[文書名] 全斗煥大韓民国大統領の訪日に際しての中曽根総理大臣と全大統領との間の日本・韓国共同声明
1.全斗煥大韓民国大統領閣下及び令夫人は,日本国国賓として1984年9月6日より8日まで3日間日本を公式訪問した。
全斗煥大統領の訪日には,申●{乗の左の縦棒を書かず,上のノの下に横棒一本追加}鉉副総理兼経済企画院長官,李源京外務部長官,裴命仁法務部長官,琴震鎬商工部長官,李振義文化公報部長官,李正五科技術処長官,崔慶禄駐日日本国大使,姜慶植大統領秘書室長,許清一民主正義党総裁秘書室長,李基百合同参謀会議議長及びその他大韓民国政府の高官が随行した。
2.全斗煥大統領閣下及び令夫人は,到着後迎賓館で行われた歓迎行事において天皇陛下の暖かい歓迎を受け,さらに,皇居で天皇陛下と会見した。
3.中曽根総理大臣と全斗煥大統領は,極めて丁重かつ友好的な雰囲気の中で首脳会談を行い,東アジア情勢を含む国際情勢,両国関係及びその他の共通関心事項に関して隔意のない意見交換を行った。
両国首脳は,1983年1月の中曽根総理大臣の韓国公式訪問に引き続き,今般全斗煥大統領により韓国の国家元首として初めての日本公式訪問が行なわれたことは,日韓両国の関係史に新しい章を開くものであり,両国間の善隣友好協力関係の発展にとって極めて大きな意義を有するとの認識を共にした。
両国首脳は,全斗煥大統領の歴史的訪日を契機として子々孫々にわたる日韓善隣友好協力関係を更に発展させ,強固なものにするため共に努力することを決意した。両国首脳は,自由,平和及び民主主義という共通の理念を追求する日韓両国がこのような協力関係を維持発展させていくことは,両国民の利益になるのみならず,東アジアの平和と安定,ひいては世界平和にも貢献することにつき意見を共にした。
両国首脳は,1965年の日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約の基礎の上に日韓両国が互恵平等,相互の理解と尊敬に立脚しつつ,互いに成熟した友邦として永遠の善隣友好協力関係を世界的な視野で構築していくべきであることにつき意見が一致した。
4.総理大臣と大統領は,昨年の総理大臣の訪韓を契機として経済協力問題が妥結して実施されつつあり,さらに両国間の定期閣僚会議,外相会談及び科学技術大臣会談を始めとして各分野にわたる政府間会議が成功裡に開催されたことが両国間の友好協力関係の増進に大きく寄与していることにつき満足の意を表明し,今後ともこのような両国政府間の協議をより緊密に維持していくことに合意した。
両国首脳は,また,両国国会議員間及び民間次元での交流と協力を通じ両国間の友好協力関係が増進していることにつき満足の意を表明し,このような活動が今後とも維持発展されるべきであることにつき意見を共にし,両国議員連盟間の努力により文化交流基金が設立されたことを歓迎した。
5.総理大臣と大統領は,朝鮮半島における平和と安定の維持が日本を含む東アジアの平和と安定にとって緊要であることにつき見解を共にし,この地域の平和と安定及び繁栄のために今後とも互いに努力していくとの決意を最確認した。
両国首脳は,朝鮮半島問題は,基本的に南北両当時者間の直接対話を通じて平和的に解決すべきであることにつき意見を共にした。
総理大臣は,これに関連し,大統領が提唱した南北当局最高責任者会談の開催提案,民族和合民主統一提案等の平和統一のための韓国の対話努力を支持する日本政府の立場を再確認し,朝鮮半島をとりまく引き続き厳しい情勢下で韓国政府の防衛努力がこのような対話努力とあいまって朝鮮半島の平和維持に寄与していることを高く評価した。
大統領は,韓国と北朝鮮の国際連合加盟が統一に至る過程におけるひとつの措置として朝鮮半島の緊張緩和と平和の永続に寄与することになる旨説明し,総理大臣は,日本政府として緊張緩和及び国連の普遍性を高めるものとしてそのような措置を支持する旨述べた。
6.総理大臣と大統領は,昨年の大韓航空機撃墜事件とラングーン・テロ事件を想起し,かかる武力の行使及び国際テロ行為の防止のため引き続き努力していく決意を新たにした。
7.総理大臣と大統領は,日韓両国が相手国の経済成長と繁栄が自国の経済成長と繁栄にも貢献することに留意し,両国間の幅広い経済面での協力関係を増進することが重要であることにつき意見を共にした。
両国首脳は,両国間の貿易を拡大均衡の方向で発展させることが望ましいことにつき意見を共にし,定期閣僚会議と貿易会議等を通じて今後の貿易関係の健全な発展のために緊密な協議を継続していくことに合意した。これに関連し,両国首脳は,本年9月末よりソウルで開催される国際貿易博覧会の際に日本の輸入等促進ミッションが韓国に派遣されることになったことを評価した。
両国首脳は,両国の産業技術協力拡大が望ましいことを再確認し,政府次元での技術協力を促進していくこととし,民間部門の交流と協力の増進のための環境整備に関し協議を継続することとした。これに関連し,両国首脳は,韓国技術者の日本国内における研修計画が今年の秋頃から実施されることになったことを評価した。
両国首脳は,本年7月ソウルで開催された第6回日韓科学技術大臣会談の成果に満足の意を表明し,両国の政府機関及び公共機関間の科学技術協力をなお一層促進することとした。両国首脳は,両国間の科学技術協力協定の締結のための交渉を早期に開始することに合意した。
この他,両国首脳は,世界の一部で起こっている保護主義の強化の動きに対し深い憂慮を表明しつつ,自由貿易の維持強化のために国際場裡で今後とも緊密に協力していくことにつき意見の一致をみた。また,両国首脳は,関税及び貿易に関する一般協定(GATT)での新しい多角的貿易交渉の開始のために協力することを確認した。
8.総理大臣と大統領は,両国が各々の民族的伝統と自主性を尊重しつつ,国民的基盤に立脚した交流を拡大していくことが長期的な観点からの日韓善隣友好協力関係の発展にとって極めて重要であるとの認識を共にし,このための方途として学術,教育,スポーツ等の文化交流を漸次拡大していくことを再確認するとともに,特に21世紀に向けての若い世代間の相互理解が大切であるとの観点から,両国間の青少年交流の一層の促進が望ましいことにつき意見が一致した。
また,両国首脳は,特に来年が両国国交正常化20周年に当る年であることを勘案し,現在両国において検討されている記念行事が所期の成果を挙げることが出来るよう希望を表明した。
9.総理大臣と大統領は,在日韓国人の特殊な歴史的背景を考慮し,その法的地位及び待遇の問題が両国民間の友好関係の増進に深くかかわってきていることに留意した。
大統領は,これに関連し,これまで日本政府がとってきた措置を評価しつつ,日本政府がこの問題について今後とも努力を継続するよう要請し,総理大臣は,引き続き努力する旨述べた。
10.総理大臣と大統領は,1988年のソウル・オリンピックが政治的体制や理念的差異を超越した純粋なオリンピック精神の下に開催されることにより人類の和合と世界の平和に寄与し得る重要な契機となるとの認識を共にし,世界の全ての国家の参加の下の同オリンピックが成功裡に開催されることについての期待と確信を表明した。
11.総理大臣と大統領は,太平洋地域内の諸国間に深まりつつある相互依存関係とこの地域の急速な発展に留意しつつ,太平洋地域の協力強化が同地域の繁栄はもとより,世界の平和と繁栄にも寄与し得ることにつき認識を共にし,太平洋諸国間の各種交流拡大を通ずる協力関係増進の必要性とその重要性を再確認した。
12.全斗煥大統領閣下及び令夫人は,一行を代表し今般の訪日期間中に日本政府と国民が示した温かい歓待に対し深い謝意を表明した。