[文書名] 日ソ漁業条約(北西太平洋の公海における漁業に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約)
日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、
北西太平洋における合理的基礎に基く漁業の発展に対する両締約国の共通の関心並びに魚類その他の水産動物の資源の状態及びその資源の有効な利用に対する相互の責任を考慮し、
北西太平洋における漁業の最大の持続的生産性を維持することが人類の共通の利益及び両締約国の利益に合致することを認め、
各締約国が前記の資源の保存及び増大を図る義務を自由かつ平等の基礎において負うべきことを考慮し、
両締約国が関心を有する漁業の最大の持続的生産性を維持することを目的とする両締約国の科学的研究を推進し、及び調整することがきわめて望ましいことを認め、
よつて、この条約を締結することに決定し、このためそれぞれの代表者を任命した。これらの代表者は、次のとおり協定した。
第一条
1 この条約が適用される区域(以下「条約区域」という。)は、日本海、オホーツク海及びベーリング海を含む北西太平洋の全水域(領海を除く。)とする。
2 この条約のいかなる規定も、領海の範囲及び漁業管轄権に関する締約国の立場になんらの影響を与えるものとみなしてはならない。
第二条
1 両締約国は、魚類その他の水産動物の資源(以下「漁業資源」という。)の保存及び発展のため、条約区域においてこの条約の附属書に掲げる共同措置を執ることに同意する。
2 この条約の附属書は、この条約を構成する不可分の一部とする。すべて「条約」というときは、現在の字句における、又は第四条(イ)の規定に従つて修正されたこの附属書を含むものと了解する。
第三条
1 両締約国は、この条約の目的を達成するため、北西太平洋日ソ漁業委員会(以下「委員会」という。)を設置する。
2 委員会は、二の国別委員部で構成し、各国別委員部は、それぞれの締約国の政府が任命する三人の委員で構成する。
3 委員会のすべての決議、勧告その他の決定は、国別委員部の間の合意によつてのみ行うものとする。
4 委員会は、その会議の運営に関する規則を決定し、及び、必要があるときは、これを修正することができる。
5 委員会は、少くとも毎年一回会合し、また、そのほかに一方の国別委員部の要請により会合することができる。第一回会議の期日及び場所は、両締約国の間の合意で決定する。
6 委員会は、その第一回会議において、議長及び副議長を異なる国別委員部から選定する。議長及び副議長は、一年の任期をもつて選定される。国別委員部からの議長及び副議長の選定は、各年において各締約国がそれらの地位に順番に代表されるように行うものとする。
7 委員会の公用語は、日本語及びロシア語とする。
8 委員が委員会に出席するために生ずる経費は、その任命する政府が支払うものとする。委員会の共同の経費は、委員会が勧告しかつ両締約国が承認する形式及び割合において両締約国が負担する分担金により、委員会が支払うものとする。
第四条
委員会は、次の任務を遂行する。
(イ)定例年次会議において、その時に実施されている協同措置が適当であるかどうかを検討するものとし、必要に応じ、この条約の附属書を修正することができる。この修正は、科学的基礎に基いて決定されなければならない。
(ロ)附属書において年間総漁獲量の決定を要する魚類がある場合は、当該魚類について両締約国の年間総漁獲量を決定し、これを両締約国に通知する。
(ハ)この条約の実施のために委員会に各締約国が提出する統計その他の資料の種類及び範囲を決定する。
(ニ)漁業資源の研究を目的とする科学的な協同調査計画を作成し、及び調整し、これを両締約国に対して勧告する。
(ホ)毎年委員会の事業報告を両締約国に提出する。
(ヘ)前各号に掲げる任務のほか、条約区域における漁業資源の保存及び増大の問題について両締約国に勧告を行うことができる。
第五条
両締約国は、漁業資源の研究及び保存並びに漁業の規制についての経験を相互に交換するため、漁業に関する学識経験者の交換を行うことに同意する。これらの人々の交換は、そのつど双方の合意によつて行われるものとする。
第六条
1 両締約国は、この条約を実施するため、適当かつ有効な措置を執るものとする。
2 両締約国は、第四条(ロ)に基き委員会から各締約国について定められた年間総漁獲量について通知を受けた場合にはそれに基き漁船に対し許可証又は証明書を発給し、かつ、発給されたすべての許可証及び証明書について相互に通報し合うものとする。
3 両締約国が発給する許可証及び証明書は、日本語及びロシア語をもつて記載し、かつ、漁船は、操業の際に必ずこれを備え置くものとする。
4 両締約国は、この条約の規定を実効的にするため、その国民、団体及び漁船について、違反に対する適当な罰則を伴う必要な法令を制定施行し、かつ、このことに関し自国が執つた措置の報告を委員会に提出することに同意する。
第七条
1 いずれか一方の締約国の権限を有する公務員が、他方の締約国の漁船が現にこの条約の規定に違反していると信ずるに足りる相当の理由があるときは、その公務員は、その漁船がこの条約の規定を遵守しているかどうかを認定する目的をもつてその漁船に臨み捜索することができる。
前記の公務員は、船長の要求があつたときは、その公務員の所属する締約国の政府が発行し、かつ、日本語及びロシア語をもつて記載した身分証明書を提示しなければならない。
2 前記の公務員が当該漁船の捜査を行つた結果、漁船又はその船上にある人がこの条約の規定に違反していることを証する事実が判明するときは、その公務員は、その漁船をだ捕し、又はその人を逮捕することができる。
この場合において、当該公務員の所属する締約国は、できる限りすみやかに、前記の漁船又は人の所属する他方の締約国にそのだ捕又は逮捕を通告し、かつ、できる限りすみやかに、両締約国が別の場所について合意しない限りその場所でその漁船又は人をその所属する締約国の権限を有する公務員に引き渡さなければならない。但し、前記の通告を受領した締約国が直ちにその引渡しを受けることができずかつ他方の締約国に要請をしたときは、その要請を受けた締約国は、前記の漁船又は人を両締約国が相互に合意する条件により自国の領域内で監視の下に置くことができる。
3 前記の漁船又は人の所属する締約国の当局のみが本条に関連して生ずる事件を裁判し、かつ、これに対する刑を科する管轄権を有する。違反を証明する調書及び証拠は、違反を裁判する裁判管轄権を有する締約国にできる限りすみやかに提供されなければならない。
第八条
1 この条約は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約の効力発生の日又は外交関係の回復の日に効力を生ずる。
2 いずれの一方の締約国も、この条約の効力発生の日から十年の期間を経過した後はいつでも、他方の締約国に対してこの条約を廃棄する意思を通告することができる。その通告があつたときは、この条約は、他方の締約国が廃棄通告を受領した日の後一年で終了するものとする。
以上の証拠として、下名の代表者は、この条約に署名した。
千九百五十六年五月十四日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国政府の委任により
政府の承認を条件として
河野一郎
松平康東
ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の委任により
A・イシコフ