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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日韓首脳会談共同記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2009年6月28日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【冒頭発言】

1.麻生総理

 李明博(イ・ミョンバク)大統領の御訪日を、心より歓迎する。大統領との会談は、今回で8回目になり、ほぼ月に一度お目にかかっている計算になる。

 ただ今、大統領と、非常に充実した会談を行わせていただいた。日韓の首脳が、日帰りでも往来して意見交換する、文字通りの「シャトル首脳外交」が、根付きつつあることを実感した。

 会談では、現下の最大の課題である北朝鮮問題について、特に時間をとって、非常に有益な話をさせていただいた。北朝鮮の核・ミサイル開発は、安全保障上の重大な脅威であり、決して容認できない。引き続き日韓、また日韓米で連携して対処していくことを確認した。

 国際社会が、安保理決議第1874号をしっかりと実施することが必要である。大統領とは、決議の実施のため、情報交換などの分野で更に協力することで一致した。また大統領より、拉致問題について、可能な限りの協力を改めて表明していただいた。

 アフガニスタンとパキスタンへの支援、ソマリア沖海賊問題など、国際社会の課題についても、日韓協力が具体化していることを確認し、更に協力を進めていくことで一致した。

 経済分野については、大統領にも御来場いただいた「日韓部品素材調達・供給展示会(逆見本市)」など、両国関係を一層強化するための最近の取組を評価した。その上で、日韓EPAの実務協議を7月1日に開催し、交渉再開に向けた議論を一層促進することでも一致した。

 また、環境、宇宙、原子力分野でも協力を促進することで一致した。

 今後とも、大統領との間で、「成熟したパートナーシップ関係」をより一層強化していきたい。

2.李明博大統領

 本日、私共を温かくお迎えくださった麻生総理に感謝申し上げる。

 私が本日日帰りで日本を訪問し、短い時間であったが、単独会談、拡大会談と、非常に有意義な会談を行うことができたと評価するとともに、麻生総理に感謝している。こうして両国首脳がより頻繁に会い、両国関係をより緊密な関係に発展させることができることを期待している。

 私と麻生総理の首脳会談では、北朝鮮問題、両国間の経済協力、国際舞台での協力など、お互いの関心事項について非常に深みのある意見交換を行った。

 特に麻生総理と私は、安保理決議第1874号を忠実に履行することが重要であり、北朝鮮に核兵器やミサイルによって得られるものは何もないということを理解させなければならない。安保理決議は全会一致で採択されたが、決議そのものが目的ではなく、北朝鮮に核兵器をあきらめさせることが目的である。国際社会とも協力して、北朝鮮に核兵器よりも大事なものがあり、核兵器をあきらめることが北朝鮮の社会のためにもなるということを悟らせる必要がある。北朝鮮による核兵器の保有は容認できないという立場を明らかにしていくことで日韓は一致している。五カ国が六者協議の枠内において、どうすれば北朝鮮に核をあきらめさせることができるかを議論していく必要があり、日韓両国が協力し、連携していくことで一致した。

 4月にソウルで開催された「韓日部品素材調達供給展示会」には、私が直接参加し、両国の実質的な協力の下地を見ることができ、多くの成果を得ることができた。また、来る7月1日に開催される「韓日中小企業CEOフォーラム」等で両国間の特に中小企業の産業協力を強化し続けていくこととしており、過去のいかなる時よりも実質的な協力が強化されるよう取り組んでいくことを約束した。

 私は、韓国国内に「部品素材専用の工業団地」を数カ所設け、日本企業が選択して投資できるようにした。日本政府としても、現在積極的に協力していただいていることに、感謝している。

 また、私は、この後、韓日経済人との懇談会を開催し、両国首脳が立ち会うことになっているが、非常に意味深いことと考える。実質的な協力の下地になることを期待している。

 麻生総理と私は、原子力、科学技術、宇宙分野での協力も強化していくこととした。また、韓日自由貿易協定(FTA)の議論が、双方にとって利益となる方向に進んでいくよう両政府で努力していくことで合意した。

 両首脳は、若い世代間の交流が未来の両国の友好増進の礎石であるとの意見を共にし、前回麻生総理から提案のあった理工系学部留学生派遣事業などの青少年交流を持続し拡大していくこととした。

 私から、麗水万博の成功に向けた日本政府と企業の協力に感謝していることをお伝えした。

 私は、在日韓国人社会の歴史的な経緯等にかんがみ、彼らに対する地方参政権を付与できるよう積極的な協力を要請した。

 総理と私は、来る9月に第3回G20首脳会議、気候変動への対応、アフガニスタン及びパキスタンに対する共同支援、テロに対する対応について意見交換した。

 短時間ではあったが、重要な議題について討論し、意見を共にでき、シャトル首脳外交により大きな成果が得られたと考える。準備に御尽力していただいた総理及び日本国民の皆様に、改めて感謝する。

【質疑応答】

(問)

 大統領からも発言があったが、六者会合に北朝鮮が復帰するメドが立たない中で、北朝鮮を除く五者で対応策を協議する案もあるが、どのレベルで、いつ頃、どのような内容で行うかといった具体的な意見交換はあったか。国連の対北朝鮮制裁決議の効果を高めるには、中国の役割が重要と思われるが、日韓としてどのように働き掛けていく考えか。

(麻生総理)

 核問題に限らず、北朝鮮をめぐる諸問題を解決するためには、六者会合が最も現実的な枠組みである。この点については、李明博大統領と完全に一致している。

 その上で、本日は、六者会合を如何にして前進させることができるか、といった点についても意見交換を行った。これまでも、六者会合の枠組みの下では、二国間、三国間など、様々な形で意見交換が行われてきた。そのような流れの中で、五者会合についても、六者会合の前進に資する形で開催できないか、引き続き関係国で検討していくことで一致した。

 国連安保理決議の実効性を高めるためには、中国を含め、すべての国連加盟国がしっかりと決議を履行することが重要である。中国も、安保理決議を真摯に実施するとの立場を表明している。本日の会談では、日韓米の連携を強化するとともに、引き続き、中国との連携も深めていく必要があるとの点で一致した。

(問)

 今般の首脳会談で実現した対北朝鮮問題解決のための韓日及び韓米日の連携の方策は何か。特に、五者協議に対する日本側の反応及び具体的な議題や日程についての議論の有無如何。また米国のBDA式の金融制裁に対する韓国の立場如何。これについての日本との議論の結果如何。

(李明博大統領)

 現在、六者会合の枠内でいろいろな国の間で協議し、効果的な対応のあり方を考えていこうという話をしているところである。今はその内容について公に申し上げる段階ではなく、全会一致で採択された安保理決議第1874号の履行に力を集中すべき段階である。安保理決議はそれ自体が目的ではなく、北朝鮮に核兵器を放棄させることが目的である。六者会合は北朝鮮が核兵器を放棄することが長期的には利益になることを理解させるプロセスである。安保理決議を踏まえて、北朝鮮にどのようにして核兵器を放棄させるかを協議していく必要がある。詳しい話を申し上げるには時期尚早であるが、今後の方向性について日韓の間に見解の食い違いはなく、見解が一致している。また、中国を始め多くの国が北朝鮮に核を放棄させるべきとの点で見解を共にしている。これまでの方法だけではなく、新しい方法を考えていくべきことについても議論している。BDA方式の制裁の是非については、安保理決議に金融措置が盛り込まれたことを踏まえ、各加盟国がその枠内で自らの解釈に基づいて忠実に履行すべきである。

(問)

 日韓EPA交渉の実務協議が課長級から審議官級に格上げされた上で、来月開かれる。日本の農水産品や韓国の工業製品など、各論では意見の隔たりもあるようだが、交渉に弾みがつくのか。

(李明博大統領)

  結論から言えば、両国間の自由貿易協定については互いに協議を経て完成していくべきものである。韓国は原則的にすべての国との間で自由貿易を進めるべきであり、保護主義は排除すべきとの立場である。自由貿易協定については、ASEAN10か国を始めとして、EUと交渉中であり、インドとも近いうちに合意に至るであろうし、米国とも合意に向けた手続をとっているところである。日本との経済協力関係を強化させ、FTAに合意するのが自然であり、世界的な流れである。日本は世界第二位の経済大国であり、韓国との間の協議においても、互いの立場について理解が深まれば意外に早くまとまるのではないかと思う。

(問)

 李明博政権は、新しい国家ビジョンとして「低炭素グリーン成長」を提示し、世界的にも低炭素経済の実現が話題になっている。麻生総理も10日、2020年までに日本の温室ガス排出量を「2005年対比15%縮小する」という中期目標を発表した。日本の産業界は「過度な温室ガス縮小目標により日本経済に対する悪影響が懸念される」と反発している一方、国際社会ではあまりにも消極的なのでないかとの懸念が示されている。このような反対に対し、どのように考えるか。また、目標達成が可能だと考えるか。

 韓日同時サマータイム制の実施に関し、時差がない韓日両国が共に実施する方が両国経済に一層役立つと考えるが、これに対する見解如何。

(麻生総理)

 日本のエネルギー効率は、既に欧米の2倍と世界一の水準である。今回、2020年に2005年比15%減とする中期目標を発表したが、欧州の13%減や、米国の14%減と比べても、高い目標値である。

 また、欧米に比べて、2倍の削減コストを覚悟して、実現しようとするものである。

 しかも、欧米と異なり、日本の産業界・家庭の努力だけで、外国から排出権を買った分などを加算しない、「真水」の、極めて野心的な目標である。

 日本の産業界が、今回の中期目標が高すぎる、と反発しているのも認識している。単純に1%減にするためには、産業界の観点からすれば、10兆円の費用がかかるとの計算となり、とんでもないということである。しかし、1973年の石油危機の際には、1バレル2ドルから6ドルに石油価格が高騰したが、日本の産業界は、技術力を活かして、ピンチをチャンスに変え、難局をブレークスルーで乗り越えた。今回も、太陽光発電、小型水力発電、原子力発電などを利用して、この分野でもブレイクスルーを実現してくれると信じている。

 本日の会談では、大統領との間で、原子力協定や環境問題について意見交換を行い、この分野でも引き続き協力していくことを確認した。

 サマータイムについては、昭和20年代に日本も導入した経験があり、ずいぶん明るいうちに夕食の時間になるとの思いをした経験がある。先進国でサマータイム制を実施していない国は余りない。先進国は概して緯度の高いところにあるので効果は大きいと思うが、サマータイムが、ライフスタイルの変革に及ぼす効果、労働環境に与える影響など、まだ総合的な検討が必要であり、韓国において議論が進んでいることも承知しているので、日本の対応を考えていきたい。日本においては、スポーツ団体などが非常に熱心である。日韓両国は、時差もないので、同時に実施すれば効果は大きいと考えている。