データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ソ平和条約両国案(日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約(案)),ソ連側提出の平和条約案 

[場所] 
[年月日] 1955年6月14日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),718−719頁.松本俊一「モスクワにかける虹 日ソ国交回復秘録」朝日新聞社,183−190頁.
[備考] 
[全文]

 一方ソヴィエト社会主義共和国連邦及び他方日本国は、

 平等、主権の相互的尊重及び民族独立を基礎とする両国間の平和関係の設定の希望を指針とし、

 右関係の設定が両国国民の利益に完全に合致し、かつ、その経済的発展と繁栄を促進し、さらにまた国際連合憲章の目的及び諸原則に適合する全般的平和及び安全の強化に資することを確信し、戦争状態の終結を宣言すること及び両国間に公式関係を回復すること、さらにこれがため、正義の原則に適合し、ソヴィエト連邦と日本国との間の善隣友好関係の基礎たるべきこの平和条約を締結することに決定し、

 このため、それぞれ左記全権委員を任命した。

 ソ連邦政府

 日本国政府

 これらの全権委員は、その全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

    第一条

 締約国は平等、領土保全及び主権の相互尊重並びに不侵略の諸原則を指針とし相互の内政に干渉せざることを約す。

    第二条

 両国は、国際連合憲章に適合し、その国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全を危くしないように解決することを約束する。

 日本国は、日本国との戦争に参加したいずれかの国に対して向けられたいかなる連合又は軍事同盟にも参加しないことを約束する。

    第三条

 ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国に対するいつさいの賠償請求権並びに一九四五年八月九日以来、戦争の期間中日本国、その団体及び国民が執つた行動の結果として生じたソヴィエト社会主義共和国連邦、その団体及び国民の日本国、その団体及び国民に対するすべての請求権を放棄する。

    第四条

 日本国は、戦争から生じ、又は極東における戦争状態の存在のため執られた行動と関連するソヴィエト社会主義共和国連邦、その団体及び国民に対するすべての請求権をその性質のいかんを問わず、日本国政府、日本国の団体及び国民の名において放棄する。

    第五条

 日本国は、いつさいの附属島嶼を含む樺太島南部及び千島列島に対するソヴィエト社会主義共和国連邦の完全なる主権を承認し、かつ、右領域に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。ソ連邦と日本国との間の国境は、附属地図に示されるごとく、根室海峡、野付海峡及び珸瑶瑁海峡の中央線とする。

    第六条

一 締約国は、相互に、宗谷海峡、根室海峡、野付海峡及び珸瑶瑁海峡における自由航行を阻害することあるべき措置を執らざることを約束する。

 日本国は、さらに津軽海峡及び対馬海峡における自由航行を阻害することあるべきいかなる措置をも執らざることを約束する。

 右にあげられたすべての海峡は、常にすべての国の商船の航行のために開放される。

二 本条第一項に掲げられた諸海峡は、日本海に臨む諸国に属する軍艦の航行にのみ開放されるべきものとする。

    第七条

 ソ連邦は、国際連合加入に関する日本国の要請を支持する。

    第八条

 締約国は、互恵の基礎においてソ連邦と日本国との間の経済関係を発展せしめるために必要な条件を確保する目的をもつて、通商航海条約の締結に関する交渉を開始することに合意する。

 右条約が締結されるまで、この条約発効の日より十八箇月間、両国は、関税、通関手数料及び通関手続、その他貨物の輸出入に関するソ連邦及び日本国の現行規則並びに港湾における他方締約国の船舶に対する待遇特にその出入、停泊、各種の手数料及び税金、荷積及び荷卸し、燃料、水及び食糧の供給に関し、相互に最恵国待遇を与える。

    第九条

 締約国は、魚類及びその他の海獣資源の保存及びその合理的利用に関するソ連邦及び日本国の利害関係を考慮し、魚類及びその他の海獣の捕獲の規制及び制限を規定する諸条約又は諸協約の締結に関する交渉を開始することに合意する。

    第十条

 締約国は、郵便及び小包の交換並びに電話、電信及び無線連絡の設定に関する諸協約を締結することに合意する。

    第十一条

 締約国は、文化的連携の諸国民間の相互理解の増進に対する意義に着目し、文化協力に関する協定の締結に関する交渉を開始することに決定する。

    第十二条

 この条約は、批准されなければならない。この条約は、批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書の交換は、できる限りすみやかに    で行なわれなければならない。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名調印した。

 一九五 年 月  日    で、ロシア語及び日本語により本書二通を作成した。両本文は、同一の効力を有する。