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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国政府とモンゴル国政府との共同新聞発表

[場所] 東京
[年月日] 2012年3月12日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 スフバータル・バトボルド・モンゴル国首相は日本国政府の招待により2012年3月10日から15日までの日程で日本国を訪問し,12日に野田佳彦日本国総理大臣との間で首脳会談を行った。また同日,皇太子殿下はバトボルド首相と御接見になられた。バトボルド首相は,日本滞在中に横路孝弘衆議院議長及び平田健二参議院議長を表敬するほか,大阪を訪れ,在大阪モンゴル国総領事館開館式に参加する予定である。日本国政府とモンゴル国政府は日本国とモンゴル国との間で作成された諸文書における理念並びに両国間の信頼及び友好関係を想起し,今般のバトボルド首相の日本国訪問に際し,以下のとおり発表する。

1.日本側は,日本国がモンゴル国の民主主義・市場経済への移行を当初から一貫して支持してきたことに示されるとおり,「古くて新しい隣国」であるモンゴル国の民主主義国家としての成長が,モンゴル国自身のみならず,日本国を含む北東アジア地域の平和と安定に資するとの強い信念を堅持している旨表明した。モンゴル側は,日本は価値観を共有する伝統的な友好国であり,「第三の隣国」の中で最初に「戦略的パートナーシップ」の構築を掲げている重要なパートナーであると発言した。

2.日本側は,東日本大震災に対するモンゴル国政府及び国民からの物心両面にわたる心温まる支援に対して改めて謝意を表明するとともに,開かれた復興をこれまで以上に加速し,被災地域の復興を先駆例として日本経済全体の再生にも取り組んでいく決意を表明した。モンゴル側は,東日本大震災の被災者に対する心からのお見舞いを改めて表明するとともに,震災後のモンゴル国政府及び国民からの支援は,モンゴル国の民主化以降の20余年にわたる日本国からの一貫した支援に対する感謝の気持ちの現れであることを強調しつつ,日本国の早期の復興への期待と,その実現を確信している旨を表明した。

3.双方は,近年の両国関係の良好な発展を確認するとともに,両国間の外交関係樹立40周年を迎える本2012年を契機として,以下の4つの柱を中心として,2010年に「総合的パートナーシップ」から格上げされた両国の共通外交目標である「戦略的パートナーシップ」の具体化をより一層加速させていくことを確認した。

(1)戦略的な対話の促進

・双方は,本年初頭の一川保夫防衛大臣,齋藤勁内閣官房副長官等のモンゴル国訪問に続き,バトボルド首相が来日したことにより2012年年初から要人往来が活発化し,外交関係樹立40周年が成功裡に幕開けしたことを歓迎した。双方は,今後,要人往来の更なる活性化及び外相会談等の外交当局間の積極的な交流の実施を通じた対話の継続の重要性について認識を共有した。特に,両国外交当局間で実施されてきた政策対話・地域情勢対話の継続,また,新たに外交・安全保障・防衛に係る当局間協議の立ち上げを検討する等,様々なレベルで戦略的な対話を強化していくことで一致した。

・双方は,両国の安全保障分野における協力の重要性を強調するとともに,本年1月に署名された「日本国防衛省とモンゴル国国防省との間の防衛協力・交流に関する覚書」を踏まえ,当該分野の協力・交流が,両省間のハイレベル交流,部隊間交流,能力構築支援の実施等,新たな段階に発展していることに満足の意を表明し,「戦略的パートナーシップ」構築に向けた力強い貢献になるとの認識で一致した。

・双方は,共通外交目標を「戦略的パートナーシップ」に格上げして以降,両国の政府関係当局間で新たに具体的な協力の枠組みが整備される等,両国政府間の多層的な対話が進展していることを高く評価し,政府間の連携を一層緊密にすることで一致した。

(2)包括的な経済関係の強化

・双方は,名実共に「戦略的パートナー」にふさわしい関係を発展させる上で,互恵的かつ相互補完的な経済関係を構築する必要性を改めて確認した。その実現に向けて,双方は,両国経済関係発展の潜在的可能性をより一層広げるために,日・モンゴル経済連携協定(EPA)締結に向けた両国官民共同研究報告書の提言も踏まえ,EPA交渉を開始することとし,速やかに交渉会合の調整を行うことにつき一致した。

・双方は,両国の経済関係の強化のための枠組みである日・モンゴル貿易投資及び鉱物資源開発官民合同協議会の意義を再確認するとともに,本年,ウランバートルにおいて開催予定の第6回会合において最大限の成果を得るべく協力することで一致した。

・双方は,モンゴル国における鉱物資源開発での協力が双方の国益にかなうとの認識を再確認した。モンゴル側は,自国の天然資源及び鉱物資源を経済循環に投入することで国家の力強い発展を確保し,ひいては地域の発展に貢献するという目標を掲げていることに言及し,この分野において,日本国の環境に優しい最新の技術やノウハウを活用すること及び付加価値のある富を生産するために,日本と互恵的な協力を行なうことへの希望を表明した。さらに,タバン・トルゴイ炭田開発計画において,モンゴル側は,日本の参画を確保するという政策をとる旨述べた。

・また,モンゴル側は,鉱物資源開発をめぐるインフラ開発に日本の技術,資金を活用したいとの提案を行なった。日本側は,モンゴル側の右の立場に十分留意するとともに,その実現のためにも,モンゴルのエネルギー・鉱物資源等の分野の投資環境が更に改善される旨期待を表明した。

・モンゴル側は,鉄道建設計画等,鉱物資源開発の周辺におけるインフラ整備の資金を確保するために,国際協力銀行による輸出クレジットライン供与を検討していることに謝意を表明するとともに,こうした新たな金融協力のプロセスを強化し,市場環境や投資家の関心に留意していくと述べた。また,「新鉄道計画」,「アパート10万戸計画」及び「中小企業発展計画」の実施に係る資金を確保するためにサムライ債を活用するとの希望を日本側に表明し,日本側はこれに留意した。双方は,これに係る意見交換を行うことで一致した。

・モンゴル側は,日本国の政府開発援助が民主化以降のモンゴル国の経済発展に果たしてきた多大な貢献に対する謝意を表明するとともに,モンゴル経済が飛躍的に発展する段階に達している現在においても,日本国からの援助の重要性に変わりはない旨述べた。また,円借款「社会セクター支援プログラム(Ⅱ)」,無償資金協力「ウランバートル市消火技術及び消防機材改善計画」,文化無償資金協力「文化遺産センター保存・分析機材整備計画」及びノン・プロジェクト無償資金協力の交換公文,さらに,輸出金融面での協力強化,インフラ・工業部門における案件のための協力に係るモンゴル国大蔵省と日本国際協力銀行の間の覚書が署名に至ったことに対し,日本政府に心からの謝意を表明した。

・双方は,円借款「新ウランバートル国際空港建設計画」は両国の協力関係にとって象徴的な案件であり,事業の実施を確保するために,最大限の努力をしていく旨表明した。

・モンゴル側は橋,道路,鉄道等のインフラ整備,経済発展を支える人材の育成,エネルギー分野,大気汚染・地球温暖化等の環境問題に対する日本側との協力に対して強い期待を表明した。

・双方は,宇宙分野での協力を今後促進させていく旨表明した。

・日本側は,モンゴルの地上デジタル放送方式の検討に際して,日本方式も対象に加えるよう希望を表明し,モンゴル側は右に留意した。

・モンゴル側は,牧畜業及び農牧業の集約化,農畜産品を国際水準に基づいて加工し,天然製品を生産するとの目標を掲げていることに言及し,これに対して日本の資金及び技術を活用しつつ日本側と協力することを提案した。日本側はモンゴル側の希望に留意するとともに,今後も両国の農牧業分野における交流を推進していきたい旨述べた。

・また,モンゴル側は,日本側と学術及び教育分野における協力を拡大し発展させることがモンゴルの発展に大きな意義を有することに言及し,科学技術を専攻する留学生及び研修生の数を増加させる希望を表明した。日本側はこれに留意した。

・日本側は,間もなく策定される国別援助方針に基づき,持続的成長のためのモンゴル国政府の努力を引き続き支援していく旨及び両国の互恵的・相互補完的なビジネス・投資の促進を通じ,協力を強化していく旨表明した。

(3)人的交流・文化交流の活性化

・双方は,2012年に入り,双方の連携の下で,外交関係樹立40周年記念事業が成功裡に実施されていることを評価し,一層緊密に協力していくことで一致した。また,双方は,両国の友好議員連盟や民間友好諸団体による積極的な記念行事への関与及び貢献への謝意を表明した。

・双方は外交関係樹立40周年を契機に,両国民の相互訪問がより一層活発化すると期待している旨表明した。日本側は2010年にモンゴル側が開始した,モンゴルに短期滞在する日本国民に対する査証免除措置を高く評価するとともに,バトボルド首相の今次訪日に際して,在大阪モンゴル国総領事館が開館することを歓迎した。モンゴル側は,日本に渡航するモンゴル国民の査証発給要件の更なる緩和を期待している旨述べた。これに対し,日本側は,モンゴル国民の査証発給要件の更なる緩和を,今後の継続的な課題として検討する旨述べた。

・日本側は,2009年7月の「日本国政府とモンゴル国政府との共同新聞発表」において表明した,以降3年間での1000人規模の青年等の受入れについて,3年を待たずに達成したことを喜びをもって説明した。また,モンゴル国が東日本大震災の被災者をモンゴル国に招待する等,心温まる人的交流を実施してきたことを評価するとともに,本年,東日本大震災からの日本再生に向けた理解促進のための新たな青少年交流として約180名のモンゴル青年を日本国に招へいする「キズナ強化プロジェクト」の実施を表明した。モンゴル側は,日本側の人的交流に係る取組を歓迎していることを表明し,双方は,青年交流の今後の一層の活性化に向けて努力していくことで一致した。

(4)地域・グローバルな課題への取組での連携強化

・双方は,朝鮮半島の平和と安定の確保は,モンゴルと日本のみならず関係する全ての国の共通の利益であることに言及し,北朝鮮における指導部の変化等の地域の特徴的な事象に関する両国の認識を共有し,両国が引き続き緊密に意思疎通を行い,冷静かつ適切に対応していくことで一致した。双方は,先般の米朝対話の結果が前向きで重要な一歩であると評価していることを表明した。双方は,六者会合が,朝鮮半島を非核化し,もって北東アジアの平和と安定を確保するための効果的なメカニズムであるとの認識で一致した。モンゴル側は,本件プロセスを支持し貢献したいとの希望を表明し,日本側はこれに留意した。

・また,双方は,拉致問題を含む北朝鮮と日本の間の諸懸案を包括的に解決することが必要であるとの日本の立場をモンゴル側が支持することを再確認した。

・双方は,世界の平和と安全を確保するのみならず,国際社会が直面するその他の問題において協力をより一層強化していくことを確認するとともに,国連安全保障理事会改革問題に関する政府間の対話を活発化することを含め,国連安全保障理事会改革の早期実現に向けて協力していくことで一致した。モンゴル側は,国連安全保障理事会の改革及び日本が常任理事国になることを支持してきたことに言及し,この立場を今後も維持していくことを確認した。

・日本側は,民主主義共同体議長国としてのモンゴル国の尽力を高く評価した。双方は共通の価値観に基づき,民主主義の定着のための連携をより一層強化していくことで一致した。

・モンゴル側から,アジア太平洋地域,中でも東アジアにおける多国間の枠組みへの参加に対する希望が表明され,日本側に対して参加実現に向けた支援を期待する旨述べた。日本側は,アジア太平洋地域の平和と安定を実現していくためには開放的で多層的なネットワークを活用していくべきとの観点から,モンゴル側の希望と関心を踏まえ,意見交換を行っていく旨表明した。

(了)