973年度において100名内外の韓国農業指導者を受入れるため所要の協力を行なう用意がある旨述べた。

   (3) 両国の閣僚は,農林水産物の貿易拡大に深い関心を示し,韓国側は農林水産物の輸出増進が貿易均衡に寄与することはもちろん,特に韓国においては農漁民の所得増大にはたす意義が大きいことを指摘するとともに,去る第9次日韓貿易会議において韓国側が要望した特恵関税品目及び輸入自由化品目の拡大,水産物の輸入クォータ拡大並びに一部農林水産物の関税引下げに関し,日本側の一層の努力によりこれら事項の早期実現を図るよう要請した。

 日本側は,韓国側の上記指摘に理解を示すとともに,今後の貿易拡大のための措置については,国内的に種々の困難な事情があるが,韓国側の要望に留意し,関税引下げについては可能なものから前向きに引続き検討する旨述べた。

 18 (1) 両国の閣僚は,両国間の海運活動における秩序維持と協調を進めるための海運協定が締結されるのと同時に,日本が韓国に対して5,000万ドル程度を限度として船舶のための輸出信用を供与するとの前回定期閣僚会議における合意を再確認し,これらをすみやかに実施するため本年10月に実務者会談を開催することに合意した。

   (2) 韓国側は第5回日韓定期閣僚会議の合意に基づき派遣された済州道の観光開発調査団の報告書をもとに済州道総合観光開発計画を作成していることを説明し,同開発計画に関する日本側の評価と検討のための調査団の派遣を要請したのに対し,日本側はかかる調査団の派遣を約した。

 19 韓国側は,第五回日韓定期閣僚会議共同コミュニケ第16項に基づき第3次経済開発5カ年計画の内容とその実施のためにとられる諸措置を調査することを目的として日本政府調査団が本年1月に韓国に派遣されたことを評価するとともに,同計画の農林水産部門以外のプロジエクトとして,浦項綜合製鉄所拡充計画に対する1億3,500万ドルの長期低利の資金協力を要請するとともに,通信施設拡張計画,輸出産業育成計画及びソウル地下鉄第二,第三号線建設計画のため,資金協力を日本側に要請した。

 韓国側は,さらに,このコミュニケ第17項のセマウル運動に言及するとともに,第5回日韓定期閣僚会議共同コミュニケ第17項及び第19項を想起し,農林水産業の生産性向上と所得増大を目的として作成された農業生産基盤造成等のための拡大農漁村投資計画のうち,水利施設拡充,流域総合開発,主産団地総合開発,耕地整理,農業機械化,流通構造改善及び処理加工施設拡充,農漁村電化並びに農漁村保健診療施設拡充の8部門におけるプロジエクトに対し4年間に合計約10億ドルの長期低利の資金協力を要請した。

 また,韓国側は,1971年中の国際経済情勢の変化によつて生じた韓国の輸出の伸び悩み及びウオン貨の為替レート引下げを予想して行なわれた輸入の急増等を原因とする経常収支の赤字に対処することを目的として1972年7月に日本側から供与された円借款154億円に引き続き,日本側の資金協力を要請した。

 韓国側は以上の要請を行なうにあたり,日本からの協力が第3次経済開発5カ年計画の目標である韓国経済の自立達成に寄与するところが大であるとの認識のもとに,同計画が終了する時期においては,日韓経済協力は民間ベースの協力を主体とする段階に移るであろうとの確信を表明した。

 日本側は,韓国の第3次経済開発5カ年計画の農林水産部門以外のプロジェクトに対する協力として,浦項綜合製鉄所拡充計画については,その実施に対する協力の意向を表明し,協力の具体的な範囲及び内容については,調査団を派遣した上検討する旨,また,通信施設拡張計画及び輸出産業育成計画のため,それぞれ62億円までの円借款が供与されるよう協力する旨述べた。

 日本側は,ソウル地下鉄建設計画については,第一号線工事の完成後において検討する旨述べた。

 また,日本側は,第3次経済開発5カ年計画の農林水産部門に対する協力の一環として,地域総合開発,水利施設拡充等農業基盤の整備等に関するプロジェクトに対して,さらに調査の上,日本からの経済協力に適当な範囲で前向きに協力する意図を確認するとともに,挿橋川流域総合開発計画,界火島総合開発計画を初め適格なプロジェクトに対し,246億円までの円借款が供与されるよう協力する旨述べた。

 さらに,日本側は,1971年中にみられた国際経済情勢の変化により,韓国の国際収支が短期的に悪影響を受けていることに特に留意して,154億円までの円借款が供与されるよう協力する旨述べた。

 日本側は,韓国経済の自立がすみやかに達成されることを希望し,第3次経済開発5カ年計画が終了する時期においては,日韓経済協力が民間ベースの協力を主体とする段階に移るであろうとの韓国側の確信の表明に留意した。

 20 両国の閣僚は,今回の会議が終始友好的な雰囲気のうちに運営され,両国の相互理解と友好協力関係の増進のために極めて有益であつたことを認め,第7回日韓閣僚会議を来年両国政府が合意する時期に東京で開催することに合意した。

 21 日本側閣僚は,このたびの第6回日韓定期閣僚会議に際して大韓民国政府と国民から示された歓迎に対して深甚な謝意を表明した。