[文書名] 犯罪人引渡しに関する日本国と大韓民国との間の条約 (略称)韓国との犯罪人引渡条約
平成十四年四月八日 ソウルで署名
平成十四年五月二十九日 国会承認
平成十四年六月四日 批准の閣議決定
平成十四年六月六日 東京で批准書交換
平成十四年六月七日 公布及び告示
(条約第四号及び外務省告示第二五〇号)
平成十四年六月二十一日 効力発生
前文
日本国及び大韓民国(以下「締約国」という。)は、
犯罪人引渡しに関する条約を締結することにより、犯罪の抑圧のための両国の協力を一層実効あるものとすることを希望して、
次のとおり協定した。
第一条 引渡しの義務
一方の締約国は、引渡犯罪について訴追し、審判し、又は刑罰を執行するために他方の締約国からその引渡しを求められた者であって当該一方の締約国の領域において発見されたものを、この条約の規定に従い当該他方の締約国に引き渡すことに同意する。
第二条 引渡犯罪
1 この条約の適用上、両締約国の法令における犯罪であって、死刑又は無期若しくは長期一年以上の拘禁刑に処することとされているものを引渡犯罪とする。
2 引渡しを求められている者が引渡犯罪について請求国の裁判所により刑の言渡しを受けている場合には、その者が死刑の言渡しを受けているとき又は服すべき残りの刑が少なくとも四箇月あるときに限り、引渡しを行う。
3 この条の規定の適用において、いずれかの犯罪が両締約国の法令における犯罪であるかどうかを決定するに当たっては、次の(a)及び(b)に定めるところによる。
(a)当該いずれかの犯罪を構成する行為が、両締約国の法令において同一の区分の犯罪とされていること又は同一の罪名を付されていることを要しない。
(b)引渡しを求められている者が犯したとされる行為の全体を考慮するものとし、両締約国の法令上同一の構成要件により犯罪とされることを要しない。
4 3の規定にかかわらず、租税、関税その他の歳入事項又は外国為替に係る規制に関する法令上の犯罪について引渡しの請求が行われる場合にあっては、同一の種類の租税、関税その他の歳入事項又は外国為替に係る規制について当該犯罪に相当する犯罪が被請求国の法令において規定されている場合に限り、両締約国の法令における犯罪とされる。
5 そのいずれもが両締約国の法令における犯罪である複数の犯罪について引渡しの請求が行われる場合には、そのうち一部の犯罪が1又は2に規定する条件を満たしていないときであっても、被請求国は、少なくとも一の引渡犯罪について引渡しを行うことを条件として、当該一部の犯罪について引渡しを行うことができる。
第三条 引渡しを当然に拒むべき事由
この条約に基づく引渡しは、次のいずれかに該当する場合には、行われない。
(a)引渡しを求められている者が請求国において引渡しの請求に係る犯罪について有罪の判決を受けていない場合にあっては、被請求国の法令上当該犯罪をその者が行ったと疑うに足りる相当な理由がない場合
(b)引渡しを求められている者に裁判が行われることが十分に通知されておらず、又は法廷における防御の機会を与えられておらず、かつ、自ら出席して再審を受ける機会を与えられておらず、又はそのような機会を今後与えられることのない場合において、その者が請求国において引渡しの請求に係る犯罪について欠席裁判により有罪の判決を受けているとき。
(c)引渡しの請求に係る犯罪が政治犯罪であると被請求国が認める場合又は引渡しの請求が引渡しを求められている者を政治犯罪について訴追し、審判し、若しくはその者に対し刑罰を科する目的で行われたものと被請求国が認める場合。この場合において、次の犯罪は、それ自体を政治犯罪と解してはならない。
(i)いずれかの締約国の元首若しくは政府の長若しくはそれらの家族に対し、そのような者であることを知りながら行った殺人その他故意に行う暴力的犯罪又はそれらの犯罪の未遂(当該未遂が犯罪とされる場合に限る。)
(ii)両締約国が当事国である多数国間の条約により、引渡犯罪に含めることを両締約国が義務付けられている犯罪
(d)引渡しを求められている者が被請求国において引渡しの請求に係る犯罪について訴追されている場合又は確定判決を受けた場合
(e)引渡しの請求に係る犯罪について、被請求国の法令によるならば時効の完成その他の事由によって引渡しを求められている者に対し刑罰を科し又はこれを執行することができないと認められる場合(当該犯罪についての管轄権を有しないことが理由である場合を除く。)
(f)引渡しを求められている者を人種、宗教、国籍、民族的出身、政治的意見若しくは性を理由に訴追し若しくは刑罰を科する目的で引渡しの請求がなされていると、又はその者の地位がそれらの理由により害されるおそれがあると被請求国が認めるに足る十分な理由がある場合
第四条 引渡しを裁量により拒むことのできる事由
この条約に基づく引渡しは、次のいずれかに該当する場合には、拒むことができる。
(a)被請求国の法令により、引渡しの請求に係る犯罪の全部又は一部が被請求国の領域又は船舶若しくは航空機において犯されたものと認められる場合
(b)引渡しを求められている者が第三国において引渡しの請求に係る犯罪について無罪の判決を受けた場合又は有罪の判決を受け、科された刑罰の執行を終えているか若しくは執行を受けないこととなった場合
(c)引渡しを求められている者の年齢、健康その他個人的な事情にかんがみ、引渡しを行うことが人道上の考慮に反すると被請求国が認める場合
(d)引渡しを求められている者に関し、引渡しの請求に係る犯罪について訴追をしないこと又は訴えを取り消すことを被請求国が決定した場合
第五条 手続の延期
被請求国は、引渡しを求められている者が自国において引渡しの請求に係る犯罪以外の犯罪について訴追されているか又は刑罰の執行を終えていない場合には、審判が確定するまで又は科されるべき刑罰若しくは科された刑罰の執行を終えるまで若しくは執行を受けないこととなるまで、引渡しを遅らせることができる。
第六条 自国民の引渡し
1 被請求国は、この条約に基づいて自国民を引き渡す義務を負うものではない。もっとも、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。
2 被請求国は、引渡しを求められている者が自国民であることのみを理由として引渡しを拒んだ場合であって、請求国の求めのあるときは、被請求国の法令の範囲内において、訴追のためその当局に事件を付託する。
第七条 領域外の犯罪
引渡しの請求に係る犯罪が請求国の領域の外において行われたものであって、請求国の船舶又は航空機の中において行われたものでない場合には、被請求国は、自国の法令が自国の領域の外において行われたそのような犯罪を罰することとしているとき又は当該犯罪が請求国の国民によって行われたものであるときに限り、引渡しを行う。もっとも、被請求国の法令がそのように規定しておらず、かつ、当該犯罪が請求国の国民でない者によって行われたものである場合であっても、被請求国は、その裁量により、この条約の規定に従って引渡しを行うことができるものとする。
第八条 特定性の原則
1 請求国は、次のいずれかに該当する場合を除くほか、引渡しの理由となった犯罪以外の犯罪であって引渡しの前に行われたものについて、この条約の規定に従って引き渡された者を拘禁し、訴追し、若しくは審判し、又はその者に対し刑罰を執行してはならず、また、その者を第三国に引き渡してはならない。
(a)引き渡された者が、引渡しの後に請求国の領域から離れて、当該領域に自発的に戻ってきた場合
(b)引き渡された者が、請求国の領域から自由に離れることができるようになった後四十五日以内に当該領域から離れなかった場合
(c)被請求国が、引き渡された者をその引渡しの理由となった犯罪以外の犯罪について拘禁し、訴追し、審判し、若しくはその者に対し刑罰を執行すること又はその者を第三国に引き渡すことに同意した場合。この(c)の規定の適用上、被請求国は、次条に掲げる文書に類する文書及び引き渡された者が当該犯罪について行った供述の記録がある場合において、当該記録の提出を求めることができる。
2 請求国は、引渡しの理由となった犯罪を構成する基本的事実に基づいて行われる限り、いかなる引渡犯罪についても、この条約の規定に従って引き渡された者を拘禁し、訴追し、審判し、又はその者に対し刑罰を執行することができる。
第九条 引渡手続及び必要な文書
1 引渡しの請求は、外交上の経路により書面で行う。
2 引渡しの請求には、次に掲げるものを添える。
(a)引渡しを求められている者を特定する事項及びその者の予想される所在地を記載した文書
(b)犯罪事実を記載した書面
(c)引渡しの請求に係る犯罪の構成要件及び罪名を定める法令の条文
(d)当該犯罪の刑罰を定める法令の条文
(e)当該犯罪の訴追又は刑罰の執行に関する時効を定める法令の条文
3 引渡しの請求が有罪の判決を受けていない者について行われる場合には、次に掲げるものを添える。
(a)請求国の裁判官その他の司法官憲が発した逮捕すべき旨の令状の写し
(b)引渡しを求められている者が逮捕すべき旨の令状にいう者であることを証明する情報
(c)引渡しを求められている者が被請求国の法令上引渡しの請求に係る犯罪を行ったと疑うに足りる相当な理由があることを示す情報
4 引渡しの請求が有罪の判決を受けた者について行われる場合には、次に掲げるものを添える。
(a)請求国の裁判所が言い渡した判決の写し
(b)引渡しを求められている者が当該判決にいう者であることを証明する情報
(c)言い渡された刑の執行されていない部分を示す書面
5 請求の裏付けとしてこの条約の規定に従い請求国が提出することを求められるすべての文書は、認証され、被請求国の国語による翻訳文が添付されるものとする。
6(a)被請求国は、引渡請求の裏付けとして提供された情報が、引渡しを行う上でこの条約上の要求を十分に満たしていないと認める場合には、自らが定める期限内に追加的な情報を提供するよう要求することができる。
(b)被請求国は、引渡しを求められている者を拘禁している場合であっても、追加的な情報が期限内に提供されず、又は提供された情報がこの条約上の要求を十分に満たすこととならなくなったときは、その者を釈放することができる。
(c)被請求国は、(b)の規定に従い当該者を釈放した場合には、請求国に対し、できる限り速やかにその旨を通知しなければならない。
第十条 仮拘禁
1 緊急の場合において、締約国は、外交上の経路により、引渡しを求められることとなる者につき引渡しの請求に係る犯罪について逮捕すべき旨の令状が発せられ又は刑の言渡しがされていることの通知を行い、かつ、引渡しの請求を行う旨を保証して、仮拘禁の請求を行うことができる。
2 仮拘禁の請求は、書面によるものとし、次の事項を含める。
(a)引渡しを求められることとなる者についての記述
(b)引渡しを求められることとなる者の予想される所在地
(c)犯罪事実についての簡潔な説明(可能な場合には、犯罪の行われた時期及び場所についての記述を含む。)
(d)違反した法令についての記述
(e)引渡しを求められることとなる者につき逮捕すべき旨の令状又は有罪の判決がある旨の記述
(f)引渡しを求められることとなる者につき引渡しの請求を行う旨の保証
3 被請求国は、自国の法令に基づき仮拘禁請求についての決定を行い、請求国に対し速やかにその結果を通知する。
4 仮拘禁が行われた日から四十五日以内に請求国が引渡しの請求を行わない場合には、仮に拘禁された者は、釈放されるものとする。ただし、この4の規定は、被請求国がその後において引渡しの請求を受けた場合に、引渡しを求められている者を引き渡すための手続を開始することを妨げるものではない。
第十一条 引渡請求の競合
1 同一の又は異なる犯罪に関し、同一の者について他方の締約国及び第三国から引渡しの請求を受けた場合において、いずれの請求国にその者を引き渡すかについては、被請求国が、これを決定する。
2 被請求国は、引渡しを求められている者をいずれの国に引き渡すかを決定するに当たっては、次に掲げる事項その他関連するすべての事情を考慮する。
(a)関係する犯罪の行われた時期及び場所
(b)犯罪の重大性
(c)それぞれの請求の日付
(d)引渡しを求められている者の国籍及び通常の居住地
(e)条約に基づく請求であるかどうか。
第十二条 引渡しの決定及び実施
1 被請求国は、外交上の経路により、引渡しの請求についての決定を請求国に対し速やかに通知する。引渡しの請求の全部又は一部を拒む場合には、この条約中の関係規定を特定して、理由を示すものとする。
2 被請求国は、被請求国の領域内の、かつ、両締約国にとり受入れ可能な場所において、引渡しを求められている者を請求国の適当な当局に引き渡す。
3 被請求国は、その権限のある当局が引渡状を発したにもかかわらず、引渡しを求められている者の引渡しを被請求国の法令により定められた期限内に請求国が受けない場合には、その者を釈放し、その後において当該引渡しに係る犯罪についてその者の引渡しを拒むことができる。請求国は、引き渡された者を、被請求国の領域から速やかに出国させる。
第十三条 物の提供
1 引渡しが行われる場合において、犯罪行為の結果得られた又は証拠として必要とされるすべての物は、請求国の求めのあるときは、被請求国の法令の範囲内において、かつ、第三者の権利を十分に尊重し、その権利を害さないことを条件として、これを提供するものとする。引渡しを求められている者の逃走によりその者の引渡しを行うことができない場合にあっても、同様とする。
2 1の規定により提供された物は、被請求国の求めのある場合は、関係手続の終了後に請求国による経費の負担において被請求国に返還されるものとする。
第十四条 経費
1 被請求国は、引渡しの請求に起因する国内手続について必要なすべての措置をとるものとし、そのためのすべての経費を負担する。
2 被請求国は、特に、引渡しを求められている者を拘禁し、その者を請求国の指名する者に引き渡すときまで抑留するために被請求国の領域において生ずる経費を負担する。
3 請求国は、引き渡された者を被請求国の領域から移送するための経費を負担する。
第十五条 通過
1 一方の締約国は、外交上の経路により請求が行われた場合には、次のいずれかに該当するときを除くほか、他方の締約国に対し、第三国から当該他方の締約国に引き渡された者を当該一方の締約国の領域を経由の上護送する権利を認める。
(a)引渡しの原因となった犯罪行為が、通過を求められている締約国の法令によるならば犯罪を構成しない場合
(b)引渡しの原因となった犯罪行為が政治犯罪である場合又は引渡しの請求が引き渡された者を政治犯罪について訴追し、審判し、若しくはその者に対し刑罰を執行する目的で行われたものと認められる場合。この規定の適用につき疑義が生じたときは、通過を求められている締約国の決定による。
(c)通過により公共の秩序が害される場合
2 1の規定により護送が行われる場合において、その領域を経由の上護送が行われた締約国が当該護送に関連して要した費用については、引渡しを受けた締約国が、これを償還する。
第十六条 協議
1 両締約国は、いずれか一方の締約国の要請により、この条約の解釈及び適用に関し協議する。
2 日本国の権限のある当局及び大韓民国法務部は、個別の事案の処理に関連して、並びにこの条約を実施するための手続の維持及び改善を促進するため、直接に相互間の協議を行うことができる。
第十七条 最終規定
1 この条約中の条の見出しは、引用上の便宜のためにのみ付されたものであって、この条約の解釈に影響を及ぼすものではない。
2 この条約は、批准されなければならず、批准書は、できる限り速やかに東京で交換されるものとする。この条約は、批准書の交換の日の後十五日目の日に効力を生ずる。
3 この条約は、この条約の効力発生の日以後に行われた引渡しの請求(当該請求がこの条約の効力発生の日の前に行われた犯罪に係るものである場合を含む。)について適用する。
4 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し書面による通告を行うことにより、いつでもこの条約を終了させることができる。この条約の終了は、通告が行われた日の後六箇月で効力を生ずる。
以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。
二千二年四月八日にソウルで、ひとしく正文である日本語、韓国語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。
日本国のために
森山眞弓
寺田輝介
大韓民国のために
宋正鎬
討議の記録
本日行われた犯罪人引渡しに関する日本国と大韓民国との間の条約(以下「条約」という。)の署名に至る交渉の過程において、日本国政府及び大韓民国政府の代表団は、次のとおり発言した。
1 日本国代表団は、条約第四条(a)及び第七条に規定する締約国の船舶又は航空機とは、日本国については日本国の刑法第一条第二項にいう日本船舶又は日本航空機を意味し、大韓民国については大韓民国の刑法第四条にいう大韓民国の船舶又は航空機を意味するというのが、日本国政府の理解である旨述べた。
2 大韓民国代表団は、条約第四条(a)及び第七条に規定する締約国の船舶又は航空機とは、大韓民国については大韓民国の刑法第四条にいう大韓民国の船舶又は航空機を意味し、日本国については日本国の刑法第一条第二項にいう日本船舶又は日本航空機を意味するというのが、大韓民国政府の理解である旨述べた。
二千二年四月八日にソウルで
T・T・
S・J・H・
(参考)
この条約は、我が国と韓国との間で、犯罪人の引渡しを当然に拒むべき事由及び裁量により拒むことのできる事由につき規定するとともに、自国民の引渡し、領域外の犯罪に係る引渡し、引渡しの手続、仮拘禁請求に係る手続、通過について定める等犯罪人の引渡しについて包括的かつ詳細に定めたものである。