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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日朝首脳会談後の小泉総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2004年5月22日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

平成16年5月22日

【小泉総理冒頭発言】

 私が今回2度目の訪朝をした最大の理由は、両国にとって日朝平壌宣言、2年近く前、9月17日、共同宣言を発出いたしましたけれども、この日朝平壌宣言を誠実に履行することが極めて重要である、このことを金正日国防委員長と再確認するため、それが最大の理由です。お互いの現在の不正常な関係、この不正常な関係を正常化していかなければならない、両国の敵対関係を友好関係に変えていく、対立関係を協力関係にしていく、このことが両国にとって最も利益になるんだと、こういう大局的な話をしたいということで、今回敢えて再訪朝いたしました。そして、率直に会談を行い、お互い日朝平壌宣言が日朝関係の基礎であるということを再確認いたしました。

 また、拉致の問題につきましては、家族5名、蓮池さん、地村さん、ご家族の方5名と本日、私たちと共に日本に帰国いたす運びとなりました。ジェンキンス氏をご主人に持つ曽我さん、このご家族の問題についても、金正日国防委員長とお話ししましたが、金正日委員長はジェンキンス氏の判断に任せると、自分は家族が離散することを望まないと金正日委員長は言いました。そこで、ジェンキンス氏が必ずしも日本に帰ることを望んでいないということでありますので、そのことについては、私と直に話し合っていいということで、私は金正日委員長との会談終了後、約1時間、ジェンキンス氏と曽我さんのお嬢さんお2人と一緒にお話ししました。しかしながら、ジェンキンス氏は、どうしても今の時点で日本に行くことはできない。そこで私は、金正日委員長は日本に行くことがいやならば、北京で会ったらどうか、そういう方法もあるのではないかということを私との会談中にお話ししましたので、私はジェンキンス氏に率直にそういう話をしました。どうしても日本に帰国することを拒否されるのであれば、第三国、例えば中国の北京で、ジェンキンス氏とお嬢さんお2人と、そして日本におられる曽我ひとみさん、4人でゆっくり家族で相談されてはどうですかということをお話ししましたら、それならいいということでありますので、私は今日本におられる曽我さんに、外務省を通じて確認をしたところ、曽我さんもそれで結構ですということでありますので、早急に曽我さんとジェンキンスさん、お2人のお嬢さん含めたこのご家族4人を再会できるよう機会を設けたいと思っております。

 また、安否が不明の方々、行方不明等、この問題について、日本の家族の方々はまだ生きていると信じておられるのだから、この方々について直ちに、改めて、本格的な再調査をするように約束を求めまして、これも同意を得ました。

 核およびミサイルにつきましては、私から、完全な核廃棄が不可欠であると、国際的検証がまた必要であるということを、金正日委員長に伝えました。金正日委員長も朝鮮半島の非核化が目標である、六者会合を活用して平和的解決に向けて努力をしたい、という表明がありました。また、ミサイルについても、発射実験のモラトリアムの再確認をいたしました。

 今後、日朝平壌宣言を順守していく限り、日本は制裁措置の発動はしないということも、私から発言いたしました。

 また、人道支援として、国際機関を通じて25万トンの食糧、そして1000万ドル相当の医療品の支援を日本から表明いたしました。私は今後、日本と北朝鮮との間の国交正常化交渉再開に向けて、事務当局間でよく打ち合わせして協議を再開したいと思っております。

 今回の私の訪朝が、日朝国交正常化実現への転機となることを、これからも強く期待していきたいと思っております。以上でございます。

【質疑応答】

【質問】 拉致問題ですが、被害者の家族5人の方が帰国されるというのが非常に望ましいことだと思いますが、一方ジェンキンスさんの問題は出てくる、それから安否不明の方々の再調査を合意されたということですが、それはまた先送りになるのではないかという懸念が御家族の方にはあると思いますが、拉致問題全貌解明に取り組まれる総理の決意を改めてお聞かせください。

【小泉総理】 今後、この再調査に向けましては改めて本格的にやろうということでありますので、日本側も参加して徹底的な調査を進めていきたいと。また、北朝鮮側もそれに協力するということでありますので、これは決して先送りでもありません。棚上げでもございません。早期に結果が出るよう、お互い努力していくと。また、北朝鮮側に対して格段の協力を要請しております。

【質問】 拉致被害者の家族の帰国が決まったことと同時に、食糧などの人道支援が日本政府から支援を行うことが発表されたということで、今後、今度の人道支援が被害者の家族の帰国の代償ではないかという批判なり指摘が起こることもあり得るかと思いますが、小泉総理はこの指摘、批判に対してどのように説明されるか、お願いします。

【小泉総理】 どのような問題についても批判はあろうかと思いますが、私どもとしては国際機関の要請を踏まえて人道支援を行うと。しかも国際機関を通じて行うわけでありますので、見返りとは言えない。米国も人道支援を行っております。韓国も行っております。人道上の支援、日本としても国際社会の応分の責任を果たしていきたいと思っております。

【質問】 核問題についてお伺いします。金総書記から六者協議を核として平和的解決に努力していくという言葉が出ましたが、具体的に、先般の作業部会でもまだまだ対立が埋まっておりません。今後の見通しについてお聞かせください。

【小泉総理】 この核問題につきましては、私からも、核を廃棄することによって世界が安全になるのみならず、また国際社会から評価されるのみならず、北朝鮮にとって最も利益になるのが核の完全廃棄だということを強く金正日氏に伝えました。そして金正日委員長は、この核の凍結というのは検証を伴うということも言っておりましたので、この点については私は評価しております。同時に非核化が目標なんだということも言っておられましたので、私はそのように核の廃棄への第一歩を踏み出すということを六者協議の場でもっと強く発信した方がいいということを私は伝えました。日本としても私自身から核を持つことによって得られるエネルギー支援とか、食糧支援とか、あるいは医療支援とか、こういう問題はわずかなものであると。むしろ核を廃棄することによって得られるものをもっと考えたらどうかと。それは国際社会の協力を得られると。単なる一国だけの支援に留まらないと。核を完全に廃棄することによって得られるものと、核を持つことによって得られるものは天と地ほども違うと。そこをもっとよく考えるべきだということを強く私は金正日委員長に言いました。この国際社会が今、北朝鮮側が核を廃棄すれば喜んで国際社会に迎え入れようとするチャンスを逃してはならない、掴むべきだということを強く金正日氏に私は訴えました。かなりの部分で理解を得られたと思います。しかしながらまだ核を廃棄することによって、果たして自らの国の安全が確保されるかということについて確信が持てないようであります。こういう点については私は核を廃棄することによって北朝鮮側の安全はかえって確保されるのだと。その場が六者会合ではないかと。六者会合の場で核の廃棄と、自らの安全保障ということも含めてよく協議して、六者会合をよく活用すべきだと。チャンスを逃してはいけない、チャンスを掴んでくれということを強く訴えました。

【質問】 総理はこの度の訪朝を大変な政治的決断をなさってこの地に来られたと思うのですが、この大きな政治的決断に見合うだけの成果がこの度得られたとお考えになっていらっしゃるのでしょうか。それともう一点、正常化交渉なんですが、正常化妥結の時期についての目途はお持ちでしょうか。

【小泉総理】 まだ国交正常化妥結の時期については明言は出来ませんが、正常化への努力は続けていかなければならない。そして今回、日朝平壌宣言の重要性を再認識したこと、お互いの信頼を醸成出来るような環境を整えていくことに同意をみたこと、そういう点、全体的に見て、私の今回2度目の訪朝は意義あるものだったと私は思っております。

【質問】 ジェンキンスさんと2人の娘さんが来日を強く拒まれたということなんですが、その理由について総理に対して、今日、3人はどう話されて、その懸念について総理はどのように説得というか、お話をされたのでしょうか。

【小泉総理】 1時間程お話をしたもので、事細かにお話しする時間はございませんが、要約すれば、ジェンキンス氏はやはり日本に来て身柄がアメリカに引き渡されるのではないかということに対して強い懸念を持っておられました。また、各種報道機関の報道をよく見ておられまして、私が、日本に来た場合にも御家族が全員一緒に暮らせるように最大限の努力をすると言っても、その点についてなかなかジェンキンス氏は納得いく様子ではなかったわけです。それと、お嬢さんが、自分たちはずっとこの北朝鮮で勉強してきた、お母さんと会いたいという気持ちは強いんだけれども、それは日本で会う前にまずお母さんがここへ戻ってきてほしい、それからの話だということを何回も繰り返されました。そういうやり取りを通じて最終的にそれでは北京でどうかという話になって、それは歓迎するというジェンキンス氏の言葉だったので、それなら、そうできるようにお計らいしましょうということになりました。