[文書名] 日ソ平和条約案(日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約(案))
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に、国際連合憲章の諸原則に適合して、平和及び善隣友好の関係を回復することを希望し、
両国間の戦争状態の存在の結果として生じた諸問題の解決の必要を認め、
平和条約を締結することに決定し、このためその全権委員として次のとおり任命した。
日本国政府
ソヴィエト社会主義共和国連邦最高会議幹部会
これらの全権委員は、互にその全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。
第一条
日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の戦争状態は、この条約が効力を生ずる日に終了する。
第二条
1 両締約国は、相互の関係において、国際連合憲章の諸原則、なかんずく同憲章第二条に掲げる次の原則を指針とすべきことを確認する。
(a)その国際紛争を、平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決すること。
(b)その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むこと。
2 両締約国は、それぞれ他の締約国が国際連合憲章第五十一条に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有することを確認する。
第三条
両締約国は、経済的、政治的又は思想的のいかなる理由であるとを問わず、直接間接に他の締約国の国内事項に干渉しないことを相互に約束する。
第四条(日本案)
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すものとする。
第四条(ソ連案)
1 ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望に答え、かつ日本国の利益を考慮して、小千島列島(歯舞諸島及び色丹島)を日本国に引き渡すものとする。
本条に掲げる諸島嶼の引き渡し方法は、この条約に付属する議定書により定めるものとする。
2 ソヴィエト社会主義共和国連邦と日本国との国境は、付属地図に示すとおり、クナシルスキー海峡(根室海峡)及びイズメーナ海峡(野付海峡)の中央線とする。
第 条(海峡)
1 締約国は、相互に、宗谷海峡、根室海峡、野付海峡及び珸瑶瑁海峡における自由航行を阻害することあるべき措置を執らざることを約束する。
日本国は、さらに津軽海峡及び対馬海峡における自由航行を阻害することあるべきいかなる措置をも執らざることを約束する。
右に挙げられたすべての海峡は、常にすべての国の商船の航行のために開放される。
2 本条1にかかげられた諸海峡は、日本海に臨む諸国に属する軍艦の航行にのみ開放されるべきものとする。
第五条
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国に対する一切の賠償請求権並びに一九四五年八月九日以来戦争の期間中日本国、その団体及び国民が執つた行動の結果として生じたソヴィエト社会主義共和国連邦、その団体及び国民の日本国、その団体及び国民に対するすべての請求権を放棄する。
第六条
日本国は、戦争から生じ、又は極東における戦争状態の存在のため執られた行動と関連するソヴィエト社会主義共和国連邦、その団体及び国民に対するすべての請求権をその性質のいかんを問わず、日本国政府、日本国の団体及び国民の名において放棄する。
第七条(日本案)
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の国際連合への加盟の申請を無条件に支持するものとする。
第七条(ソ連案)
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、国際連合加入に関する日本国の要請を支持するものとする。
第八条
一、両締約国は、その貿易、海運その他の通商の関係を安定したかつ友好的な基礎の上に置くために、条約又は協定を締結するための交渉を開始することに同意する。
二、該当する条約又は協定が締結されるまで、各締約国は、他方の締約国に対し、この条約の不可分の一部をなす議定書に掲げる最恵国待遇を与えるものとする。
第九条
両締約国は、魚類その他の海洋生物資源の保存及び合理的利用に関して日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦が有する利害関係を考慮し、漁業資源の保存及び発展並びに公海における漁撈の規制及び制限のため、協力の精神をもつて措置を執るものとする。
第十条
両締約国は、この条約の効力発生後一年以内に、戦前の両国間の条約のうちいずれが引き続いて有効であるかを合意により確認するものとする。こうして確認されないすべての条約は、廃棄されたものとみなされる。
第十一条
一、この協約の解釈又は適用から生ずる紛争は、まず交渉により解決するものとする。
二、紛争が交渉の開始の時から六カ月の期間内に解決に至らないときは、両締約国により合意された仲裁の決定に付託されるものとする。
第十二条
この条約は、批准されなければならない。この条約は、批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書の交換は、できる限りすみやかに で行なわれなければならない。
以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名調印した。
一九五 年 月 日に で、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。
日本国政府の委任により
ソヴィエト社会主義共和国連邦最高会議幹部会の委任により