データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 田中総理大臣のオーストラリア訪問に際しての日本とオーストラリアの共同新聞発表

[場所] キャンベラ
[年月日] 1974年11月2日
[出典] 外交青書19号,90−94頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1. 田中角栄日本国総理大臣は,オーストラリア政府の招待により,1974年10月31日から11月6日までの日程でオーストラリアを公式訪問中である。キャンベラにおいて,田中総理大臣は,ウィットラム・オーストラリア首相及び他の閣僚と会談した。

 田中総理大臣は,シドニー及びパース並びに西オーストラリア州の北西部を訪問する予定である。

2. 両国首相は,緊密な友情と親善の精神のもとで両国間に幅広い交流が発展して来たことに満足の意を表明した。両者は,日本とオーストラリアが両国の協力関係を深め,かつ,多様化するための努力を一層強化すべきであることに合意した。

3. 両国首相は,国際連合憲章の原則に基づいて,世界の平和,安全及び進歩を促進し,国際関係の処理における法の支配を強化するとの両者の約束を再確認した。両者は,とくに,国際関係における力の脅威または行使が認め難いこと,及び国際粉争の平和的解決の必要性に留意した。

4. 両国首相は,アジア・太平洋地域の動向について検討した。両者は,過去2,3年の間この地域において,平和と進歩の発展の見通しが改善されてきたが,依然としていくつかの不安定要因が存続していることに意見の一致を見た。両者は,この地域の諸国の必要と利益に沿つて地域協力を促進するとともに,全ての国が相互の利益と目的に対して一層理解を深めるよう努力することに合意した。両者は,一層大きな地域協力を達成するうえで東南アジア開発閣僚会議及び南太平洋フォーラムのような機構の活動を歓迎した。

5. 両国首相は,また,インドシナ情勢についても意見を交換した。両者は,この地域の人々の社会的及び経済的安寧を促進するために,この地域における平和の完全な確立及び関係当事者によるヴィエトナムに関するパリ協定の完全な実施が緊急に必要であることに合意した。

 両国首相は,カンボディアにおける戦争の継続を憂慮し,関係当事者に対し,平和的交渉を通じて紛争の早期終結を探究するよう要請した。

6. 両国首相は,北東アジアの動向についての討議において,両者が朝鮮半島の平和の維持を重視していることを再確認すると共に,南北の対話がこの地域の緊張緩和を目的として一層促進されるべきであるとの希望を表明した。

7. 両国首相は,また,インド洋における情勢について意見交換を行つた。両者は,インド洋が平和地帯であるべきであるとの考え方に対する支持を表明した。

8. 両国首相は,全ての核実験に対する反対を再確認し,核の分野における最近の動向が核不拡散体制におよぼしている影響に対して深甚なる憂慮の念を表明した。両国首相は,核兵器保有国にならないとの両国政府の決意を確認した。両国首相は,全ての国が効果的な国際管理の下における軍縮,とくに核軍縮を促進し,また,核拡散を防止するため,献身的な努力をすべきであるとの確信を再確認した。この点に関連して,両国首相は,そのような努力に対する核兵器国の重い責任を強調した。両者は,核兵器国によつて軍備管理の分野において一層の進展がもたらされることを希望した。両者は,現存する核不拡散体制を維持・強化し,また,包括的核実験禁止をもたらすために,国際連合において協力することに合意した。

9. 両国首相は,最近の世界経済情勢に深い注意を払い,インフレーション,原材料供給,食糧及びエネルギーのような問題に対処するために,すべての国が緊密な協力を行うことが肝要であるとの確信を表明した。両者は,これらの問題に関する建設的かつ適切な解決を確保するために,日本及びオーストラリアが2国間で,また多国間の場においてこのような協力を強化すべきことに合意した。

10. 両国首相は,これからの時期が困難なものであることを認識し,本年5月の経済協力開発機構閣僚理事会において加盟国政府によつて採択された宣言の精神に基づき,貿易その他の経常収支上の取引における一方的制限のような措置を回避するとの決意を再確認した。

11. 両国首相は,より良き国際経済関係の確立を目的として,貿易及び国際通貨の分野において,多角的枠組みの中で現在進められている作業が成功裡に完了することを重要視していることを再確認した。

 両者は,昨年9月,東京で行われた閣僚会議において開始されたガットの多角的貿易交渉に,オーストラリアと日本が全面的に参加するとの意図を確認した。両者は,現在の国際経済情勢の下においては,この交渉を推進することが,従来にも増して重要であると考え,実質交渉の早期開始の必要性を強調した。通貨問題に関して,両国首相は,これに関連した複雑な問題の解決のために,国際通貨基金,世界銀行,その他のフォーラムの枠内においてとられている処置に留意した。

12. 両国首相は,現在の国際経済情勢の下において,発展途上国が直面している特別な問題についての懸念を表明した。両者は,特に,非産油発展途上国が直面している深刻な困難にも鑑み,すべての国がこれらの問題につき緊急に,かつ同情的に考慮することが必要であることに言及した。両国首相は,この観点から,農業開発の分野における援助が重要であり,また,世界の食糧供給問題に関して建設的な態度をとるために,世界食糧会議のようなフォーラムが必要であることに合意した。

13. 両国首相は,両国間の緊密な経済上の相互依存性を認識し,両国間の貿易関係を一層強化し,発展させるため協力することに合意した。両国首相は,貿易及び関連問題に関して,近年あらゆるレベルで行われてきた意見交換が極めて有意義であつたことを満足の意をもつて留意し,そのような対話が継続し,強化されるべきことに合意した。両国首相は,貿易条件の改善及び両国間貿易における安定性を一層高めることの重要性について意見交換を行つた。両者はまた,牛肉,羊毛,砂糖及び自動車の貿易を含む現在特に重要となつている多くの問題について意見交換を行つた。

14. 両国首相は,鉱物・エネルギー資源貿易及び最近のエネルギー情勢の影響について討議し,2国間においても,また多角的枠組みの中においても,この分野における協力を継続することが必要であることを確認した。両者は,また,この分野における動向に関する両国間の意見及び情報の継続的交換についても満足の意をもつて留意した。

 田中総理大臣は,日本が鉄鋼生産用及び発電用としてオーストラリアの石炭を益々必要とすること,並びに石炭及び核原料による発電の増大計画に関する日本の意向を説明した。

 ウィットラム首相は,オーストラリアがエネルギー供給において最大限の協力を保証すること及びオーストラリアが日本の需要に応じるため石炭生産を漸進的に拡大する意向であることを再確認した。

 両国首相は,石炭液化研究の分野において,専門家の相互訪問及び技術情報の交換を通じて協力を開始することに合意した。

 田中総理大臣は,オーストラリアが1976年から1986年までの間に,既契約分の9,000ショート・トンのウランを日本に供給すること,および日本に対するさらに多くの供給の可能性があることを確認したことに対し謝意を表明した。同首相は,また,日本は1986年から2,000年{前6文字ママ}にかけて,さらに多くのウランをオーストラリアから輸入することが必要となろうと述べた。ウイットラム首相は,日本のこれらの需要に応じることを考慮する用意がある旨答えた。

 田中総理大臣は,ウラン濃縮に関して既になされたオーストラリアの提案に答えて,日本は,オーストラリアにおけるウラン濃縮を原則として好ましいと考えるものであり,その可能性の研究につきオーストラリアと協力する旨述べた。田中総理大臣は,この研究は,資本,第三国からの適当な技術の選定その他の関連事項に及ぶであろうと述べた。

 ウイットラム首相は,オーストラリアにおけるウラン濃縮から日本の増大する需要に応ずる用意がある旨表明した。

 両国首相は,共同研究が実行可能なかぎり早期に開始されるべきことに合意した。

15. 両国首相は,外資に関して討議し,それぞれの政策の下において,両国間の資本の流れを継続する上で相互協力の余地が大きいことに合意した。

16. 両国首相は,両国間の永続する友好関係の堅固な基礎となるべき相互理解と信頼を増進するために,日本国及びオーストラリアが,それぞれの国民が相互により良く知り合い,またそれぞれの国の相手国にとつての重要性をより深く理解する機会を増大することが不可欠であることに合意した。

17. 両国首相は,日本国政府とオーストラリア政府との間の文化協定の署名を歓迎するとともに,同協定が両国間の一層の文化交流の拡大と相互理解の促進のための有効な枠組みとして役立つであろうとの共通の期待を表明した。

18. 文化協定に規定された幅広い分野の活動の実施を確保する必要性が認識され,両国首相は,そのような活動を奨励するためにそれぞれ約百万オーストラリア・ドルに上る相互に同等の支出を行うとの両国政府の意向を表明した。

 両者は,また,両国民間のより広範囲な関係を促進するため,それぞれの国及び両国間で必要とされる措置に関して更に協議すべきことに合意した。

19. 両国首相は,科学技術の分野における協力の拡大に対して共通の希望を表明した。両者は相互に関心を有する分野における科学関係の情報の交換及び人物の交流の増大が相互に有益であることを考慮した。

20. 両国首相は,両国間に存在する利害の共通性,友好関係及び相互依存性を秩序ある形に表現することとなる友好・協力条約(奈良条約)の締結に向かつて進展が見られたことを満足の意をもつて留意した。

21. 両国首相は,日豪閣僚委員会を重視していることを再確認するとともに,同委員会が,両国間の相互理解と信頼の発展のため,将来においてより大きな役割を果すであろうとの両者の確信を表明した。

 両者は,1975年前半に,キャンベラにおいて閣僚委員会の第3回会議を開催することを期待した。

22. 田中総理大臣は,オーストラリア訪問に際して田中総理大臣及びその一行に寄せられた友情と丁重なもてなしについて,オーストラリア政府及び国民に対し深い感謝の意を表明した。