[文書名] ウィットラム首相主催午餐会における田中内閣総理大臣挨拶
ウィットラム首相閣下、スネッデン党首閣下、御列席の皆様
本日は、私どものために盛大な午餐会を催していただき、また、暖かい歓迎のお言葉をいただき厚くお礼申し上げます。
「キャンベラ」はアボリジニーの言葉で「出会いの場」という意味をもっている由でありますが、この地で再びウィットラム首相にお会いできたことを嬉しく思っております。
日豪関係の幕あげは今からちょうど百年前の一八七五年、わが国がメルボルン万国博覧会に参加したときにはじまります。一世紀を経た一九七〇年には貴国が大阪万国博覧会に、「東経百三十五度線上の隣人」というテーマで参加され、日本国民に深い感銘を与えました。
昨年五月わが国から皇太子同妃両殿下が訪豪されたのに引き続き本年八月には、両殿下の御長男徳仁親王殿下が貴国を訪問され、貴国官民の暖かい歓迎を受けられました。徳仁親王殿下がはじめての外遊先としてオースラトリアを選ばれたのは、貴国が、その国章を飾るカンガルーやエミューのごとく常に前進してやまない明るい未来に充ちた国であるからであります。
日豪間の交流はスポーツの分野でもめざましいものがあります。一九六四年の東京オリンピックでは豪州水泳のオブライエンやフレーザー嬢、陸上のクラークやカスバート嬢の活躍がひときわ目立ちました。
本年八月、一五〇〇メートル女子自由型で貴国のジェニー・タレル嬢が出した記録は、わが国の男子選手の最高記録を凌ぐものであります。この分野で貴国の女子が日本男子の実力を凌駕している事実は、驚くべきところであります。
日本の青年の実力が劣るのは、その食生活にも原因があると思います。豪州の食肉を一層食するようになれば体位も向上し、貴国の若人のたくましさを備えるようになるのではないかと思います。
われわれは、日豪貿易経済関係がすぐれて相互依存的であることを十分認識し、両国の力を巧みに結合することにより、共存共栄の道を進むべきであると考えます。
日豪間の緊密な協力関係を一層安定した基盤のうえに発展させていくためには、両国の間に、経済・貿易面のみならず、政治・科学・文化その他あらゆる分野において、相互理解に基づく信頼と協力を深めることが肝要であります。この意味で、私の貴国訪問の機会に文化協定が締結され、また、両国の文化交流を拡大するための方策について合意が得られましたことは、日豪両国民双方にとり重要な前進であると確信するものであります。
昨年十月、ウィットラム首相が訪日された際、首相と私との間で両国の基本関係を規律する奈良条約を締結することに合意をみましたのも、まさにこのような両国の信頼、協力関係の重要性を認識していたからにほかなりません。私は、この条約が出来るだけ早い機会に締結されることを希望しております。
ウィットラム首相は、巨大な経済力を軍事力増強に用いないとの日本国政府及び日本国民の固い決意に対し深い信頼を置くとともに、日本が必要とする資源と市場を日本に保証することの重要性を強調しておられます。広い視野に立つ透徹した認識の中に、首相のステーツマンシッブの一端をうかがって心強く思っている次第であります。
日豪両国は、アジア太平洋地域の南北両端に位置して平和を志向する国々であります。両国は、依然発展の途上にあるこの地域に、平和と安定をもたらすためできる限りの協力を重ねてゆかなければなりません。
奈良条約の精神に則る日豪協力関係が、アジア太平洋地域にまたがる平和のかけ橋となることを念頭して御挨拶とします。