[文書名] 今後10年間の日本・モンゴル基本行動計画
日本国及びモンゴル国(以下「双方」という。)は1972年に両国間の外交関係を樹立した。当時、両国は異なる社会体制の下にあり、関係を発展させる可能性が限定的であったが、そのような中で1990年まで両国関係は正常に推移してきた。
モンゴル国において刷新が進み、自由及び民主主義という価値を希求する社会の建設並びに市場経済制度への移行を開始した1990年当初以降、両国間の協力関係を飛躍的に発展させる基盤が整備されてきた。両政府は、1996年に両国の外交目標として「総合的パートナーシップ」を構築することを掲げた。
M・エンフボルド・モンゴル国首相が2006年3月に日本国を訪問した際、両国は、「総合的パートナーシップ」が成功裡に発展してきたことを確認するとともに、「総合的パートナーシップ」を今後10年間に新たな段階に進展・拡大させることにつき意見の一致をみた。さらに、小泉純一郎日本国内閣総理大臣が2006年8月にモンゴル国を訪問した際、両国は、「総合的パートナーシップ」を新たな段階に進展させるための今後10年間の基本行動計画を作成し、実施することにつき意見の一致をみた。
2007年2月26日、安倍晋三日本国内閣総理大臣及び公式実務訪問賓客として日本国を訪問中のN・エンフバヤル・モンゴル国大統領は、ここに「今後10年間の日本・モンゴル基本行動計画」に署名を行い、発表する。
双方は次の基本方針の下で「日本・モンゴル総合的パートナーシップ」を構築・強化する。
1. 高いレベルの政治的関係を維持、相互理解及び相互信頼の強化を図る。
2. 国際場裡における相互支援及び協力の強化を図る。
3. 貿易・投資等の経済関係を拡充し、互恵関係の構築を目指す。
4. 教育、文化及び人道面における協力の拡大を図る。
1.政務協議及び政策対話
今日まで両国の間で活発に行われてきたあらゆるレベルの協議の結果、両国関係の発展の基礎となる相互理解及び相互信頼が非常に深まった。「大モンゴル国建国800周年」に当たる2006年に両首相が相互訪問し、また日本国の多くの国会議員、有力な政党関係者及び閣僚がモンゴル国を訪問し、両国の間の協力について実りのある意見交換が行われたことは、両国関係史において特筆すべきことである。
また、2006年度には日本国農林水産省とモンゴル国食糧・農牧業省、日本国経済産業省とモンゴル国産業・通商省及び日本国環境省とモンゴル国自然環境省との間で、それぞれ政策対話が新たに行われ、当局間の協力のための政策及び活動を調整するメカニズムが構築される出発点及び基盤が築かれた。
今後の行動
(1)双方は、両国首脳の相互訪問及び首脳会談を継続するよう協力する。
(2)双方は、両国の議会間、議員間、友好議員連盟のメンバー間の交流を引き続き支援する。
(3)双方は、既に政策対話を実施している両国の当局間の協議をできるだけ定期化することとし、協議の成果を高めるとともに、いまだ対話の場を設けていない他の当局間の協議の実施に向けて努力する。
2.国際場裡における協力
双方は、国際社会の平和及び安全保障を強化し、国及び国民相互の間の協力を発展させるため、国際連合、その関連機関及びその他の国際機関において協力し、相互に支援してきた。モンゴル国は国際連合の活動において日本国が果たしてきた貢献を評価し、日本国が国際連合安全保障理事会の常任理事国となるための努力を支持してきた。また、日本国はアジア太平洋地域の多国間協力の枠組みに参加したいとするモンゴル国の関心と希望を理解し、モンゴル国のアジア欧州会合(ASEM)への参加を支持した。
今後の行動
(1)双方は、今後も、国際の平和及び安定の強化並びに国際テロリズム対策、環境保護、天然資源の適正利用、歴史・文化遺産の保護、民主主義及び人権擁護の強化、社会の進歩・発展のために、特に人間の安全保障の理念に基づき、幅広い協力を行う。
(2)双方は、世界の国及び国民が直面している人間の安全保障に対する脅威に関わる喫緊のグローバルな課題に対処するに当たって、国際連合の果たす責務を重視し、国際連合がより効果的かつ効率的にこれらの問題に対応できるようにすることを目的に、国連改革の実現に向けた協力を強化する。
(3)モンゴル側は、日本国が国際連合の安全保障理事会の常任理事国になること及びそのための努力を今後も支持し、日本国が国際連合の安全保障理事会の常任理事国になるまでの期間、日本国が安全保障理事会の非常任理事国として選出されることを支持する。
(4)双方は、モンゴル国の一国非核の地位に関する国際連合総会決議も尊重しつつ、核拡散防止条約(NPT)を礎とする核軍縮不拡散体制の維持強化に向け協力していく。
(5)双方は、両国の国際連合代表部間における活動の連携強化に留意する。
(6)双方は、朝鮮半島情勢、とりわけ、北朝鮮の拉致、核、ミサイル問題をはじめとする地域の課題について、外務省間地域政策対話等を通じて協力を強化する。
(7)日本側は、国際及び地域の他の機関及び活動へのモンゴル国の参加に関して情報の提供、意見の交換及び助言等の支援を行う。
3.政府間経済協力及び官民間経済交流
(A)政府間経済協力
モンゴル国は市場経済体制への移行期を基本的に終え、持続的発展を確保する新たな時代に入っている。
日本国がモンゴル国の民主化及び刷新を支援するために二国間及び国際的メカニズムを創設し、モンゴル国による移行期の目標達成に対して多大な貢献を行ってきたことについて、モンゴル国及びその国民は高く評価し、謝意を表明している。
今後の行動
(1)モンゴル側は、自立的発展のために今後とも自助努力を行い、日本側はモンゴル側のそうした努力に対し、継続して支援を行う。このような支援は、2004年に策定された「対モンゴル国別援助計画」に依拠して実施される。
(2)日本側は、「対モンゴル国別援助計画」の改定に当たっては、モンゴル国の「モンゴル国開発に係る2021年までの総合戦略」(以下「総合戦略」という。)を踏まえて、モンゴル国と十分に協議した上で検討する。
(3)双方は、世界銀行、国際通貨基金(IMF)等の国際機関及び主要ドナー国の参加の下、モンゴル国の「総合戦略」の実施に係る詳細な計画を作成することを検討する。
(4)双方は、モンゴル国の環境が悪化している状況を踏まえて、大気汚染削減、廃棄物の適正管理、自然環境の保全及び黄砂対策に関する協力を進めるとともに、エコツーリズム、地球温暖化対策等の分野における協力について、日本国環境省とモンゴル国自然環境省との間の政策対話の中などで十分な意見交換を行っていく。
(5)双方は、両国の農牧分野の政策立案や法制度の整備、モンゴル国における小麦生産や牧畜生産の増強、及び農牧分野における人材育成について、日本国農林水産省とモンゴル国食糧・農牧業省との間などで今後とも技術的対話を行っていく。
(B)官民間経済交流(貿易・投資)
両国の間の貿易及びモンゴル国に対する日本国の投資は増加している。そのような両国の経済関係を拡大させる潜在的可能性が両国の間には少なからず存在している。
モンゴル国の経済的・社会的安定及び法的環境の整備に関連して解決すべき課題が少なからず存在しているものの、日本国の民間企業のモンゴル国における事業への関心、とりわけ、鉱物資源開発分野に対する関心は高まりを見せている。
今後の行動
(1)両国間の貿易・投資の更なる拡大及び協力関係の強化を目指し、2006年に日本国経済産業省とモンゴル国産業・通商省との間で設置された「日本国経済産業省・モンゴル国産業・通商省定期協議」を基礎とし、構成メンバーに民間及び専門家等を加え、これを官民合同の協議へと格上げする。
(2)この官民合同の協議は、モンゴル国の「総合戦略」を踏まえ、次の事項を議題とする。第一回協議を可能な限り早期に実施する。
(a)モンゴル国の産業開発の在り方及びそのための日本国の協力の在り方
(b)モンゴル国における日本国からの民間投資誘致のための方策及びモンゴル国の法制度面を含めた投資環境整備の在り方
(c)モンゴル国の貿易促進のための方策及びそのための日本国の協力の在り方
(d)両国の企業間におけるビジネス提携の可能性
(e)両国間の貿易・投資に係るその他の問題
(3)双方は、モンゴル国における観光開発、ホテル及びツーリスト・キャンプの建設並びにその経営の向上面で協力する。
(4)日本側は、今後諸外国との間で自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結を目指しているというモンゴル国の意向を踏まえ、モンゴル国がそのための準備を進めるに当たっては、関連情報や助言の提供等、可能な範囲での支援を行う。
(5)双方は、日本国政府が2005年12月に発表した「開発イニシアティブ」の下でのモンゴル国に対する協力に関し、優良な案件の発掘・実施に向けて努力する。
(C)官民間経済交流(モンゴル国の鉱物資源開発)
モンゴル国の豊富な地下資源の開発は、モンゴル国経済のみならず、地域及び国際経済の発展にとって歓迎すべきことであり、資源国の利益に配慮しながらも、まずは開発参加に関心を有する企業の投資意欲を高めるような環境整備が重要である。
今後の行動
日本側は、日本国経済産業省とモンゴル国産業・通商省との間で2006年に設置された鉱物資源開発ワーキング・グループを基幹とし、モンゴル国の地下資源開発に関心を有する企業の参加を得つつ、適切なメカニズムを構築し、モンゴル国の鉱物資源の総合的開発に関する議論を開始する。
4.文化・教育・人道面における協力
両国間の文化、教育、芸術、スポーツ及び人道面の協力は年々拡大発展している。こうした交流の拡大は両国国民の相互理解及び友好関係の促進に資するものである。
双方は、「大モンゴル国建国800周年」に当たる2006年を「日本におけるモンゴル年」とし、日本国・モンゴル国外交関係樹立35周年に当たる2007年を「モンゴルにおける日本年」としたことは、両国間の文化面における協力を活性化し、より一層拡大する好機となると高く評価している。
今後の行動
(1)双方は、両国の歴史、文化、政治、経済及び社会情勢について両国民への紹介、広報を支援する。双方は、研究者及びジャーナリストの相互交流並びに出版物及び映像資料の交換を一層積極的に行う。
(2)双方は、日本国におけるモンゴル研究及びモンゴル国における日本研究の発展のために相互に支援する。
(3)双方は、様々な学術分野における協力を支援する。
(4)双方は、人材育成支援無償資金協力、文化無償資金協力及び草の根・人間の安全保障無償資金協力をモンゴル国の人材育成・教育・文化及び基礎生活分野の強化のために引き続き活用する。
(5)双方は、今後日本・モンゴル文化フォーラムを2年に1度をめどに開催し、両国の文化、芸術及び学術面の協力の目標、指針及び両国がとるべき具体的措置について討議する。
(6)双方は、あらゆる形態の文化、芸術及びスポーツ分野における相互交流及び協力を支援する。
(7)双方は、両国の民間団体及び地方自治体間の直接交流を促進し、支援する。
(8)双方は、日本国に派遣しているモンゴル国の研修生の選抜、保護、研修、派遣及び帰国に関し、研修制度の運営の適正化を図るべく協力する。
両国政府は、本行動計画の実施に関して外交経路を通じ随時協議し、必要に応じてその内容の追加及び修正を決定する。
2007年2月26日東京にて
日本国内閣総理大臣
安倍晋三
モンゴル国大統領
ナムバリーン・エンフバヤル