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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] マルーフ・イラク共和国副大統領訪日に際しての日本・イラク共同コミュニケ

[場所] 東京
[年月日] 1977年1月24日
[出典] 外交青書21号,79−81頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.タハ・ムヒディン・マルーフ・イラク共和国副大統領は,日本国政府の公賓として,1977年1月19日より24日まで日本を訪問した。

2.マルーフ副大統領は,1月20日,皇居において天皇陛下に謁見し,陛下から午餐を賜つた。

3.同副大統領は,1月20日,福田赳夫内閣総理大臣と心からなるかつ友好的な雰囲気の中で会談し,2国間関係及び現在の国際問題にわたる両国が共通の関心を有する諸問題につき有益な意見交換を行つた。

 同会談には,イラク側よりサドゥン・ハマディ外務大臣,ヒクマット・イブラヒム外国貿易大臣,ファクリ・カドリ中央銀行総裁及びアブドル・メリク・アルヤシン外務次官が,また,日本側より鳩山威一郎外務大臣及び園田直内閣官房長官が同席した。

4.同副大統領及び総理大臣は,現存する両国間協力を含む2国間関係を検討した。双方は,1974年の日本・イラク共和国両国政府間経済技術協力協定の署名以降,これら2国間関係の展開において達成された相互に有益な進展に満足の意をもつて言及した。双方は,両国間のより強固な関係を確保するよう,種々の分野,特に経済,科学,技術,工業技術及び文化の分野における協力範囲の拡大につき希望を表明した。

5.両者は,文化交流,人的交流を含め,両国間関係について検討を行い,両国の友好,協力関係が近年良好に進展していることを満足の意をもつて言及した。マルーフ副大統領は,両国間の人的交流及び文化交流の促進に対する希望を表明しつつ,両国間の民間航空及び文化協力に関する各協定を締結することを提案した。日本側は,この問題を鋭意検討する旨答えた。

6.マルーフ副大統領は,アジアの安定と発展のために果している日本の役割を高く評価し,アジア諸国と歴史的遺産を共有するイラクとしても,アジアの安定と安寧に多大の関心を有していることを強調した。双方は,インド洋及びその自然的外延における平和と安定の維持の重要性を認識した。

7.副大統領及び総理大臣は,中東情勢に関しても意見を交換した。

 双方は,中東問題が世界の平和に対して有する重要性を認識し,同地域に1日も早く公正且つ永続的な平和が達成されることについての希望を表明した。イラク側は,かかる平和はアラブの全占領地域よりのイスラエル兵力の無条件撤退なくしては達成できない旨述べ,また,問題の実質,すなわち,アラブのパレスチナ人が祖国の地に復帰する権利を無視するいかなる計画あるいは決議をもイラクは拒否する旨強調した。日本側は,安保理決議242号が速やかに且つ完全に実施されるべきであり,また,国連憲章に基づくパレスチナ人の正当な権利が尊重されるべきであるとの日本国政府の立場を再確認した。

8.また,副大統領及び総理大臣は,エネルギー情勢及び両国間の貿易関係についても意見を交換した。

 双方は,エネルギー資源の安定的供給を含め,これらの問題について両国間の相互理解と協力関係を一層深める必要のあることに同意した。双方は,両国間の貿易が健全な趨勢を示しつつあることに留意するとともに,両国間の貿易関係の強化に関し意見を交換した。双方は,また,国際経済情勢の進展につき検討した。

 双方は,種々の国際的文書,就中,第7回国連特別総会の決議に於て双方が支持した諸原則の実施は,国際経済協力の発展と伸長,及び全ての国家と国家の利益のため,貿易障害の除去に資することの確信を表明した。双方は平等と正義に立脚すべき経済関係に対する発展途上国と先進諸国との間の相互理解の重要性を強調した。

9.同副大統領の今次訪日の機会に,1月20日外務省において,両国政府間経済技術協力協定に基づき第1回合同委員会が開催された。

 同会合は,鳩山外務大臣を議長として行われ,日本側より田中通商産業大臣及び倉成経済企画庁長官が,また,イラク側よりハマディ外務大臣,イブラヒム外国貿易大臣及びカドリ中央銀行総裁が出席し,また,双方より,その他政府関係者が出席した。

 第1回合同委員会会合においては,両国間の経済技術協力の実績及び進展を検討した。双方は,この分野におけるこれまでの進展,すなわち,1974年に合意された借款及び信用供与に加え,今回更に相当規模の信用供与について両国政府間において書簡が交換されたことを評価するとともに,現在建設中の肥料プロジェクト,今回実施が合意されたハルサ火力発電所プロジェクト等の工業プロジェクトの具体化及び他の合意された諸開発プロジェクトの実施に参加することを通じて両国間の経済協力を促進することに合意した。

10.また,日本側,イラク側双方より,それぞれ,日本の経済情勢並びにイラクの開発及び工業化の達成状況と今後の見通し,特に国家開発新5カ年計画につき説明がなされた。イラク側は新5カ年計画中の諸プロジェクトに対する日本の継続的協力についての願望を表明し,日本側は,日本の協力がイラクの経済・社会開発に貢献することを希望する旨表明した。

11.第1回合同委員会に引き続き,ハマディ外務大臣及びイブラヒム外国貿易大臣は,それぞれ鳩山外務大臣及び田中通商産業大臣と個別に会談し,相互に関心を有する事項につき更に詳細かつ有意義な意見交換を行つた。

12.マルーフ副大統領は,同副大統領及び随員一行が日本滞在中に受けた暖かい歓迎と厚遇に対し,福田総理大臣,日本国政府及び国民への深い感謝の意を表明した。

13.マルーフ副大統領は,福田総理大臣に対し,イラクを訪問するよう公式に招待を行つた。同総理大臣は,この招待を感謝の念をもつて受諾した。

14.マルーフ副大統領の訪日は,日本国とイラク共和国の友好関係の促進に大いに貢献した。