データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 湾岸危機に関する資料,坂本内閣官房長官談話

[場所] 
[年月日] 1990年8月24日
[出典] 外交青書35号,467頁.
[備考] 
[全文]

1.今月2日のイラクによるクウェイト侵攻及びクウェイト併合という国際法違反の暴挙については,政府はこれを強く非難し,イラク軍が直ちに撤兵すべきこと,クウェイトの正統政府が復帰すべきことを要求してまいりました。政府は同時に,8月5日イラクに対する経済制裁を決定し,これを実施してまいりました。事件発生以来3週間余りが経過し,この間世界の圧倒的多くの国が国連安全保障理事会決議の実施に多大の精力を払っているにもかかわらず,イラク政府がこれに応じていないのは憂慮に堪えません。

2.国連安全保障理事会は経済制裁決定に引き続き,在イラク・クウェイトの外国人の安全を保障すること,出国を希望するものは出国させるべきこと等を決定し,事務総長の特使をイラクに派遣いたしましたが,イラク政府はこれに何らの前向きの答えを出さなかったのであります。イラク政府が自国内の外国人に対する出国の自由を含む適正な取扱いの義務を定める関連条約及び確立した国際法規に違反する行為を取り続けていることは誠に許すべからざる事態であります。

3.政府としては事件発生以来,関係諸国とも協議しつつ,邦人の安全につきできる限りの措置を講じてまいりました。現在クウェイトより出国した多くの邦人を含め,多数の外国人がイラク当局の手により自由を奪われた状態におかれている事態は国際社会において許されてはならない行為と言わざるを得ません。政府としては,この事態の解決を始め,邦人の安全確保のため一層の努力を続ける決意であります。

4.他方において,国際の平和と安定に責任ある役割を果たさねばならない立場にある我が国としては,憲法の下,関係諸国と協力し平和の回復のためにできる限りの貢献をしなければなりません。政府としては,そのためにできるだけ早く具体策の取りまとめを進めてまいる所存であります。

5.事態の深刻なることを踏まえ,国民の御理解を求める次第であります。