データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ラビン・イスラエル首相歓迎晩餐会における村山内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1994年12月12日
[出典] 村山演説集,176−178頁.
[備考] 
[全文]

ラビン首相閣下、令夫人、御列席の皆様

 この度イスラエル国よりラビン首相閣下御夫妻とその御一行をわが国にお迎えすることができましたことは、私にとりましてこの上ない喜びであります。今回の御訪問は、わが国がイスラエルから首相をお迎えする初めての機会であり、日本とイスラエルとの長い交流の歴史において大変意義深いものがあります。また、私共は御列席のイスラエルの皆様とともに、閣下がオスロにおいてノーベル平和賞を受賞されたことを本日この場においてお祝いできることを光栄に思う次第であります。

首相閣下

 半世紀程前、イスラエル人と日本人はアジアの西端と東端で、新しい国造りを始めました。両国民にとって、それは歴史上未曽有の惨禍を体験した後に、国を再興し、資源に乏しい狭隘な土地に豊かな国家を築き上げるという課題でありました。

 今日、イスラエルと日本は、その高い教育水準を通じて世界有数の人的資源に富んだ国へと成長し、経済、文化、科学技術等の広範な分野において世界的に著名な人物を生み出しております。この点に関して、私は、最近、両国民の間で、民間経済界や科学者の交流、文化・知的分野のさまざまな交流が拡大発展している状況を大変嬉しく思います。私は貴首相の今回の訪日がこのような二国間関係に新鮮な活力をもたらし、次なる飛躍への契機となることを願ってやみません。

首相閣下

 今日のポスト冷戦時代にあって、地球的規模の戦争が発生する危険は大きく遠のきましたが、私たちは、世界の平和が強く求められているにもかかわらず、各地において平和でなく紛争を、安全でなく脅威を、安寧でなく不安を目のあたりにしています。このような中で、二十一世紀へ向けての最大のテーマは、民族の違い、文化の違い、宗教の違いをどう乗り越えるかにあります。これらの違いを認め、違いに対し寛容に対応し、共通のものを追求する態度が必要となっております。

 なぜなら、二十世紀の末を迎え、私たちは未来への希望を選択する岐路に立っているからであります。私達は人類の英知を結集して、次の世代の人々のために輝かしい未来を選択しなければなりません。

 幸いにも、中東地域においては、今、未来へ向けての大きな動きが開始されています。今世紀の最も複雑なイスラエル・アラブ紛争は、貴首相の卓越した指導力の下、解決へ向け力強い一歩を踏み出しました。この和平プロセスが成功すれば、新秩序を求めている世界に対する大きな希望となることでしょう。

 イスラエル国歌「ハティクバ」は、希望という意味であり、新しい自由な国造りへの情熱を歌ったものと聞いております。他の民族、他の国家との平和的共存は、未来への希望を確かなものとしてくれるでしょう。

 我が国としても、世界の諸地域において、できる限り多くの人々が平和で豊かな暮らしを享受し合えるよう、今後とも貴国と協力しつつ努力を傾けていきたいと考えております。

御列席の皆様

 ここに、ラビン首相閣下のノーベル平和賞受賞を祝しますとともに、首相閣下の御健康並びにイスラエル国の繁栄と発展を祈念し、また、わが国とイスラエル国との末永き友好を願って杯を挙げたいと思います。

 乾杯。