データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 太平洋諸島信託統治地域に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(米国とのミクロネシア協定)

[場所] 東京
[年月日] 1969年4月18日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

太平洋諸島信託統治地域に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定

 (略称)米国とのミクロネシア協定

昭和四十四年四月十八日 東京で署名

昭和四十四年六月二十日 国会承認

昭和四十四年七月四日 承認の閣議決定

昭和四十四年七月七日 東京で承認の通知

昭和四十四年七月七日 公布及び告示(条約第五号)

昭和四十四年七月七日 効力発生


太平洋諸島信託統治地域に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定


 日本国及びアメリカ合衆国は、

 以前に日本国の国際連盟委任統治の下にあり、現にアメリカ合衆国が国際連合の信託統治制度の下で太平洋諸島信託統治地域として施政を行つている太平洋の諸島の住民が第二次世界大戦中の敵対行為の結果こうむつた苦痛に対し、ともに同情の念を表明することを希望し、

 信託統治地域の住民の福祉のために自発的拠出を行なうことを希望し、

 日本国及びその国民の財産で信託統治地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で同地域の施政当局及び住民に対するものの処理並びに日本国における同地域の施政当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対する施政当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理に対し、日本国との平和条約第四条(a)において予見されている特別取極を締結することを希望して、

 次のとおり協定した。


   第一条

1 信託統治地域の住民の福祉のために使用される日本国の生産物及び日本人の役務を同地域の施政当局が日本国において購入するため、日本国は、現在五百万合衆国ドル(五、〇〇〇、〇〇〇ドル)に換算される十八億円(一、八〇〇、〇〇〇、〇〇〇円)を無償で施政権者としてのアメリカ合衆国の使用に供する。

2 1の生産物及び役務の供与は、日本国政府及びアメリカ合衆国政府が別段の合意を行なう場合を除くほか、日本国の昭和四十五年度予算が国会によつて承認された日又は第二条に規定するアメリカ合衆国議会による予算の承認の日のいずれかおそい日から三年の期間にわたつて行われるものとする。日本国による生産物及び役務の供与は、3の規定に基づいて締結される細目取極に従うことを条件として、その期間中、合理的な程度に均等に行われるものとする。

3 日本国政府及び施政権者としてのアメリカ合衆国の政府は、この条の規定の実施のため、細目取極を締結する。

   第二条

 アメリカ合衆国政府は、アメリカ合衆国議会による予算の承認を条件として、信託統治地域のための通常の財政支出のほかに、同地域の住民の福祉のために使用する五百万合衆国ドル(五、〇〇〇、〇〇〇ドル)の資金を設定する。

   第三条

 日本国及び施政権者のとしてのアメリカ合衆国は、日本国及びその国民の財産で信託統治地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で同地域の施政当局及び住民に対するものの処理並びに日本国における同地域の施政当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対する施政当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理に関し、日本国との平和条約第四条(a)の規定に包含されるすべての問題が完全かつ最終的に解決されたことに合意する。

   第四条

 この協定は、日本国がその国内法上の手続に従つてこの協定を承認した旨の通知をアメリカ合衆国政府が日本国政府から受領した日に効力を生じる。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受け、この協定に署名した。

 千九百六十九年四月十八日に東京で、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。


日本国のために

  愛知揆一

アメリカ合衆国のために

  デイヴィッド・L・オズボーン




(協定第三条に関する交換公文)


(米国側書簡)

(訳文)

 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された太平洋諸島信託統治地域に関するアメリカ合衆国と日本国との間の協定に関し、本官は、日本国及びその国民が、その請求権で施政権者のとしてのアメリカ合衆国及び信託統治地域の住民に対するものがすべての処理ずみのものと認められている事実に照らし同協定第三条の規定の範囲内におけるミクロネシア側の請求(信託統治地域が第二次世界大戦にまき込まれたことから生ずる請求を含む。)に対するすべての責任から完全かつ最終的に免れるとのアメリカ合衆国政府の了解を同政府に代わつて確認する光栄を有します。

 施政権者のとしてのアメリカ合衆国の政府は、その適当と認める形式、態様及び範囲で、かつ、アメリカ合衆国及び日本国が前記の協定に基づいて行なう拠出の合計額に見合う金額を限度として、同協定第三条に規定するミクロネシアの個個の住民の請求につき支払を行なうための措置を執る意図を有します。

 本官は、閣下が、前記の了解が貴国政府の了解でもあることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。

 本官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。


  千九百六十九年四月十八日に東京で

    臨時代理大使

      デイヴィッド・L・オズボーン

外務大臣 愛知揆一閣下



(日本側書簡)

 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日付けの貴官の次の書簡に言及する光栄を有します。

  本日署名された太平洋諸島信託統治地域に関するアメリカ合衆国と日本国との間の協定に関し、本官は、日本国及びその国民が、その請求権で施政権者としてのアメリカ合衆国及び信託統治地域の住民に対するものがすべて処理ずみのものと認められている事実に照らし同協定第三条の規定の範囲内におけるミクロネシア側の請求(信託統治地域が第二次世界大戦にまき込まれたことから生ずる請求を含む。)に対するすべての責任から完全かつ最終的に免れるとのアメリカ合衆国政府の了解を同政府に代わつて確認する光栄を有します。

  施政権者のとしてのアメリカ合衆国の政府は、その適当と認める形式、態様及び範囲で、かつ、アメリカ合衆国及び日本国が前記の協定に基づいて行なう拠出の合計額に見合う金額を限度として、同協定第三条に規定するミクロネシアの個個の住民の請求につき支払を行なうための措置を執る意図を有します。

  本官は、閣下が前記の了解が貴国政府の了解でもあることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。

 本大臣は、さらに、貴官の書簡にいう了解が日本国政府の了解でもあることを同政府に代わつて確認する光栄を有します。

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて貴官に向かつて敬意を表します。


   千九百六十九年四月十八日

     日本国外務大臣 愛知揆一


 アメリカ合衆国臨時代理大使

   デイヴィッド・L・オズボーン殿


(日本漁船の寄港及び沈船引揚げに関する交換公文)

  (米国側書簡)

(訳文)

 書簡をもつて啓上いたします。本官は、本日署名された太平洋諸島信託統治地域に関するアメリカ合衆国と日本国との間の協定に言及する光栄を有します。

 本官は、同協定を考慮して、日本漁船及びその乗組員が補給並びに乗組員の休養及び慰安を目的としてトラック及びパラオの港に立ち寄ることを歓迎されるものであることを確認いたします。現地の施設は、乗組員の医療及び船舶の応急修理のためにも利用することができます。日本漁船のトラック及びパラオへの出入は、施政当局の定める要件に従うべきものであります。この要件を定めるにあたり、日本船舶以外の船舶にとつての必要並びに港の収容能力及び開発可能性に妥当な考慮が払われるでありましよう。日本漁船の出入は、施政当局が同協定中に規定する日本国の生産物及び日本人の役務の購入を開始することができる日から認められることになります。

 本官は、さらに、太平洋諸島信託統治地域の施政当局が、同協定中に規定する日本国の生産物及び日本人の役務の購入を開始することができる日から三年の期間、日本国政府及び日本国民(法人を含む。)に対し、同地域の領水内にある沈船で沈没の時点において日本国籍を有していたものを引き揚げ及び自由に処分する機会を与えることを確認いたします。施政当局は、そのために貴国政府と詳細な討議にはいる用意があります。

 本官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。

  千九百六十九年四月十八日に東京で

   臨時代理大使

    デイヴィッド・L・オズボーン

 外務大臣 愛知揆一閣下



(日本側書簡)

 書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日付けの貴官の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。


(米国側書簡)

 本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて貴官に向かつて敬意を表します。

   千九百六十九年四月十八日

     日本国外務大臣 愛知揆一

 アメリカ合衆国臨時代理大使

  デイヴィッド・L・オズボーン殿


(参考)

 この協定は、太平洋諸島信託統治地域(ミクロネシア)の住民の福祉のために行われる日米両国の自発的拠出及び平和条約第四条(a)にいう同地域に係わる財産・請求権の問題の最終的解決について定めたものである。