[文書名] 湾岸危機に関する資料,海部内閣総理大臣談話
1.1月17日(現地時間),米,欧,アラブ諸国を含む国連加盟国は,イラクのクウェイトからの全面撤退とクウェイト正統政府の権威回復を求める国連安保理諸決議の実現を図るため,武力の行使に踏み切りました。
2.我が国は,これまで,イラク政府に対し,国連安保理諸決議の速やかな履行を強く要求するとともに,最後まで,本件危機を平和的に解決するための努力を尽くしてきました。しかるに,イラク政府は,終始安保理決議を無視し,1月15日までの猶予期間を越えてなおクウェイトの侵略と併合を続けてきました。我が国は,このようなイラクの暴挙を強く非難するとともに,本件危機を平和的に解決するための国際社会の努力が無に帰するに至ったことを深く遺憾とするものであります。
3.隣国に対するイラクのあからさまな侵略と併合は,国際の平和と安全の維持に大きな責任を有する国際連合の権威に対する挑戦であり,これを看過することは,我が国がその生存のためにぜひとも必要とする公正で安定した国際秩序そのものを危殆に瀕せしめるものであります。我が国は,かかる視点に立って,安保理決議678に基づき,侵略を排除し,平和を回復するための最後の手段としてとられた今般の関係諸国による武力に行使に対し,確固たる支持を表明するものであります。
4.我が国は,国際の平和と安全を回復するための関係諸国の行動に対し,国連安保理決議に従って,できる限りの支援を行う決意であります。さらに,我が国は,関係国際機関とも協力して,避難民の救済のため可能な限りの援助を行うこととし,既に実施に移しつつあるところであります。
5.我が国は,イラク政府が,国際社会の一致した意思を尊重し,直ちにすべての関連安保理決議を受諾するよう強く求めるものであります。我が国としては,湾岸地域における戦闘行為が早期に終始し,中東において,永続性のある平和と安定が一日も速やかに達成されることを強く望むものであります。
6.政府としては,湾岸及び周辺地域に在留する邦人の安全に万全を期すべく既に所要の措置をとってきておりますが,今般の情勢の展開より不測の事態が生ずることのないよう,邦人の保護のため引き続き可能なあらゆる手段を尽くす所存であります。また,内外におけるハイジャック等緊急事態の発生があり得ることに備え,その防止のため必要な措置をとっているところであります。
7.また,政府は,国際協調のもとで,日本経済への悪影響を最小限に抑止し,国民生活の安定に努力する所存であります。国民の皆様方に対しても,より一層の省エネルギーへの努力をお願いする次第であります。
8.今次事態に際し,政府は,内閣に内閣総理大臣を長とする「湾岸危機対策本部」を設置し,政府が一体となって総合的かつ効果的な緊急対策を強力に推進することといたしました。
9.政府は,以上の政策が,我が国の国益にかない,かつ国際協調のもとに恒久の平和を希求する我が国憲法の理念にも合致するものであると確信し,国民の皆様方の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。