[文書名] 全斗煥大統領の韓国国会における国政演説(「南北統一」関連部分)
今度は,南・北問題に対して申し上げることにいたします。
その間に展開された歴史の教訓にかんがみ,南・北韓双方の内の一方が,自分の思想,理念,制度をかざして自分の願っている方式の統一だけを固執するならば,統一は決して成就され得ないのであります。統一は,長久な歳月にわたって同じ血筋,同じ歴史,同じ文化と同じ伝統を受け継いできた一つの民族であるという立場に立って,徐々にこれを解決しようとするときに初めて成就され得るのであります。
また,統一は,ある特定階層や集団によって独占的,排他的に主導されてもならず,武力または暴力の方法で追求してもならないのであります。
統一は,あくまでも,民族自決の原則によって,民族全体の自由意思が反映される民主的な手段と平和的方法によって成就されねばならないと私は信じて疑わないのであります。
私が,去年の1月12日と6月5日の2回にわたって南・北韓当局最高責任者の相互訪問と直接会談を提議したのも,まさしく民主的手段と平和的方法による統一の道を虚心坦懐に見出そうということにその意味があったのであります。
この提議が実現されるよう,いままで傾けてきた努力を,これからも根気強く続けるということを明らかにしつつ,本日,私は,南・北韓当局最高責任者会談が実現される場合に提示しようと構想していた統一法案を明らかにすることによって,北韓当局と全世界に対し,我々の真意を理解する機会を与えることにいたします。
平和統一を成就する最も合理的な道は,南北間に民族的和合をもたらし,民族全体の統一意志を一つに集め,統一憲法を採択し,その憲法に従って統一国家を完成させることだと私は確信いたすのであります。
統一憲法をつくり上げるにおいては,双方住民の意思を代弁する南北代表で仮称「民族統一協議会議」を構成し,この機構において,民族・民主・自由・福祉の理想を追求する統一民主共和国を実現するための統一憲法を起草するようにすることがよいと思われるのであります。
統一憲法の草案がまとまれば,双方は,南・北韓全域にわたって民主方法による自由な国民投票を実施して統一憲法を確定・公布し,この憲法が定めるところに従って総選挙を実施し,統一国家と統一政府を構成することによって,待望の統一国家を完成することができるのであります。
統一祖国の政治理念と国号,対内外政策の基本方向,政府形態と国会公正のための総選挙の方法,時期及び手順などは,民族統一協議会議が構成され,双方が統一憲法を起草する過程において討議,合意すべき問題であります。
我々が構想する統一憲法草案は,民族統一協議会議で提示されることになります。
北韓側が真正に祖国の自主的平和統一を望むならば,彼らも我々と同じく民族統一協議会議において,彼らが構想する統一憲法草案を正々堂々と提示し,我が法の草案と非核・検討するなかで一つの単一案をつくり上げる手順に同意しなければならないのであります。
南北双方の間で,このような統一憲法をまとめるための歴史的な作業が順調に推進されるためにはまず信頼が造成されねばならず,民族生活のすべての領域において,統一を阻害する諸要因を着実に解消させる必要があると私は考えるのであります。
したがって,南北双方は,これまでの民族自害的で非正常的な関係に終止符を打ち,一日も早く民族的和合を実現し得る民族自愛的な正常関係に転換しなければなりません。
以上のような見地で,私は,南北双方がなによりも相互関係を正常化し,この基盤の上で民族和合を具体的に実現していくことを望みながら,統一を成就するまでの実践措置として次の合意事項を内容とする「南・北間基本関係に関する暫定協定」を締結することを提議します。
第一,双方は,将来に統一国家が樹立されるまでは互恵平等の原則に立って相互関係を維持していく。
第二,双方は,双方間の紛争問題を解決するにおいて,すべての形態の武力および暴力の使用または脅威を完全になくし,すべての問題を相互の対話と協商を通じて平和的方法で解決する。
第三,双方は,相互関係において,現存する相異なる政治秩序と社会制度を相互に認め合い,互いに相手方の内部問題にいっさい干渉しない。
第四,双方は,韓半島における緊張緩和と戦争防止のため,現存する休戦体制を維持しつつ,軍備競争の取りやめと軍事的対峙状態の解消措置を協議する。
第五,双方は,分断による民族の苦痛と不便を解消し,民族的信頼と和合の雰囲気を造成するため,相互交流と協力を通じて社会的開放を推進していくことにする。双方は,離散家族の人道的再会問題も含めて,南北間の自由な人的往来と多角的な交流を促進し得るよう交易,交通,郵便,スポーツ,学術,教育,文化,報道,保健,技術,環境保存などの諸分野において協力し,これを通じて民族の利益を増進させる具体的な協力を傾けることにする。
第六,双方は,統一が成就されるまで,思想,理念,制度の差異にこだわらずに,全世界の全ての国とそれぞれ締結したすべての双務的及び多者間国際条約と協定を尊重し,民族の利益に関する問題については,互いに協議する。
第七,双方は,閣僚クラスの全権代表を任命し,それぞれソウルと平壌に常駐代表部を設置する。双方は,相互協議によって連絡代表部の任務を具体的に定め,自分の管轄領域に駐在する相手側連絡代表部の任務遂行に支障がないよう必要な便宜と協調を提供する。
私は,北韓側が一日も早く南・北韓当局最高責任者間の会談に呼応し,この席で以上のすべての問題について虚心坦懐な協議が行なわれ得るようになることを希望いたします。
また,私は,早急な時日に,閣僚クラスを主席代表とする南北双方の高位代表団の間で,予備会談が開かれ,南・北韓当局最高責任者間の会議を実現させるに必要な手順をつくることを北韓側に提議する次第であります。
大韓民国政府は,もし北韓側がこのような予備会談開催の提議に同意するならば,この予備会談に所定の代表団を派遣するすべての準備を整えているという事実も,明らかにしておきたいのであります。