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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ラビン・イスラエル首相主催晩餐会における村山内閣総理大臣のスピーチ

[場所] 
[年月日] 1995年9月17日
[出典] 村山演説集,158−160頁.
[備考] 
[全文]

ラビン首相閣下、(令夫人)、ご列席の皆様

 今夕は、私どもの為にかくも盛大な晩餐会を開いていただきまして、誠に有難く、心より御礼申し上げます。昨年十二月に閣下(及び令夫人)を日本でお迎えし、親しくお話を交させていただきましたが、それから一年も経たない今、私がこうして我が国総理として初めて貴国を訪問できましたことは私にとりまして大きな喜びであります。このことがイスラエルと日本との友好関係史上、特筆すべきことであることは言を俟ちません。

首相閣下

 私は、今朝、ホロコースト記念館を訪れ、半世紀前にユダヤの民が被った恐るべき悲劇の証に目を奪われました。ここに幾百万の犠牲者の霊に対し、謹んで哀悼の意を表します。と同時に、このような悲劇を二度と人類の歴史で繰り返してはならないとの決意をあらたにした次第であります。

 また、私は本日、一つの国民が大いなる意志とビジョンを持って国の建設に励むときに、どのような素晴らしいことを成し得るかを目のあたりに致しました。独立後、半世紀を経ることなくかかる繁栄を達成されたイスラエル国民に心から敬意を表します。資源に乏しく狭い国土にあって、全世界から移民を受け入れつつ、このような豊かな国造りに成功された貴国は、現在国造りに励む世界の多くの国々に対し、ひとつのモデルを示したとも言えましょう。我が国も戦後灰塵の中から、国民一人一人の努力により今日の繁栄を築くことができました。広いアジア大陸の両端にある両国はその歴史も境遇も異なりますが、苦難に打ちかって建国と再建を遂げた経験を世界の平和と繁栄のために生かしてゆけると考えています。

首相閣下

 貴国が閣下の指導のもとで、この地域における平和の構築のためにたゆまぬ努力を傾けておられることに敬意を表したいと思います。マドリードに始まる現在の和平プロセスは、オスロ合意、ガザ・ジェリコ合意、ジョルダンとの和平条約締結と大きく進展してまいりました。ただ残念ながら、平和に反対する勢力には依然根強いものがあり、爆破テロによる犠牲者も後を絶ちません。このような悲しむべき事態に対する最善の回答は、正に閣下が言われるとおり、和平を達成し、平和の配当をイスラエル、アラブ双方にもたらすことにあると考えます。困難な状況にあって、閣下が引き続き自治交渉の完結と包括的和平の早期達成に向けて指導力をさらに発揮されるよう期待し、また祈るものです。我が国としても、新しい中東秩序の構築に向けた平和への努力を力強く支援していくことをお約束致します。

首相閣下

 このエルサレムの地名は「平和の都」を意味するものであると伺っています。エルサレムのユニークさは訪れた者の目には明らかです。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の聖地であるエルサレムは、同時にその歴史故に対立や反目を抱えている街でもあります。知恵と寛容によりイスラエル・アラブ間の包括的和平が早期に達成され、このエルサレムに真の平和が到来することを願ってやみません。

ご列席の皆様

 ここに首相閣下のご健康並びにイスラエル国のさらなる繁栄を祈念し、また、我が国とイスラエル国との友好の絆がさらに強められんことを願って杯を挙げたいと思います。

乾杯