データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日豪首脳会談後の共同記者会見

[場所] オーストラリア
[年月日] 1997年4月29日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),338−341頁.
[備考] 
[全文]

一、ハワード首相より冒頭次の通り述べた。

(一)橋本総理ご夫妻の訪豪を歓迎する。友好的な雰囲気の中で、有意義な意見交換を行うことができ、また両国間関係及び個人的関係を一層緊密化できたと考える。再度、ご夫妻で訪豪いただければありがたい。総理より妻とともに日本訪問をお招きいただいたが、可能であれば妻とともに来年日本を訪れたい。

(二)年一回の日豪首脳会談の開催提案及び次回日豪閣僚委員会の八月一日開催提案を歓迎する。

(三)間もなく、マクラクラン国防相が訪日することをお伝えしたが、日豪間で安全保障面での協力を進めていくことで意見が一致。

(四)七千トンの米の入札時期が追加されたことについて、橋本総理の前向きな対応を高く評価する。,」の措置が今後の土台となることを期待する。

また、リンゴの対日輸出につき、日本で公聴会が五月二日に開催され、それが巧くいけばタスマニア産リンゴの対日輸出が可能になると説明を受けた。

(五)ASEMに対する豪州の新規参加につき、総理より変わらぬ支持をいただいていることに感謝する。

(六)APECは域内で最も重要な枠組みということで認識が一致。

(七)二酸化炭素の排出規制目標については、米国及びEUの規制目標が実施されると、非常に大きなインパクトがある。豪州は先進国ではあるが、同時にエネルギー輸出国でもあり、日本で開催される第三回気候変動条約締約国会議においては、それぞれの国の実情に応じた、公平で実行可能な結論が得られることを期待する。

 橋本総理とこの件につき、意見交換を行える機会を得られたことを歓迎する。

二、次に、橋本総理より冒頭次の通り述べた。

(一)温かいもてなしに感謝。

(二)今回の訪豪はこれまで進めてきた対アジア太平洋外交の一環であり、豪州との政治的関係の強化を目的とするもの。

(三)ハワード首相との間では、二国間問題、域内問題及び国際問題に関する意見交換を行ったほか、訪米の成果を紹介した。

(四)ハワード首相ご夫妻の訪日を招待した。

(五)日豪間の首脳会談を原則として少なくとも年一回開催すること、また八月一日に次回日豪閣僚委員会を開催することにつき、ハワード首相の同意をいただいた。

(六)嬉しいお土産として、ハワード首相より愛知万博への明確な支持をいただいた。

(七)域内安全保障問題に関して、米国の域内プレゼンンスを支えていくことが重要との認識が一致。また、日豪PM協議の一層の推進に合意。

(八)豪州のASEM参加を支持すると伝えた。

(九)豪州によるKEDOへの貢献を高く評価すると伝えた。

(十)自由貿易体制の維持強化及び投資促進に向け、APEC及びWTOの場において日豪協力を引続き実施することで合意。

(十一)日豪両国は、中国を国際社会に関与させていく努力を行っていくことを確認。

(十二)日豪協力の具体的課題として、次回日豪閣僚委員会において十八の協力分野とすることを合意した。二国間協力が七分野、地域・国際協力が十一分野。これらを通して深い友情を作り出していけると信じている。

三、引続き記者団より以下の質疑応答が行われた(約十五分間)。

(一)(橋本総理に対して豪記者より)気候変動条約第三回締約国会議において、排出目標が合意できない場合、米及びEUは、貿易制裁措置をとると考えるか。

 ○総理 同会議を対決の場にする考えはない。問題なのは、採択される議定書の内容をどうするかということであり、これは地球温暖化を防止する上で効果があること、負担が公平で、実行可能であることが重要。この意味で、交渉を通して目標を設けようとする豪州の立場は理解できる。

 日本としては、議長国として、ご質問のような事態がおきないように調整を進めていきたい。

(二)(橋本総理に対して邦人記者より)豪州の自動車関税値下げの動きに対して、どのように考えるか。

○総理 今朝の報道によると、自分(総理)が本件をハワード首相に提起するとのことであったが、ご期待通り提起した。この問題は基本的に豪州の問題であるとハワード首相はお伝えした。関税引き下げは貿易自由化上、望ましいことであるが、他方で自動車産業は豪州国内において多くの雇用を生み出しており、また日豪関係の絆の一つとなっていることから、最後に自分よりハワード首相に「ジョン、私は貴方を信じており、貴方はそのあたりを考慮したバランスのとれた措置をとると信じている」と申し上げた。自分はハワード首相は信じるに足る人だと考えている。

(三)(両首脳に対して豪記者より)双方の外相及び国防相が年一回会合を持つことが有益とのアナリストの見方もあるが、今後の日豪間の安全保障協力について、どのように考えるか。

○ハワード首相 日豪間の安全保障上の協力関係の拡大は有益と考えるが、急速な拡大は好ましくない。国防相の訪日など、両国の対話の中で安全保障問題に関する話合いの場を増やしていくことが適当。

○総理 九六年四月には日米安保共同宣言が発出され、同年七月には米豪安保共同宣言が発出されたが、日豪両国はこれを域内安全保障の大きな一歩として高く評価。現在、日豪両国は九六年二月よりPM協議を開始しており、また今般、国防相が訪日することとなったが、駆け足で新しいことに取り組むよりも、これらに一つ一つ取り組み、信頼関係を強化することが重要。

(四)(両首脳に対して邦人記者より)沖縄の負担軽減のため、米海兵隊の演習を豪州で行うといったことはあり得るのか。

○総理 豪米安保共同宣言においては、豪州が米国に追加的な訓練の機会を提供することが謡われているが、それはアジア太平洋地域における他の場所での米軍のプレゼンスをなんら減少させるものではないと位置づけられていると承知。

 日豪両国はアジア太平洋地域内の安全保障環境の向上のため、信頼醸成の形成に努めており、域内安全保障に対する両国のアプローチは一致している。このように、共通の立場を有する日豪両国が、域内安全保障に関して協力関係を構築していくことは自然な流れと考える。

 実態的に豪州がより良い演習環境を提供できるものもあれば、日本がよりよい演習環境を提供できるものもあるとは思うが、それが責任分担を減少させるというような考え方はしていない。

○ハワード首相 日豪間の安全保障協力の問題については、橋本総理の発言の通り、一歩一歩進めるべき。今の段階で、どのような形になるかはわからない。また、海兵隊の訓練についても橋本総理と同意見である。