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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日韓共同記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2008年4月21日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【福田総理冒頭発言】

 本日、李明博大統領をお迎えし、シャトル首脳外交の大変よいスタートを切ることができました。会談では、最も大切な隣国関係である日韓関係をこれまでになく近いものにし、日韓両国の国際社会の課題に取り組んでいこうという、日韓関係をそのような成熟したパートナーシップ関係に格上げすることが、私たちの仕事であるという認識で一致しました。

 強靭な日韓関係構築のためには、一層の相互理解が必要です。会談では、特に若者の交流を拡大することが重要であるといった点で一致し、ワーキングホリデー制度の拡充などに合意しました。

 日韓経済関係を一層緊密なものとすることも重要であります。大統領とは、日韓EPA、経済連携協定がそのために重要な役割を果たすであろうという点で一致し、今後実務協議を行っていくこととしました。今日の会談に合わせ、両国トップ企業のリーダーが一堂に会する、日韓ビジネス・サミット・ラウンドテーブルを発足し、先ほど大統領とともに第1回会合の報告をお聞きしました。今後の活動に、大いに期待いたしております。

 日韓最大の共通課題であります北朝鮮問題についても、じっくり意見交換を行いました。核問題については、北朝鮮による早期の完全かつ正確な申告の必要性を確認し、日韓二国間、更には日韓米三国間でも従来に増して緊密に連携していくことで一致しました。

 日朝関係については、改めて拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を実現するとの立場を説明し、大統領からは我が国の立場への理解と支持を表明していただきました。

 このほかにも、気候変動問題を始めとする環境問題、エネルギー開発援助等の国際社会の課題についても日韓間の協力強化で一致しました。今年後半には、私が韓国を訪問します。それ以外にも、北海道洞爺湖サミットの機会など、大統領と率直に話し合うことを通じ、協力して日韓新時代を切り開いてまいりたいと考えております。

【李明博大統領冒頭発言】

 まず、私たち一同を温かくお迎えくださった福田総理閣下と日本国民の方々に感謝を表します。

 私は就任後、さまざまな契機を通じて韓国と日本が過去を直視する中で、共同のビジョンを持ち、未来に向かって歩むべきと述べました。両国がお互いのために、そして北東アジアや世界の平和と繁栄のために協力を更に強化していくべきだと思います。

 本日の会談では、福田首相と私は両国が嵐にも揺るぎのない、地中深くどっしりと根差した木のような関係を構築していくべきということで共感しました。

 そのために、まず、首脳間のシャトル外交を活性化し、懸案について随時に会って協議していくようにしました。

 両国の政治家の相互交流とネットワークの構築も互いに積極的に支援することにしました。両国の関係の未来を固める大事な礎となる両国の若い世代間の交流を拡大することにしました。そのことで具体的に合意しました。

 その一環として、ワーキングホリデープログラムを拡大し、来年に7,200人の若者が日本を訪問し、2012年までは、1万人まで拡大することで合意し、また、大学院生300人が部品・素材産業で勉強し、学べるという内容で合意しました。このような大学生交流の事業の実施などについて合意しました。

 更に、2月25日、福田首相は私の就任式にいらしたときに経済界サミット・ラウンドテーブルを議論したことがありますが、わずか2か月足らずで某国の経済界の代表が集まり、同会合を確定し、本日の発表を通じて、その協議の内容を両国の首脳に報告してもらいました。

 私は、この出発が非常に大事だと思いますし、ひとたび8月に開かれるソウルでの第2回ビジネス・サミット・ラウンドテーブルでは、更に具体的な事業が実現できると私は思います。

 我々は、両国の経済協力をバランスよく拡大していくため、部品・素材産業分野の交流の増大方法も検討しましたし、特に政府間の中小企業を担当する政府機関間の政策対話をすることで、両国の中小企業の実質的な交流を促進するという話をいたしました。また、互恵的FTA締結交渉の再開を議論するための実務協議についても合意しました。

 福田首相と私は、過去の歴史問題による問題を解決するために、ともに努力することにし、第2期韓日歴史共同研究が順調に進むよう、政府として引き続き支援していくことにしました。

 同時に、私はこのたびの会談で在日韓国人に対する地方参政権を与える問題についても、日本のより前向きな御対応を要請しました。

 我々は、北の核開発が、韓半島は、北東アジアと世界平和を脅かすものであることで認識をともにし、北の核問題が6者会談を通じて平和的に解決できるよう、両国が緊密に協力をすることで意見をともにしました。

 福田総理は「非核・開放・3000」の説明をお聞きになり、韓国の対北政策に支持を表明し、私は、日朝ピョンヤン宣言を土台に、核、ミサイル、拉致問題といった懸案を解決し、日朝国交正常化交渉を推進するという日本の立場を支持することで合意しました。

 福田首相からもお話がございましたが、福田総理と私は環境、エネルギー、開発援助など、世界的問題についても相互協力することにしました。7月に開かれる気候変動に関するG8アウトリーチ会合でも積極的に協力をすることにし、福田首相のリーダーシップを発揮されることを期待するという話をしました。

 これから、我々両国の首脳は形式にこだわらず、必要なら随時に出会い、すべての内容について積極的に協力し、議論していきたいという話をしました。

 ありがとうございました。

【質疑応答】

【質問】

 福田総理にお伺いいたします。まず、日韓の共通課題である北朝鮮の核問題なんですけれども、この問題を進めるためには、韓国との協力と、それからアメリカを含めた日米韓の協力関係をどう具体的に再構築していくかということが大事だと思いますが、その点についてです。

 それから、拉致問題ですが、韓国の新しい大統領が北朝鮮とは相互主義で臨む李明博大統領に代わりました。新しい大統領と拉致問題でどのような協力関係を築いていくことができると期待されているのか、総理のお考えをお伺いいたします

【福田総理】

 北朝鮮の核問題、これは日韓両国、更には国際社会の重要な課題であるということであります。地域の平和と安定のためには、北朝鮮の非核化が不可欠であります。今日の李明博大統領との会談におきまして、大統領から「非核・開放・3000」の政策について御説明をいただきました。

 この政策は、核問題、拉致問題、ミサイル問題といった諸懸案を解決して、国交正常化が実現すれば、経済協力を実施する。こういう我が国の政策と基本的に同様の考え方であるということでございますので、心強く思った次第であります。日韓両国の間で、これまでにまして緊密な連携ができると思っております。

 北朝鮮が非核化を進めることは、これは北朝鮮自身にとっても利益であるということを理解してもらわなければいけません。日韓両国、更には米国とも緊密に連携して北朝鮮側に働きかけを行ってまいりたいと思います。

 次に拉致の問題でありますけれども、人道、人権の問題も日韓両国にとっては重要なことであります。本日の会談におきまして、大統領から拉致問題の解決のため、できる限りの協力をしたいという発言をいただきました。今後、この分野でも日韓間の協力を進めていきたいと考えておるところであります。

【質問】

 李明博大統領に質問です。大統領は就任後、過去に縛られ、未来に歩む道を緩めることはできないという未来志向の韓日関係を強調されました。しかし、極東問題や過去の歴史問題が再び浮上する場合、未来志向の韓日関係が実用性を挙げることができるかが気になります。また、特に日本側の真心や態度、そして、国内の政治状況において強行モードに変わる可能性は常に残っています。創造的実用を韓日関係において、どのように実現できるかについてお聞かせください。

【李明博大統領】

 その質問は出てほしくなかったんですけれども、出ましたね。

 私は、このように思います。私は、韓日関係は勿論、過去の歴史を私たちが常に記憶するしかありません。しかし、過去に縛られて未来に向かうことに支障を来してはならないと思います。

 歴史認識に関する問題については、その問題については日本のやるべき仕事であり、私たちがその問題によって未来に向かうことに支障を来してはならないというのが確実な考え方ですが、日本側もその意味を十分に理解していただいていると思っています。

 勿論、政治家はたびたび不自然な発言をします。しかし、政治家がそれぞれの意見を持って発言するのをいちいち敏感に対応する必要はないと思います。どの国であれ、政治家はそれぞれ個人の意見をすべて話すことができます。それぞれの意見にいちいち対応することはできませんが、21世紀の未来に向かい、韓日が共同でともに前進するのが両国の繁栄にも役に立ちますし、ひいては北東アジアの繁栄にも役に立つだけでなく、北東アジアの平和を保つことにおいても両国の協力が非常に大事だという、未来の価値を認識し、そして、ともに前進するという立場ですので、私は過去のことが繰り返される、歴史が繰り返され、後戻りすることなく、未来に前進することができると信じています。

【質問】

 李明博大統領にお伺いします。先ほども歴史認識のお話がありましたけれども、今日の首脳会談では天皇陛下の韓国訪問は招請されたのでしょうか。

 また、交渉が中断している日韓の経済連携協定交渉では、韓国側でも自動車など工業製品の利用に対する反対論、慎重論があると聞いておりますが、こういった消極論をどのように乗り越えていかれるお考えでしょうか。

【李明博大統領】

 日本の天皇陛下が韓国を訪問する問題については、本日午後、訪問することになりますので、お会いする前にそれについて事前にお話しするのは礼儀に合わないと思います。しかし、厳密的な意味で申し上げますと、天皇陛下の韓国訪問を、あえて訪問できない理由はないという話を申し上げたいと思います。

 また、両国の経済自由協定の問題については、両国の間でいろいろ議論の的になる一つであります。どの国であれ、FTA問題を協議するときは、両国の利害が相反する問題について互いに調整し、協議し、結局は両国がWin‐Winする合意を導き出して、最終的な合意に着くことになります。

 正直に申し上げて、日本と韓国の関係において、経済問題を見ますと多分的にかなりの格差があるのが事実です。そういう格差をそのままにして進めば、より多くの格差ができてしまうのではないかという懸念もあります。ですので、私はFTA問題について交渉する前に、本日合意した企業間の問題、特に脆弱な部分において相互協力が前提となり、両国がWin‐Winする、互いの役に立つ、互いのためになる方向にしていくべきだと思いますので、この問題については実務レベルで話を始めてもいいと思います。

【質問】

 私は、福田総理に2点についてお伺いいたしたいと思います。

 まず、北の問題です。本日、両首脳は北の非核化のために共同で力を合わせるという話がございました。それが拉致問題において、既存の拉致問題の先決なしに北に対する関係改善はないという日本の立場の違いを意味することかについてお聞かせください。

 また、部品・素材産業の技術移転についてです。現在、韓日の貿易逆調が深刻になっていますが、日本が技術移転を後回しにしているので、韓国では不満が高いです。これに対する日本政府の立場をお聞かせください。

【福田総理】

 北朝鮮問題は、この地域の平和と安定をどのようにして確保するかという問題であります。地域の平和と安定のためには、六者会合の共同声明に書いてありますけれども、朝鮮半島の非核化のみならず、米朝関係、日朝関係の正常化などは包括的に解決される必要がある。こういうふうに述べているわけです。我が国は、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するということでありまして、不幸な過去を清算して日朝国交正常化を実現するという方針でございます。

 今日は、李明博大統領と一致したとおり、今後、拉致問題を含む日朝関係、南北関係が非核化とともに前進するように、日米韓で緊密に協力しながら北朝鮮に対して働きかけを行っていく。こういう考え方をしておるわけであります。そういう私の説明の中で御理解をいただきたいと思っております。

 経済分野のことでございますけれども、韓国側が日本の投資拡大や産業協力に強い関心を持っている。こういうことは理解をしております。日韓EPAに関して進展が得られるならば、日韓企業間協力が推進される環境が醸成されることになります。

 大統領とは、EPA交渉再開に向けた検討のために、実務協議を行うことで一致しました。この協議に日韓双方で精力的に取り組んでいくということが、これからの課題でありますので、そのEPAの進展とともに、今ご指摘のありましたような日韓間の経済的な問題というものが解消されていくのではないかと、私は期待しております。