データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 包括的経済連携に関する基本方針

[場所] 
[年月日] 2010年11月6日
[出典] 外務省
[備考] 包括的経済連携に関する閣僚委員会
[全文]

1.我が国を取り巻く環境と高いレベルの経済連携推進

 我が国は、今、「歴史の分水嶺(れい)」とも呼ぶべき大きな変化に直面している。世界経済は、新興国経済が急激に発展する一方、我が国の相対的地位は趨(すう)勢的に低下するという構造的な変化が進んでいる。また、WTOドーハ開発アジェンダ交渉の妥結を通じた国際貿易ルールの強化が今後とも重要であるが、ラウンド交渉の行方が不透明の中、主要貿易国間において高いレベルのEPA/FTA網が拡大している。しかし、こうした動きの中、我が国の取組は遅れている。

 このような状況の下、我が国の貿易・投資環境が他国に劣後してしまうと、将来の雇用機会が喪失してしまうおそれがある。我が国として、「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)に示されている「強い経済」を実現するためには、市場として成長が期待できるアジア諸国や新興国、欧米諸国、資源国等との経済関係を深化させ、我が国の将来に向けての成長・発展基盤を再構築していくことが必要である。

 かかる認識の下、「国を開き」、「未来を拓く」ための固い決意を固め、これまでの姿勢から大きく踏み込み、世界の主要貿易国との間で、世界の潮流から見て遜(そん)色のない高いレベルの経済連携を進める。同時に、高いレベルの経済連携に必要となる競争力強化等の抜本的な国内改革を先行的に推進する。

 取り分け農業分野は、単に貿易自由化により最も影響を受けやすい分野であるばかりではなく、農業従事者の高齢化、後継者難、低収益性等を踏まえれば、将来に向けてその持続的な存続が危ぶまれる状況にあり、競争力向上や海外における需要拡大等我が国農業の潜在力を引き出す大胆な政策対応が不可欠である。

 特にアジア太平洋地域は我が国にとって、政治・経済・安全保障上の最重要地域であり、この地域の安定と繁栄は死活的な問題である。アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)は、我が国と切れ目のないアジア太平洋地域を形成していく上で重要な構想であり、取り分け本年はAPEC議長として、同構想の実現に向けた道筋をつけるため強いリーダーシップを発揮することが必要である。

 このため具体的には、アジア太平洋地域内の二国間EPA、広域経済連携及びAPEC内における分野別取組の積極的な推進に向け主導的な役割を果たし、アジア太平洋地域における21世紀型の貿易・投資ルール形成に向けて主導的に取り組む。

2.包括的経済連携強化に向けての具体的取組

 我が国を取り巻く国際的・地域的環境を踏まえ、我が国として主要な貿易相手国・地域との包括的経済連携強化のために以下のような具体的取組を行う。特に、政治的・経済的に重要で、我が国に特に大きな利益をもたらすEPAや広域経済連携については、センシティブ品目について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す。

(1)アジア太平洋地域における取組

 アジア太平洋地域においては、現在交渉中のEPA交渉(ペルー及び豪州)の妥結や、現在交渉が中断している日韓EPA交渉の再開に向けた取組を加速化する。同時に、日中韓FTA、東アジア自由貿易圏構想(EAFTA)、東アジア包括的経済連携構想(CEPEA)といった研究段階の広域経済連携や、現在共同研究実施中のモンゴルとのEPAの交渉開始を可及的速やかに実現する。

 さらに、アジア太平洋地域においていまだEPA交渉に入っていない主要国・地域との二国間EPAを、国内の環境整備を図りながら、積極的に推進する。FTAAPに向けた道筋の中で唯一交渉が開始している環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する。

 以上の取組を着実に実施するため、「アジア太平洋自由貿易圏実現に向けた閣僚会合(仮称)」を開催し、政府を挙げて取り組む。

(2)アジア太平洋地域以外の主要国・地域に対する取組

 アジア太平洋地域以外の最大の貿易パートナーであるEUとの間では、現在、共同検討作業を実施中であるが、早期にEUとの交渉に入るための調整を加速する。そのために国内の非関税措置への対応を加速する。また、現在交渉中の湾岸協力理事会(GCC)との交渉の促進に努める。

(3)その他の国・地域との取組

 ドーハ開発アジェンダ交渉、アジア太平洋地域の地域統合及び主要国との経済連携強化の取組などの進捗(ちょく)状況を見極めつつ、その他のアジア諸国、新興国、資源国等との関係においても、経済的観点、さらには外交戦略上の観点から総合的に判断の上、EPAの締結を含めた経済連携関係の強化を積極的に推進する。

3.経済連携交渉と国内対策の一体的実施

 主要国・地域との間での高いレベルの経済連携強化に向けて、「国を開く」という観点から、農業分野、人の移動分野及び規制制度改革分野において、適切な国内改革を先行的に推進する。

(1)農業

 高いレベルの経済連携の推進と我が国の食料自給率の向上や国内農業・農村の振興とを両立させ、持続可能な力強い農業を育てるための対策を講じるため、内閣総理大臣を議長とし、国家戦略担当大臣及び農林水産大臣を副議長とする「農業構造改革推進本部(仮称)」を設置し、平成23年6月めどに基本方針を決定する。さらに、同本部において、競争力強化などに向けた必要かつ適切な抜本的国内対策並びにその対策に要する財政措置及びその財源を検討し、中長期的な視点を踏まえた行動計画を平成23年10月めどに策定し、早急に実施に移す。

 その際、国内生産維持のために消費者負担を前提として採用されている関税措置等の国境措置の在り方を見直し、適切と判断される場合には、安定的な財源を確保し、段階的に財政措置に変更することにより、より透明性が高い納税者負担制度に移行することを検討する。

(2)人の移動

 看護師・介護福祉士等の海外からの人の移動に関する課題にどう取り組むかについては、「新成長戦略」に掲げる「雇用・人材戦略」の推進を基本としつつ、国内の人口構造の将来の動向や、国民の雇用への影響、海外からの要請、さらには我が国経済発展及び社会の安定の確保も踏まえながら検討する。そのための検討グループを国家戦略担当大臣の下に設置し、平成23年6月までに基本的な方針を策定する。

(3)規制制度改革

 国を開き、海外の優れた経営資源を取り込むことにより国内の成長力を高めていくと同時に、経済連携の積極的展開を可能にするとの視点に立ち、非関税障壁を撤廃する観点から、行政刷新会議の下で平成23年3月までに具体的方針を決定する。