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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大韓航空機撃墜事件に伴う北朝鮮制裁措置に関する小渕恵三官房長官の談話

[場所] 
[年月日] 1988年1月26日
[出典] 日本外交主要文書・年表(4),799ー800頁.
[備考] 
[全文]

1.政府は,昨年11月29日,115名という多数の犠牲者を出した大韓航空機858便事件について,その真相究明のため韓国を始め関係各国政府と緊密な協力を行うと共に情報の収集に努めてきた。その結果,本事件は,北朝鮮の組織的テロ行為によるものであると確信するに至った。

2.従来より,政府は,航空機等に対するテロ行為は,世界の平和と秩序に対する許し難い行為であるとの立場をとってきたところであり,今般の北朝鮮によるテロ行為は,国際社会により強く糾弾,排斥されなければならず,かかる事件の再発は断固阻止されなければならないと考える。

 特に,今般の事件において,我が国の偽造旅券が行使され,あたかも日本人が関与したかのごとき擬装がなされたことは,誠に遺憾なことであると考える。

3.政府としては,今般の事件に対する毅然たる姿勢を示すとの観点から,北朝鮮との交流の在り方を再検討した結果,当分の間次の措置を採ることとした。

(1)我が国の外交官と北朝鮮の職員との第三国における接触を厳しく制限する。

(2)国家公務員の北朝鮮渡航を原則として見合わせる。

(3)北朝鮮からの公務員の入国は原則として認めないこととし,その外の北朝鮮からの入国については,その審査をより厳格に行うこととする。

 また,北朝鮮籍の船舶が我が国港湾に入港する場合であっても,その乗員の上陸については,その審査をより厳格に行うこととする。

(4)我が国と北朝鮮との間を航行することとなる特別機については,第三国のものであっても我が国への乗り入れを認めない。

4.さらに,政府としては,ソウル・オリンピックの安全対策のため,韓国と協力して万全の措置を採る考えであり,また,今後旅券の偽造を防止するため,最大限の努力を傾注する所存である。

 また,国際機関等においても,かかるテロ行為が再び繰り返されることのないよう,関係諸国と緊密な協力を進めることとする。

5.なお,今般の事件を通じて,朝鮮半島の緊張が激化することは避けなければならず,朝鮮半島の永続的平和と安定を希求する我が国としては,この地域に深いかかわりを有する関係者間の対話を促進するよう引き続き努力していく所存である。

6.本談話に盛られた政府の北朝鮮に対する厳しい態度に対し,国民各位の理解と支持を求めたい。

(以下,口頭で補足説明)

1.政府としては,今次措置は,ソウル・オリンピック終了時に見直す考えである。

2.また,我が国旅券偽造等については,我が国として真相究明のための努力を今後とも継続していくことは当然である。

3.なお,我が国国内の心ない者により,在日朝鮮人等に対するいやがらせ等卑劣な行為が行われることは断じて容認されるべきではなく,かかる行為に対し,政府としては,厳しい態度で臨む考えである。