データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・豪首脳会談後の共同記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2005年4月20日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【小泉総理冒頭発言】

 もう何度もハワード首相とはお目にかかり会談をしておりますが、改めて来日し首脳会談を持てたことを喜んでおります。また、愛知の万博にもオーストラリアに参加していただきまして、心から歓迎したいと思います。

 また、日本とオーストラリアは現在極めて良好な関係にありますけれども、今日の会談におきましても更にこの関係を一段と上に高めていきたいということで一致いたしました。

 更に、イラクへの部隊派遣について、厳しい、難しい状況の中であえてハワード首相が派遣を決断された。敬意を表し、日本政府として高く評価しております。今後とも、イラクの復興のためにも、日本とオーストラリアは緊密に協力していかなければならないと思っております。

 また、ハワード首相から国連改革、そして日本の常任理事国入り支持を明確に表明していただきましたことにも感謝を申し上げたいと思います。

 これから日豪関係は、両国の発展はもとより、国際社会の中で日豪が協力できる分野、テロ対策も、あるいは安全保障の面におきましてもさまざまな分野があると思います。来年は日豪交流年でありますので、この成功に向けて、更に今回のハワード首相の来日を機会にいろんな面で幅広い交流拡大に向けて努力をしていきたいと思います。

 FTAにつきましては、日本の置かれた立場というものもハワード首相はよく存じておられます。日本とオーストラリアは、経済面におきましては極めて良好な相互補完関係にある。そういう中で、経済関係の現在の良好な状況を更に上に発展させるという中で、FTAを結んだ場合にどういうメリットとデメリットがあるかという点について、今後よく協議していこうということでも一致いたしました。

 更に、この経済関係のみならず、日豪の社会保障協定締結のための正式交渉を開始することで合意をいたしました。

 日本とオーストラリアは、自由民主主義、市場経済という共通した価値観を共有しております。特に、日本国民もオーストラリアへ訪問する数が増えております。また、オーストラリアの国民も日本へ訪問しようという方々も増えておりますので、今後更に、この日豪のさまざまな分野での交流を拡大していくと。極めていい時期に、ハワード首相は日本に訪問していただいたなと。この訪日を機会に、更に日豪関係を発展させていきたいと思います。

 ありがとうございました。

【ハワード首相冒頭発言】

 皆様、このたび、再度首相として来日できたことをうれしく思っておりますし、また再び小泉総理にお会いできたことをうれしく思っております。

 もう今まで何回もお会いする機会がございましたが、総理の日豪の非常に緊密な関係におけるリーダーシップというものを私は賞賛の意を表明したいと思いますし、また豪州軍をイラクのムサンナ県に派兵したことに関してのお言葉ありがとうございます。

 私、中国、日本の外遊の旅に出る前にダーウィンにまいりまして、そこで450人の増派の兵士と会うことができました。彼らはイラクに行くわけですが、彼らがどういった希望を持っているか、また装備もしっかりしているか、訓練も積んでいるかどうかということを見ましたが、非常に良好な状況でありましたので、私は彼らが使命を帯びていくことに関して力強い支持を与えました。特に日本というパートナー国と一緒にやるということに関して強い支持を表明しました。

 さて、今日の首脳会談は非常に有益でありまして、長きにわたる緊密な日豪の経済関係というものを重視しております。経済だけではございません。戦略的な関係も両国は有しておりますし、また日、豪、米国3か国が関わる安全保障対話というものも有しており、これを重視しております。日豪ともに、平和裏に北朝鮮に関わる問題が解決されることに共通の関心を持っておりますし、我々にとってはこれも重要なことであるわけです。

 更にうれしいことに、皆様にお伝えしたいんですが、日本は豪州のよきお客様として、いつでも存在してくださっているわけですし、もう長年そういう状況が続いております。また、今後もこれが将来に向かって存続しないはずはないと思います。

 今回の首脳会談を通して合意したこととして、お互いの経済関係を更に高めようということであります。また、FTAへの研究をフィージビリティーに関して行うということを合意いたしました。

 その次の段階でありますが、もしフィージビリティー・スタディーの結果、どうなるかということによって次の段階に進むわけでありますが、ここでそれを決めることはできませんが、いずれにしてもフィージビリティー・スタディーを始めようと。そしてこの是非論、もしくはメリット、デメリットというものもFTAに関して両国で検討しようということになりました。

 最後に一言申し上げますが、両国の友情の念というのは、非常に国民のレベルでも広がっておりますし、また経済的な関係を通しても深まっております。

 明日は愛知の万博にまいりまして、オーストラリアのナショナルデイとなっておりますが参加することになっております。豪州は強くこの愛知エキスポを支持しておりますし、また両国の経済関係の重要性ということでも、これは重視すべきであります。2006年というのは日豪交流年というふうになっております。

 私は、総理に是非交流年に再び豪州に来ていただけるように御招待いたしました。日豪交流年というのは非常に重要なものでありますし、日本のリーダーとして大歓迎させていただきたいというふうに御招待したわけであります。日本は、豪州の経済力向上に過去30年、40年大きく貢献してくださったのです。

【質疑応答】

【質問】 小泉首相、ハワード首相それぞれにイラク情勢についてお伺いいたします。オーストラリア軍がサマーワ地域で治安維持に当たることになりますが、現地の治安情勢についてどう考えていらっしゃいますか。

 また、イラクでは憲法制定、総選挙と重要なプロセスが今後入ってきますが、テロ活動が活発する可能性なども含めてどういった見通しを持っていらっしゃるか、お聞かせください。

【小泉総理】 イラクのサマーワの治安状況については、イラクの中では比較的安定している地域だと思っております。日本の部隊も活動しておりますけれども、今までも極めてサマーワ地域の住民と良好な関係を維持しながら人道支援、復興支援活動にいそしんでいると。

 今回、オランダの後にオーストラリアの部隊が派遣され、日本と緊密な連携を取ると。更にイギリスとも良好な関係にありますので、イギリス、オーストラリア、日本、そして多国籍軍、米国を始め協力しながらサマーワ地域の人道復興支援に寄与できる状況だと、現在の状況はそう見ております。

 そして、今はイラクにとって極めて重要な時期です。選挙が行われて、イラク人自身が自らの国を民主的な安定的な政権をつくろうと努力しているわけです。

 このイラク人自身の自らの国を立ち上げようとする努力を支援していくのは国際社会の責任だと思っております。日本も国際社会の一員としてその責任を果たしていきたいと。

 そういう意味において、予定された政治プロセスが実現され、イラク人自身の努力によって民主的な政権ができるよう、できるだけの努力をしていきたい。勿論、日本だけではございません。オーストラリアも含めて世界各国、国際社会と協力しながら日本の責任を果たしていきたいと思っております。

【ハワード首相】 私も総理がおっしゃったことに関しては、大筋で合意いたします。このムサンナ県というのは、治安上の困難というもの、他の県のようには見られておりません。勿論、イラクのどの地域においてもある程度の危険性というものがあるわけですから、決して幻想を抱いているわけではありません。

 ただ、ここで重要なことは、イラクは大きな前進を今までしてきたと。そうすることによって民主的な将来を打ち立てるために治安状況も改善してきた。まさにイラクは選挙も成功裏に1月30日に実施したと。

 また、850万人のイラク人が実際に投票を行ったと、自由な選挙が実施されたということは事実であり、これは支援しなければいけないと思いますし、日豪両国ともにその支援をしていきたいと思っております。

 総理がおっしゃったように、地元の人々と友情の念を深めて彼らの心をつかむということ。また、いろいろな軍事上の任務を実施していくということは重要であります。勿論、日本の自衛隊もそういった任務をしていらっしゃるわけですし、内容的には豪州の任務とは違っていますけれども、しかし、お互いにグループとして緊密な連携を取りながら、米国軍とも手を携えて進めていきたいと思います。

 今、ムサンナ県の全般的な治安に関しては英国軍とも一緒に維持していくわけでありますが、豪州軍は更に地元のイラク軍の兵士たちの訓練も行う使命を帯びております。究極的にはイラクの民主化が実現されるためには、やはり自ら国民が国内の治安を自らの国軍によって維持していかなければいけないと考えているからです。

【質問】 小泉首相に伺いたいと思います。フィージビリティー・スタディーに合意なさったということは、FTAを豪州と締結して、しかも農産物も入れる可能性もあるということなんでしょうか。

【小泉総理】 この話は、ハワード首相ともかなり長く話し合いましたけれども、農業問題に難しい問題があるということは、ハワード首相もよく存じております。このフィージビリティー・スタディーが直接すぐFTAに結び付くというものではありませんが、2年ぐらいかけてデメリット・メリット、どういうものがあるか。そして、より高い経済協力関係に持っていくために何ができるか。そういう研究会であります。その2年の間をかけて、それぞれ協議した中で、次の段階でどうしようかということをお互いまた話し合っていけばいいと思っております。

【質問】ハワード首相にお伺いいたします。今回は日本と中国への訪問というふうに伺っております。現在、日本と中国の関係はなかなか厳しいものがありまして、中国側には日本は過去を反省しない、反省が足りないという意見も出ています。かつて日本と第二次大戦で戦った国として、この中国の指摘をどのようにお考えかお聞かせください。

【ハワード首相】 私の方からは、中国側が何を言ったかということを言及するつもりはありません。直接、私の考え方を申し上げたいと思います。

 それぞれの国が、やはり過去の歴史というものは理解しなければいけないと思いますし、それに対応しなければいけない。これはどこの国でもそうであります。日豪の関係を見ますと、60年ほど前にお互いに敵対国であったわけです。特に高齢の豪州人の中には、まだそういった苦い気持ちというものが残っているかもしれませんし、それは理解できると思います。ただ、日豪関係のすばらしさというものはどういうところにあるかと考えますと、1957年に両国は節目となるような通商協定を締結いたしまして、これはそもそも私ども豪州政府がイニシアティブを取ったものでありまして、豪州軍で第二次大戦時に太平洋戦域などでも戦った、また捕虜になったような人々、そういう人がこの通商協定を手がけたということです。これは節目となる協定であり、これが1つの土台となって現在の日豪間の関係が力強いものになっております。

 そういった人々は当時、将来に目を向けていたので、過去に目を向けていたわけではない。勿論、過去を忘れたわけではないわけですけれども、将来に目は向いていたということなんです。これが私の視点なんです。すなわち、オーストラリアはそういうアプローチを取っております。ほかの国がどうアプローチするかは、またそれぞれの国が説明すべき点でありまして、私の方から中国がどう自分で思っているのか申し上げるつもりはありません。私どもは、勿論、日本との関係を非常に重視しております。だからと言って過去に悲劇がなかったということを言うつもりはありませんが、しかし、総理もおっしゃったように、我々は将来に目を向けているんだと。戦争で実際に戦ってきた人々も、当時は将来に目を向けて、そしてそれが今の世代にメッセージとして伝わっているわけです。

【質問】小泉総理、またハワード首相の方からもお答えいただきたいと思います。イラクからの出口戦略に関して伺いたいんですが、小泉総理としては、日本の自衛隊がどれぐらい長期イラクにとどまるんでしょうか。

 また、もし任期を延長するという場合に、豪州軍が同じように延長してそこで守ってくれるとお考えなんでしょうか。もしくは、技術者が残っている場合はどうなるんでしょうか。

【小泉総理】 自衛隊は、今年の12月まで活動することに現在なっておりますが、いつ、自衛隊が撤収するかということについては、よく現地の状況、また国際社会の要請、またイラク人が自分たちの力でイラクの民主的な安定政権をつくるという、その努力ぶり、イラク政府の反応、こういうものをよく判断して、日本は撤収する場合には円滑な、円満な形で撤収したいと思っております。

 また、日本の自衛隊の安全確保につきましては、一義的には自衛隊自身が安全確保の対策を十分しております。しかし、日本は外国で武力行使をしないという方針を固く守っておりますので、そういう点については十分配慮しなければいけないと思います。また、ムサンナ県にイギリス軍のみならず、オーストラリア軍が派遣されて、自衛隊の安全確保にも十分配慮していただけると、協力していただけるということは、極めて心強く思っております。緊密な連携を取って安全確保には細心の注意を払って、自衛隊の本来の任務であります、人道支援・復興支援活動にいそしむことができるような環境情勢に更に意を用いていきたいと思っております。

【ハワード首相】 私の方からも補足いたしますと、豪州軍の配備ですが、とりあえず12か月ということでありまして、ここで具体的にその12か月が過ぎた後にどういうふうにするかということはコミットしたくありません。これは日本のプレゼンスがどうなっているかということとも関係しますし、更にほかのいろいろな考慮すべき要因もあります。12か月の間に、2回のローテーションがございまして、兵士は6か月交代で現地に参るわけですが、イラク全体の治安状態がだんだんまとまって来ればというふうに思っておりますが、いずれにしても豪州軍は日本の友人とともに仕事をすることを楽しみにしておりますし、日本の総理が決断なさって、そしてイラクに自衛隊を派遣なさったことは非常に困難な決断でありました。特に国内からは厳しい反対もあった中でなさったわけですから、私は心より称賛したいと思います。