データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第1回日豪閣僚委員会共同コミュニケ

[場所] キャンベラ
[年月日] 1972年10月13日
[出典] 外交青書17号,508−511頁.
[備考] 
[全文]

 1 日豪閣僚委員会の第1回会議は,1972年10月12日及び13日にキャンベラにおいて行なわれた。オーストラリア首相ウイリアム・マクマーン氏は,正式に第1回会議の開会を主宰し,日本国内閣総理大臣田中角栄氏は,この会議に対しての歓迎のメッセージを送つた。双方の閣僚は会議の冒頭において,両国間の経済及び貿易関係に関するすべての範囲にわたるさまざまの問題について十分かつ率直な意見の交換を行なうための機会が,この第1回会議により提供されたことを心から歓迎した。

 2 日本国外務大臣大平正芳氏は,日本側代表団を率い,この代表団には農林大臣足立篤郎氏,通商産業大臣中曽根康弘氏,運輸大臣佐々木秀世氏,経済企画庁長官有田喜一氏及び大蔵省代表が参加した。

 3 オーストラリアの外務大臣ニジエール・ボーウエン氏は,この会議の議長となり,オーストラリア側代表団には,副首相兼貿易産業大臣J・D・アンソニー氏,大蔵大臣B・M・スネッデン氏,第一次産業大臣イァン・シンクレア氏,国土開発大臣レジナルド・シュウオーツ卿,海運運輸大臣R・J・ニクソン氏,民間航空大臣ロバート・コットン氏,復員担当大臣兼貿易産業副大臣R・M・N・ホールテン氏,海外領土大臣A・ピーコック氏,パプア・ニユーギニアの首席大臣マイケル・ソマレ氏が参加した。

 4 双方の閣僚は,この委員会の設立は既に存在している両国間の確固たる友好関係及び相互の尊重という基盤の上により一層緊密な関係を発展させるということを両政府が重視していることを明確に示すものであることに同意した。委員会は,広範囲にわたる討議を行ない,両国間におけるもつとも広義な意味での経済関係に関する主要な問題ならびに日本国及びオーストラリアがアジア及び太平洋地域の開発,またより一般的には世界経済の成長を促進するために行なつている努力に関して検討を行なつた。

 5 双方の閣僚は最近の世界経済の動向について検討を行ない,その状況改善の好ましい徴候があらわれていることを歓迎した。

 両国の閣僚は,それぞれの国内経済情勢の概略を説明し,かつ,経済管理に関するそれぞれの基本的政策について述べた。国際通貨の取決めに関する最近の論議についても意見の交換が行なわれ,両国の閣僚は,世界経済の成長にとつて国際通貨情勢の安定が重要であることを強調した。オーストラリア側の閣僚はこの機会に,海外資本のオーストラリアへの流入に関して最近とつた政策的措置に言及し,また,投資分野における共同参加が有益であることにつき合意が得られた。

 6 双方の閣僚は,国際貿易の見通しについて検討を行ない,貿易を一層自由化するうえで克服すべき問題点に言及した。両国の閣僚は,問題解決を多国間貿易制度という枠組の中で行なうことを支持するという立場を繰り返して表明した。

 会議は多角的貿易交渉が1973年にガットの場で開始されることならびにこの交渉において農業,原料及び工業に関する貿易をさまたげ,またはゆがめている措置を含め貿易に関するすべての問題が取扱われることを満足の気持をもつて指摘した。

 双方は農業及び工業に関する貿易について満足することの出来る取決めを達成することが重要であることを指摘した。

 双方の閣僚は,商品別交渉を基盤とした国際商品取決めは,若干の妥当な場合には,一次産品の価格の安定及び供給の保障を一層確保するオーダリー・マーケッティングを達成するための重要な方法であることを確認した。

 7 多数国間及び地域的貿易発展についての広範囲にわたる討議において,双方の閣僚は,ECの今後の拡大が国際貿易に対して有する意味及び拡大EC側の貿易政策が開放的かつ自由主義的であることの重要性に言及した。双方の閣僚はまた,政府の支持を受け日本及びオーストラリアの著名な学究的経済学者によつてなされている太平洋地域における大規模な経済協力の可能性に関する研究についても検討し,これらの研究は両国政府がこの問題を継続して検討する上で極めて有益であることに同意した。

 8 両国の閣僚は,日豪通商協定が両国間の貿易の急速な拡大に対して大きな役割りを果したことについて満足の気持を表明した。両国は今や重要な貿易上のパートナーであり,貿易の拡大によつてより広範囲にわたる経済関係の発展が実現した。会議において多くの重要な問題が討議された結果,双方は相手国の貿易上の利害及び目的についてより十分な理解を有するに至つた。

 9 日本側の閣僚は,両国間の経済関係を一層促進するため通商航海条約を締結することが望ましいと述べた。オーストラリア側の閣僚はオーストラリアの方法は特定の問題に関する個別取決につき交渉することであると指摘したが,両国関係を改善し,また深めるという大きな目標については日本側と考えを同じくした。双方はこの目標を実現する最善の方法につきさらに考慮することを同意した。

 10 オーストラリア側の閣僚は,日本国がオーストラリアの一次産品,特に英国のEC加盟によつて英国市場を失なう一次産品について日本の市場における販路を拡大し得るようにするための措置をとることについて希望を表明した。オーストラリア側の閣僚はまた,英国産品に対する特恵が将来終了することに関して予想される結果についての説明を行なつた。即ち,オーストラリア側は,最終的な決定は,全般的な関税政策との関係において行なうべきであるが,英連邦特恵の終了に従つて関税上の変更が行なわれる結果,オーストラリアの市場における日本の製品の競争力は一層強まることとなると述べた。

 11 日本側の閣僚は,両国間の貿易関係を援助するため,オーストラリアの関税に関する一定の問題について検討が行なわれることを希望する旨述べた。彼等は,経済的かつ効率的産業を育成することがオーストラリア政府の政策であると指摘した。彼等はまた,オーストラリア政府はすでにバイロー品目に関する対英特恵の停止及び超過特恵マージンを含む1,000の関税品目の再検討のための措置を採つており,また関税に関する包括的な検討を開始していると指摘した。

 12 双方の閣僚は日本国に対するオーストラリアからの鉱産物供給の拡大により両国が利益を享受したと述べた。オーストラリア側の閣僚は,日本国が長期にわたつてオーストラリア資源を買付けるであろうとの見通しに基づき,これら資源の合理的な開発及び公正な価格等の問題を重視していることを強調した。

 双方の閣僚は,エネルギー及び天然資源に関するさまざまな問題について討議し,オーストラリア側の閣僚は日本国が未加工の天然資源と同じく加工された天然資源をもより多く輸入するよう強い希望を表明した。

 13 双方の閣僚は,オーストラリアの鉱物及びエネルギー資源開発に関する相互の関心事項の種々の問題につき必要に応じ事務当局者の間で協議すべきこと及びこの協議のための第1回会合を早い時期に開催すべきことに同意した。

 14 双方の閣僚は,2国間貿易関係において双方により確認された問題,とりわけそれぞれの市場における将来の販路の問題は更に論議されるべきであることに同意した。

 15 会議は両国間の海運,民間航空及び観光に関する一般的な討議を行なつた。双方の閣僚は日本国とオーストラリアの国民の間において観光を通じて接触が増加することにより両国の関心についての相互理解が一層深まるであろうということを喜びをもつて指摘した。

 16 海運問題に関し,オーストラリア側の閣僚は,オーストラリア籍の運航会社が海運同盟プール協定におけるシエアを増大することが出来るよう期待している旨述べ,また,ばら積み用及び特殊用船舶による輸出品の輸送についても機会があればオーストラリアが参加し得るようにしたいという関心を繰り返し述べた。

 17 双方の閣僚は,双方の2社の指定国際航空会社間の協力関係の増進及びこれら航空会社が両国関係を更に緊密に発展させる上で貢献したことに対して満足の気持を表明した。双方の閣僚は,両国の民間航空当局が,早い時期に南太平洋地域諸国間の航空路を拡張しまたこの地域における観光を促進するような相互に有益な取極を確定する可能性を検討すべきであるとの考えを共有した。

 18 パプア・ニューギニアの首席大臣ソマレ氏は,パプア・ニユーギニア関係の事項に関する討議に参加した。域内財政担当大臣チヤン氏及び農業,牧畜,漁業担当大臣オクーク氏もまた出席した。会議はパプア・ニユーギニアの現在及び今後の政治的発展ならびに開発上の問題及び政策について検討を行なつた。会議においてはパプア・ニユーギニア開発新五カ年計画について言及され,この関係で日本の援助が歓迎される旨指摘された。

 会議ではまた,パプア・ニューギニアの日本国との貿易関係及びパプア・ニューギニアに対する日本の投資の問題についても討議が行なわれた。

 19 会議の終了に際し,日本国及びオーストラリアの閣僚は,この委員会を設立するにあたつて双方が期待したことは,この委員会が両国間の通常の閣僚の相互訪問を有効な形で補足し,かつ複雑で交錯した問題をも含め全体的な経済関係を討議するための経常的なフオーラムを提供するということであつたことを想起した。双方の閣僚は,この委員会の第1回会議は,十分にこの期待を実現したとの確信を表明した。とくに,今回の話合いは,相互の政策についてより深い洞察を得るという点において,また,互恵的な経済関係を更に拡大する可能性をもち,かつ,より詳細な検討を行なう対象ともなる双方にとつて関心のある分野を確認するという点において,極めて有益であつた。

 20 双方の閣僚はまた,討議が卒直かつ自由に行なわれたことに満足の気持を表明した。このことは,経済関係のみにとどまらず両国間の関係が一層緊密になつていることを示すものである。

 21 日本側の閣僚は,オーストラリア政府が閣僚合同委員会の第一回会議のために行なつた厚いもてなしと配慮とに対して感謝の気持を表明した。

 22 次回の閣僚委員会の会議は,東京において行ない,時期は,暫定的に1973年を予定することとなつた。