データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ソ交渉第4回会議における重光葵全権陳述

[場所] 
[年月日] 1956年8月8日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),777頁.外務省情報文化局「外務省発表集」第4号,42−48頁.
[備考] 
[全文]

(一)前回の会議において貴大臣が協力の精神を強調せられたことは私の多とするところであります。その故に私は、ソ連邦首脳部の述べられた「ソ連邦は如何なる物質的利益をも追及するものではない」と云う言明を今回の交渉においても事実の上に示されんことを要望したのであります。我々は相互的理解の上に立つて交渉の妥結をみることが必要であると信じ、このために協力の精神を発揮するに何んら異存はないのであります。

(二)領土問題に関する貴大臣の主張の主な根拠は日本の受諾したポツダム宣言はヤルタ協定に基いて作られたものであり、然してヤルタ協定は明らかに南樺太及びクナシリ、エトロフ両島を含む千島列島をソ連邦の領土として認めることを規定しているという点に存する様であります。今日、日ソ両国間に平和を回復せんとするに当つて日本と何ら関係のないヤルタ協定を日本に押しつけることは不当であります。日本がポツダム宣言を受諾したときには、ヤルタ協定の内容はもとよりその存在すら知らされていなかつたことは周知の通りであります。またわが国はヤルタ協定がポツダム宣言の基礎をなすものではないという事実についてヤルタ協定のソ連以外の全部の当事国たる米英両国について照会し、これを確めております。

 日本の立場は以上の論拠に立つておるのであります。

(三)前回貴大臣は戦時中において戦勝の大国が定めたことには日本はこれに参加しているといないとに拘わらず、戦敗国として服従しなければならぬという趣旨の説明をされました。又昨日のソ連邦新聞もこの点を繰り返し論述しております。若しその通りであるとすれば戦敗国たる日本の発言は始めから無益であるといわなければなりません。戦勝大国の決定なるが故に日本は好むと好まざるとにかかわりなく、その固有の領土をも放棄しなければならないというソ連側の趣旨は到底日本国民を納得せしめざるところであります。