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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 北朝鮮の米国及び韓国との三者会談提案に対する韓国国務総理の声明

[場所] ソウル
[年月日] 1984年3月10日
[出典] 外交青書28号,550ー552頁.
[備考] 
[全文]

 私は北韓の政務院姜成山{姜成山にカンソンサンとルビ}総理あての2月10日付書簡において南北韓当局最高責任者会談及び閣僚級会談など,南北間当事者会談を開くよう促した。しかし北韓側は去る3月7日に送付してきた書簡の中で,わが民族が渇望している南北間での直接対話に背を向けたまま駐韓米軍の撤収など,30余年の間反復してきた古ぼけた主張のみを繰り返している。

また北韓の返書は離散家族をはじめとした南北間同胞の間での書信の交換及び相互訪問を一日も早く実現させようという,私の提案に対して,一言の言及さえも行っていない。

 さらに北韓側は全民族が憤激し,全世界が糾弾しているビルマ暗殺爆発蛮行について納得し得るだけの措置をとるように求めたわが方の要求さえも黙殺した。ビルマ暗殺爆発事件が絶対に容認することのできない凶悪無道の反民族的な挑発であったにもかかわらず,私は民族の和合及び平和統一を願う心で隠忍自重しつつ,北韓側にビルマ事件に対して納得し得るだけの措置を取るよう要求した。

 これは,北鮮が彼らの会談提案に真実を立証し得る最小限度の要求であった。南北当事者会談を拒否するばかりでなく,対話のためのわが方の最小限度の要求さえも無視した北韓側の不誠実な態度は,北韓側が対話を通じての南北関係の改善及び統一問題の平和的解決に全く誠意を持ち合わせていないということを反映するものである。

 このようにみるとき,北韓側がビルマ暗殺爆発蛮行と時を同じくして出してきた,いわゆる3者会談提案は,南北間での懸案問題を対話で解決するという考えに基づいたものではなく,彼らの暴力路線を隠蔽しようとする,偽装の術策であるということが一層明白になった。

 北韓側は今回の書簡の中で,国軍の統帥権に物言いをつけ,駐韓米軍の撤収を要求しつつ南北間当事者会談においては,如何なる問題も解決することができないという非合理な主張を持ち出してきた。わが国家元首が厳然として行使している国軍の統帥権に対して,うんぬんすることは,われわれの主権に対しての冒涜であり,事実を歪曲した暴言である。

 北韓側は韓半島の緊張造成の責任が駐韓米軍及びわが方にあるといっているが,この緊張造成の根本的な原因は,ビルマ暗殺爆発蛮行で露呈されたように,北韓側が対南せき化統一のために,手段と方法を選ばず,暴力の挑発を継続的に行っていることにある。

 駐韓米軍についていえば,北韓の6.25南侵がなかったとすれば,1949年に撤収した米軍が再び韓半島には進駐しなかったであろう。

 北韓側は休戦後においても再南侵の企図を捨てず,軍事力を引き続き増強しつつ,1968年1月には武装特攻隊を浸透させて,青瓦台の襲撃を企図し,南北対話が進行した70年代初めからは休戦ライン一帯に南侵用のトンネルをほり、昨年10月にはビルマ暗殺爆発蛮行を犯すなど,暴力及び武力の挑発を継続してきたことは全世界が知っている事実である。

 駐韓米軍はこのような北の南侵の脅威に対処すると共に,韓半島での平和を維持するために韓米相互防衛条約に依拠して駐屯しているのであり,駐韓米軍問題は韓米軍での双務的協定事項であり,北韓側が干渉する性格のものではない。

 北韓側はわが方が問題を解決できる権限がないとの口実を掲げて,南北間での直接対話が必要でないと言っている。

 だとすれば,北韓側は1972年7.4南北共同声明において合意した統一問題の自主的解決の原則に従い,わが方が提案した南北調節委員会の会議及び1971年から1977年まで継続した南北赤十字社会談にはなぜに応じ,また1980年2月から8月までに10回にわたって進行した南北韓総理会談開催のための実務代表の接触には,いかなる目的のために出席したかについて,反問せざるを得ない。

 今になって,北韓側が南北間当事者会談に反対するのは,如何なる理由をもってしても正当化することはできず,統一問題に対する民族自決及び南北間の当事者間での解決原則を自ら否定する自家撞着的な態度であるといわざるを得ない。

 韓半島の平和と統一のためわれわれが解決しなければならない課題はあまりにも多い。

 肉親と離別したつらさを抱いて暮らしている離散家族の苦痛,すべての分野での断絶,日ごとに深化されている不信と反目,尖鋭化された軍事的対峙状態などはこれ以上放置されてはならない問題である。

 これは,われわれ自身が解決すべき問題であるので南北当事者は一緒に会合し,ひたいをつき合わせてひとつひとつ解決していくべきである。統一問題は今日のような対決と不信の関係の中では決して解決されず,民族自決と和合の土台の上で南北韓当事者が対話をもち相互理解と信頼を回復していく時にこの解決の緒が見つかるのである。われわれは南と北に別れているが,民族自決の精神と平和に対する信念をもって努力すれば南北間民族がおのずから和合し統一しえない理由はない。北韓側が平和統一を述べながらも南北が接触することさえ拒否するのであれば彼らがどのような対話を提議するとしてもそれには信頼性がない。

 韓半島の平和と統一のためには何よりも南北韓が一つの席に座らなければならない。北韓側は海外においてまでもわれわれの国家元首を殺害する意図で野蛮なテロ行為を犯したことに対し一日も早く納得しうるだけの措置をとり南北間当局最高責任者会談に出てこなければならない。もし今すぐこれがむずかしいのであれば,南北韓閣僚級会談に同意しなければならない。

 南北韓当事者間会談が進行すれば韓半島問題と関係のある関係国が参加する会談も開催することができるのである。私は北韓側が民族の念願をこれ以上拒絶することなく誠実な姿勢をもって南北韓当事者間の対話に応じることを重ねて求めるものである。

  1984年3月10日

国務総理 陳懿鐘{チンイジョンとルビ}