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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第10回米韓安全保障協議会共同ステートメント

[場所] ソウル
[年月日] 1977年7月26日
[出典] 外交青書22号,414−416頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.韓国と米国間の第10回安全保障協議会は,韓国政府及び米国政府間の1971年2月6日の協定及び1976年5月26日及び27日のハワイのホノルルにおける安全保障協議会の合意に従い,1977年7月25日及び26日,ソウルにおいて開催された。徐鐘●{吉に吉}(Suh Jyong Chul)国防部長官,ハロルド・ブラウン(Harold Brown)国防長官,韓国統合参謀会議議長・盧載鉉(Ro Jea Hyun)大将,米国統合参謀本部議長ジョージ・S・ブラウン(George S. Brown)大将外,両国政府の外務・国防関係高級官吏が会議に参加した。ブラウン国防長官は,訪問中,朴正煕(Park Chung Hee)大統領及び崔圭夏(Choi Kyu Hah)首相を訪問した。

2.徐国防部長官及びブラウン国防長官は,アジア及び太平洋地域における全般的情勢について討議し,北東アジアにおける安全保障の情勢を慎重に検討した。両代表団は,北西の諸島を含む韓国への軍事的脅威を分析判断し,この脅威に対する韓国及び米国共同の防衛能力を慎重に再検討した。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,北朝鮮が近代兵器の取得の増大及びその兵器産業の開発によつて,その軍事力を近年増強したことを認めた。両代表団は,北朝鮮の脅威は,依然重大であるという点で意見の一致を見た。

3.徐国防部長官は,米国の軍事援助の継続及び韓国の安全保障に対する米国のコミットメントの重要性に留意しつつ,韓国の防衛態勢を説明した。両代表団は,朝鮮半島への敵対行為の再発を抑止するに十分な態勢において,韓国の防衛力を維持・強化することが緊要であると結論した。

4.ブラウン国防長官は,計画にそつた米地上戦闘部隊の撤収は,韓国の安全保障に対する米国のコミットメントを如何なる点においても変更するものではなく,1954年の米韓相互防衛条約は完全に有効であり,又同条約に従つて,武力攻撃に対する防衛において韓国を援助するため迅速かつ効果的支援を供与するとの米国の決意は強固であり減退していないとのカーター大統領の言明を伝えた。ブラウン国防長官は,カーター大統領が北朝鮮も他の如何なる国も,この米国のコミットメントの変りない確実性を疑うべきではないと強調したことに特に言及した。

5 ブラウン国防長官は,4〜5年にわたつての米地上戦闘部隊の慎重な段階的撤収は,それが韓国軍を強化・近代化する措置を伴つて行われる限り,朝鮮半島における軍事的均衡に影響を及ぼさないであろうと米国が結論した旨説明した。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,米地上戦闘部隊の計画にそつた撤収に関連して,補完措置が撤収に先立つて或はこれと平行して実施させるものとするという点で合意した。ブラウン国防長官は,米国の空軍,海軍,情報,兵站その他補助部隊が韓国のため残留するであろうと確言した。ブラウン国防長官は,徐国防部長官に対し,撤収は朝鮮地域に平和と安定を維持するような方法で行われるであろうと保証した。ブラウン国防長官はまた,同地における他の米国の地上軍,海軍及び空軍と連携した朝鮮半島に残留する米国の戦術空軍力は,この点に関する米国の決意を明らかに証明するものであろうとのべた。

6.徐国防部長官とブラウン国防長官は,韓国からの米地上戦闘部隊の撤収方式及びこの撤収の代替措置に関し,両国政府間で緊密かつ率直な協議が行われてきたことについて意見をともにし,これらの協議の結果を再検討した。ブラウン国防長官は,1978年末までに6000名が撤収され,残留地上戦闘部隊の撤収は,慎重に段階的に行われ,第2師団の司令部と2箇旅団は撤収の最終段階まで朝鮮に残留するであろうとのべた。ブラウン国防長官は,韓国に残留する米空軍部隊は増強され,米海軍は同地域内に引続き展開されるであろうとのべた。若干の米国の情報,通信その他の支援部隊も亦韓国に残留するであろう。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,北朝鮮に対する抑止力が引続き強力であることを確保するため,韓国軍事力の拡張,半島における軍事的バランス及び同地域の平和と安全保障に影響を及ぼす他の情報が,韓国政府との継続協議の題目になるであろうという点で合意した。

7.徐国防部長官及びブラウン国防長官は,安全保障協議会に先立つて行われた共同軍事作業部会その他の協議を再検討し,韓国の継続的安全保障を確保するための考案された補完措置について討議した。ブラウン国防長官は,米国議会の協議と承認を条件として次の通り韓国がその軍事力を更に強化するのを援助するとの米国政府の意向を表明した。

 (1) 現在朝鮮駐留米軍の保有している一定の装備を無償で韓国に移管する。

 (2) 韓国がその国防軍の能力を改善するのを援助するため,補足的対外軍事販売クレジットを供与する。又,

 (3) 韓国軍の全般的改善のための援助を継続する。

ブラウン国防長官はまた米国政府の次の措置についてのべた。

 (1) 米国政府の海外武器移転政策の枠内で,韓国が北朝鮮の侵略を確実に防止し得るように,優先順位に従つて適当な武器を韓国の利用のため譲渡する。

 (2) 米国政府の武器移転政策の枠内で,国防産業の分野における韓国の自助計画を,関連防衛技術とともに,援助するため特別の努力を払う。又,

 (3) 韓国に対するすべての新たな侵略に抵抗すべき米韓連合軍の即応態勢を維持するため,韓国軍との共同軍事演習を継続し拡大する。

8.徐国防部長官とブラウン国防長官は,両国間の伝統的友好,両国軍隊間の緊密な協力の長い歴史及びこの緊密な絆を更に強化することの望ましいことを認めて,米地上戦闘部隊第1陣の撤収完了前に,韓国防衛のための作戦上の能率を改善するため,米韓連合司令部を設立することに合意した。徐国防部長官及びブラウン国防長官は,米韓両国幕僚が既に開始している連合司令部の組織の計画・研究を継続することに合意した。両代表団は,連合司令部が朝鮮半島の平和と安全保障の維持に対する米国及び韓国の共同のコミットメントを象徴するであろうことを認めた。

9.徐国防部長官及びブラウン国防長官は,関係国に休戦機構の維持をコミットさせる唯一の現存法的取極である休戦協定を実行するための持続的代替取極が存在しない限り,国連軍司令部が平和維持機関として引続き機能することを再確認した。

10.韓国の防衛能力に対する信頼を表明する傍ら,徐国防部長官及びブラウン国防長官は,上述の計画及び措置の遂行は,米国の空軍,海軍,兵站等の必要な支援及び韓国の安全保障に対する米国の確固たるコミットメントと相まつて,いかなる武装攻撃も成功せず,半島における緊張緩和のための協力こそ朝鮮問題を解決できる唯一の方策であることを北朝鮮に対し必ずや明瞭ならしめるであろうということで意見の一致をみた。これに関連して,両代表団は,南北間の不可侵協定に関する韓国の提案を含む,朝鮮半島の緊張を緩和し,平和を強化するため韓国及び米国が試みた重要な政策上のイニシアチブに留意した。両代表団は又,北朝鮮が,1973年に北朝鮮によつて中断された南北対話の再開に合意することによつて朝鮮問題を平和的に解決する意向を示すよう強く要望した。米代表団は,朝鮮に関する4カ国会議のための従来の米国の提案に特に言及し,米国は,韓国の参加なしには朝鮮の将来に関し北朝鮮といかなる交渉にも入らないであろうことを繰返し確言した。

11.両代表団は年次安全保障協議会の重要性と実績に留意しつつ,次回年次安全保障協議会が米国政府の招請により,1978年に米国で開催されることに合意した。

12.ブラウン国防長官は,徐国防部長官に対し,同長官及びその代表団に韓国当局者によつて示された親切と款待に関し,又,協議会の成功に寄与した申し分ない手配に関し,衷心より謝意を表明した。