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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] イスラエルのレバノン侵攻についての宮澤外務大臣臨時代理談話

[場所] 
[年月日] 1982年6月6日
[出典] 外交青書27号,397−398頁.
[備考] 
[全文]

(1)本月4日及び5日の両日,イスラエルはレバノンの各地に対し,大規模な爆撃及び砲撃を加えたが,かかる攻撃は,6日に至っても停止されていない。我が国は,イスラエルのこれまでの攻撃の結果,パレスチナ人を含むレバノン住民に多数の死傷者が出たことを深く遺憾とし,イスラエルが今回かかる重大な結果を生じる行動をとったことを非難するとともに,この種の攻撃は,レバノンの主権・領土保全及び政治的独立に対する重大な侵害であり,直ちに停止されるべきであるとの立場を表明する。

(2)このイスラエルの攻撃及びこれに対する反撃の結果,レバノンにおいては昨年7月関係当事者の努力により成立した停戦合意は今や崩壊の危険にさらされ,レバノン情勢は極度に緊張している。我が国は,今後レバノン国内ないしレバノン・イスラエル国境を巡る各種の軍事行動が中東全体の平和を脅かす重大な武力紛争に拡大する危険を深く憂慮するものである。したがって,我が国は,6月5日我が国の提出した決議案が安全保障理事会の全会一致をもって決議508(1982)として採択されたことを評価するとともに,すべての関係当事者が,同決議の要請に従い,即時軍事活動を停止するよう強く求めるものである。また,我が国は,今後ともこれら関係当事者が最高度の自制を行うよう重ねて強く要請する。

(3)我が国は,かかるイスラエルの行為により,中東和平問題の平和的解決へ到るべき第一歩としてのシナイ半島完全返還の意義が損われ,中東和平問題を巡る雰囲気が更に悪化することを懸念する。

(4)また,我が国は去る6月3日の在英イスラエル大使に対する爆撃のごときテロ行為はいかなる理由をもってしても容認できないものと考えており,かかる行為を厳しく非難する。イスラエルがかかる行為への報復を理由としてレバノンに大規模の攻撃を加えることは正当化されるものではないが,我が国としては,今後,いずれの場所を問わず,この種のテロ行為,特に外交使節に対する攻撃は,国際平和に対する挑戦であり根絶される必要があるとの我が国の立場をこの際改めて宣言する。

{(1)は原文ではマル1}