データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ローリング首相主催午餐会における田中内閣総理大臣挨拶

[場所] 
[年月日] 1974年10月29日
[出典] 田中内閣総理大臣演説集,561−563頁.
[備考] 
[全文]

 ローリング首相閣下、マルドゥーン野党党首閣下、御列席の皆様

 皆様の温かい御歓待に心より感謝致しております。

 今朝ウェリントンにむかう機中から、私は、鮮かな緑のじゅうたんの上に点在して草を喰む羊の群れを眺め、のどかな平和の象徴をそこに見る思いが致しました。

 貴国は世界に先かけて、社会保障、福祉制度の充実に努力してこられましたが、貴国の爽かな大気、豊かな生活に漲る国民の自信は、このような長年にわたる貴国の施策の結果でもありましょう。

 私も、きれいな空気と水、緑に恵まれた住みよく暮らしよい社会を建設すべく全力をあげておりますが、貴国にこそわれわれの志向する社会づくりのモデルがあるとの思いをあらたにした次第であります。

 私は、この新鮮な感慨を故国にもち帰り、わが政策遂行のためのあらたな努力の源泉にしたいと思っております。

 貴国とわが国との関係はここ四半世紀のうちに急速に発展し、昨年五月、皇太子同妃両殿下がこの国朝野の暖かい歓迎を受けられたことは私共の記憶に新しいところであります。貴国からも、ホワイトヘッド議長の率いる国会議員団が訪日され、貴首相御自身も四月に来日されております。

 スポーツの分野における両国の交流にも目覚ましいものがあります。貴国のオール・ブラックスは、堅忍不抜の登山家ヒラリーと共に、わが国においてあまねく知られております。全日本選抜のラグビーチームが、オール・ブラックスのジュニア・チームにすら容易に勝てないことを思いますと、われわれは、貴国の若者の逞しきと、その技術の高度さに敬意を表さざるを得ないのであります。

 貴国とわが国との経済関係も、順調に発展拡大しております。先般東京で日本・ニュージーランド経済人の初会合が、両国政府の祝福を受けて開催されました。私はこのような両国民の努力を通じ、両国関係を一層安定した基盤の上に発展させることが極めて重要であると考えます。そのためにも貴首相との間で、両国間の文化交流を拡大するための方策について合意が成立したことは、両国関係に新しい一章を開くものとして歓迎するものであります。      日本とニュー・ジーランドの両国は、アジア太平洋地域の南北両端に位置する平和国家であります。両国は、依然発展の途上にあるこの地域に、平和と安定をもたらすためにできる限りの協力を重ねてゆかなければならないと考えます。

 先般、会談したカナダのトルードー首相は、私よりも六歳若い四十八歳のとき首相の座について感心させられましたが、貴首相は、それよりも一層若い四十六歳で内閣指揮の大任を担われたのであります。これは貴首相が政治家として卓越した資質を持っておられるからに他なりません。

 本日はじめられた両国の対話を継続するため、貴首相が近い将来日本を訪問され、皆様の御歓待に酬い

る機会を得ますことを期待するものであります。 御静聴ありがとうございました。