データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ウィットラム豪首相歓迎晩餐会における田中内閣総理大臣スピーチ

[場所] 
[年月日] 1973年10月29日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,341−343頁.
[備考] 
[全文]

ウィットラム首相閣下、令夫人並びにご列席の皆様

 このたび、ウィットラム首相御夫妻並びに豪内閣の有力閣僚をお迎えし、歓迎の辞をのべる機会を得ましたことは、私の大きな喜びとするところであります。

 ウィットラム首相は、在野時代にも来日され、わが国政界・経済界さらには言論界、学界の指導者と広く接触されましたが、その飾り気のない真摯なお人柄により、卓越したステーツマンとして強い印象を残しておられます。

 私自身、はじめてお目にかかり、共通に関心のある多くの問題について打ちとけてお話する機会を得ましたが、貴首相の識見と情熱に深い感銘を覚えました。私は、貴首相との会談において、日豪は兄弟国であると申し上げましたとおり、国難に満ちたアジア・太平洋地域において、今後とも信頼をおくに足るパートナーを見出し得た思いであります。

 近年、日豪は、経済・貿易の分野において、比類のない程緊密に結ばれており、相互の協力を何よりも必要と致しております。政治の分野においても、アジア・太平洋地域に平和を維持し繁栄と安定をもたらすため、共通の責務を有しております。一言にしていえば、両国は、今後ますます複雑化する国際社会において、共通の運命をになっているのであります。

 ウィットラム首相は、昨年末の総選挙において豪州が内外に直面している時代のチャレンジを明確に認識され、「新しい転換の時にある」とアピールして、国民の信を得られたと承っております。 この度は、同様の認識のもとに、赤道をはさみ東経百三十五度線上、日豪の間に平和と繁栄にむかって共に進むべき友情のかけ橋を築かれるべく来日されたものと心得ております。したがってこの度の御訪日は、両国の将来にとって極めて重要な意味を持つものなのであります。

 日豪両国の交流の歴史は比較的浅いのであります。また両国間には、言語、風俗、習慣、物の考え方に相違があります。他方、両国の相互依存関係が高まれば高まるほど調整を迫られる諸問題に直面することも必然なのであります。そのためにこそ、両国の間には、閣僚レベルの協議の場が設けられ、今回その第二回目の会合が取り運ばれております。私は、政治、経済、学術、文化のあらゆる分野において、首相会談を頂点とし、各界、各層間の対話が持続されるならば、永続する日豪友好関係の確保は約束されていると確信しております。一九五〇年から本日までの日豪貿易のバランスをみますと、わが国の入超は百億米ドルを超え、本年上期だけでも十億ドルを超えるに至りました。しかしながら、私はこの事実について皆様の注意を喚起申し上げるよりは、かかる趨勢にもかかわらず、貿易全体の規模を一層拡大することに、より多くの関心をいだいていることを申し添えたいのであります。

 日豪両国は、今後、その二国間関係においてでなく、むしろ、グローバルな分野において多くの困難に直面しており、その解決のための共通の責務を負っているのであります。世界はいまや、激しい変革の中にあります。通商、通貨、インフレーション、エネルギー・資源、地球的規模での汚染の進行、開発途上国からの貧困の追放の諸問題に直面しております。これら世界がかかえている重要な問題、あるいは人類社会に生起しつつある新しい危機は、いずれも一国の力では解決することが不可能なのであります。解決の方途は国際協調に求められるのであります。とりわけ、わが国と共に西太平洋に位置する豪州との協調を私はきわめて重視するのであります。したがいまして、今般、ウィットラム首相と率直な話合いの機会を持ち得ましたことに、私はこの上ない意義を見出すのであります。

 過ぐる五月、皇太子・同妃両殿下が貴国を訪問された際に、貴国政府及び国民の皆様から賜った心暖る御歓待に対し、この機会をかり、日本国民を代表して厚く御礼申し上げます。

 また、このたび、ウィットラム首相より私に、オーストラリアを訪問するよう御懇篤なる御招待を受けましたが、よろこんでこれをお受けし、貴首相との対話を継続してまいりたいと思っております。

 御列席の皆様。ここに、盃をあげて、ウィットラム首相御夫妻の御健康とオーストラリアの繁栄を祈って、乾杯したいと存じます。