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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ハワード豪首相主催晩餐会における橋本総理大臣演説,アジア太平洋地域の中の日豪関係

[場所] キャンベラ
[年月日] 1997年4月28日
[出典] 外交青書41号,197−200頁.
[備考] 
[全文]

ジョン・ハワード首相閣下、令夫人

キム・ビーズレイ労働党党首、

ご列席の皆様、

 本日は、国会議事堂において、豪州の長年の友人として、アジア太平洋における日豪関係について所信を表明する機会を設けて頂き、誠に光栄に存じます。私と豪州の関係は、非常に長く、私の最初の豪州訪問は、1969年に無名戦士の墓とともにカウラの日本人墓地を訪れたことにさかのぼります。その後も、私は、運輸大臣、大蔵大臣、及び通産大臣として日豪閣僚委員会に出席する機会に豪州を訪問する機会を得て参りました。今回私は、日本の総理大臣として、豪州を訪問し、ハワード首相との緊密な協力関係を深めることができましたことは、私の喜びであります。私は、今回の訪豪が日本と豪州の良好な協力関係を政治的に強化する契機となることを期待しております。

 本日私は、この機会にまず、アジア太平洋地域の現状についての所感を述べ、次いで豪州とアジア太平洋地域との関係についての若干の意見を披露し、最後に日豪の協力のあり方につきお話ししたいと思います。

ご列席の皆様、

 日本と豪州は、今後とも発展と繁栄が期待されるアジア太平洋地域の北と南に位置し、この地域の平和と安定を維持していくことに共通の政策と利益を有しております。

 アジア太平洋地域においては、冷戦の終了後、いくつかの対話と協力のための多角的枠組みが作られてきました。現在においても、関係国間の協力、2国間の同盟関係や安全保障対話が地域の安定にとって重要な役割を果たしております。その中で、日米安全保障体制は、益々重要な意味合いを持っており、私は、その維持さらには強化に強くコミットしております。それは、冷戦が終わった今日においても、アジア太平洋地域全体の平和と安全にとって米国のプレゼンスが必要不可欠であり、日米安保体制は、そうした米国のプレゼンスを確保していくための枢要な枠組みであるからです。このことは、米豪防衛協力を行っている豪州においてもよく理解されているとおりです。私は、今回の豪州訪問に先立ち米国を訪問し、そこでクリントン大統領と昨年4月に発出した「日米安保共同宣言」に基づき、今後とも日米安保体制を一層充実していくことを再確認しました。

 中国との建設的な協力関係もアジア太平洋地域の安定にとって不可欠であり、各国が中国との対話と協力を深めていくことが必要であると考えます。このような観点から、ハワード首相が先般中国を訪問し、経済面を中心とする協力関係につき幅広く意見交換されたことを歓迎します。私自身も秋には訪中したいと考えていますし、中国の江沢民首席や李鵬首相も本年から来年にかけて訪日される予定です。私は、日米中更に豪州を加えた4ケ国の間のそれぞれの2国間関係が前進することはこの地域の平和と繁栄に大いに寄与するものと確信します。これらの間には、「プラス・サム」の関係があり、また、そうあるべきものと考えます。

 朝鮮半島の平和と安定は、アジア太平洋地域に位置する日豪両国の共通の関心事項であるべきものと考えます。私は、日豪両国が韓国、北朝鮮、米国、中国による4者会合提案を引き続き支持するとともに、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)を支えていくことが重要と考えます。KEDOに対し、豪州が先般200万豪ドルの追加的貢献を決定されたことを、この地域の安全保障に積極的な役割を果たす意思を改めて明確にされたものとして評価しております。

 更に、ASEANが着実に政治的及び経済的に発展し、国際社会への貢献を高めてきていることは、アジア太平洋地位域{前9文字ママ}の一層の安定と活力の維持にとって重要であると考えます。このため、私は、本年1月のASEAN諸国訪問に際し、日・ASEANの関係をこれまでの2国間関係に加えて協力体としてのASEANとの関係をも強化し、政治、経済、文化その他国際社会全体が直面する諸課題を含めた幅広く奥深い関係を構築すべきことを強調しました。

 太平洋島興国{前6文字ママ}に関しては、これまで豪州は大きな指導力を発揮してこられましたが、我が国もこれらの諸国の安定と発展のために協力を行って参りました。我が国は、太平洋島興国{前6文字ママ}に対する国際社会の関心をさらに高めるため、本年10月、東京において日・南太平洋フォーラム首脳会議を開催することを決定しております。

 この地域には、冷戦終了を契機として種々の地域協力の枠組みが作られてきました。豪州がその設立に大きな役割を果たしたAPECは、地域の首脳が一堂に会し経済分野の協力のみならず、政治的に重要なメッセージを発出する場として、日豪両国にとってかけがえのない価値を有しています。日豪両国は、この地域の更なる発展のため、APECにおける協力を進めるとともに、世界貿易機関(WTO)においても緊密な協力を維持していく必要があります。アジア太平洋地域の安全保障を促進するためのASEAN地域フォーラムも着実に進展しています。このような多国間の枠組みは、2国間あるいは関係国間の枠組みと並んで重要であり、こうした様々な枠組みが重層的かつ多角的に機能することが域内の平和と安定のために益々必要となってくると思われます。

ご列席の皆様、

 それでは、このようなアジア太平洋地域と豪州の関係はいかなるものでしょうか。それを考えるには、まず、アジア太平洋地域が長い歴史と多様性に富む広大な地域であることに注目する必要があります。そして、その中にあって、豪州が、アジア諸国との間に歴史的、文化的背景の相違を乗り越えて相互理解と信頼を基盤とした緊密な関係を築きあげるべく真摯に努力されていることは、賞賛に値します。また、私は、このような努力を行っている豪州が2世紀にわたる開拓の中で培われてきた自らの特徴を活かしながらアジア太平洋地域の将来の発展のために立派な貢献をされることを確信しております。我が国は、このような豪州がアジア・欧州会合(ASEM)のアジア側の重要なメンバーとして参加を認められることが必要であると確信しております。

ご列席の皆様、

 ひるがえって日豪2国間関係を見ますと、両国関係は、先の大戦の経験にも拘らず、戦後目覚ましい発展を遂げてきております。今年は、この戦後の日豪関係の重要な出発点の1つである日豪通商協定が結ばれてから40周年の年となります。日豪両国の貿易と投資を中心とする相互補完的な経済関係は益々拡大しております。私が政治生命をかけて進めている行政、財政、経済、金融システム、社会保障、教育の6つの改革は、日本経済の活性化をもたらすものであり、必ずや日豪経済関係の更なる発展につながるでしょう。

 今日、日本と豪州は、経済問題のみならず、政治、社会関係についても緊密な協議を行っております。昨年より、日豪間で外務防衛事務レベル協議も開始され、安全保障の分野においても密接な協議が開始されました。

 閣僚レベルでは、1972年より、日豪閣僚委員会を開催してきております。

 この様ないろいろなレベルにおける対話の中でも、首脳レベルの対話が益々重要になってきていることは論をまちません。今回私が豪州を訪問いたしましたのも、アジア太平洋地域における不可欠のパートナーである日豪首脳レベルの接触の重要性を確信したからにほかなりません。私は、先ほどのハワード首相との会談で、日豪首脳が原則として年1回は会談することを提唱し、ハワード首相も喜んでこれに同意して下さいました。また、日豪閣僚委員会について、本年8月1日に東京で開催することにも、我々は、合意致しました。

 日豪両国にとって、安全保障、政治、経済の各分野における協力に加え、エネルギー、環境、教育、文化、科学技術の発展といった分野においても、協力すること、また、両国の発展に資するだけでなく、アジア太平洋地域社会の発展に役立つような協力を一層推進していくことが重要と考えます。私は、このような考えに基づいて明日のハワード首相との会談において両国の具体的協力の基本的方向を「日豪パートナーシップ・アジェンダ」として示したいと考えております。

ご列席の皆様、

 昨年9月にハワード首相が訪日された際、私とハワード首相は、両国の100年を超える歴史的関係の上に立って、さらに発展させるために、国民レベルによる友好記念事業を昨年から来年にかけて実施していくことを宣言いたしました。現在進められている友好記念事業が、太平洋をはさんで結ばれた国民レベルの友好と信頼を更に深める契機となることを強く期待しております。私は、こうした両国の国民の友好と信頼を基礎として、アジア太平洋地域全体の将来のためのパートナーシップを育てていくことが、21世紀に向かう両国の課題であると考えております。ハワード首相、ここにお集まりの豪州各界の指導者の皆様、21世紀の日豪パートナーシップのため、さらにはより遠くの地平線に向けての日豪協力のため、ともに力をあわせて進んでいこうではありませんか。

 ご静聴ありがとうございました。