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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ソ交渉に関する米国務省覚書

[場所] 
[年月日] 1956年9月7日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),781頁.外務省情報文化局「外務省発表集」第4号,9−10頁.
[備考] 
[全文]

    覚書

 最近のロンドンにおけるダレス国務長官との会談に際し重光外務大臣からなされた要請に応じて、国務省は、今回の日ソ平和条約交渉中に提起された諸問題につき、特にサン・フランシスコ平和条約の署名国としての米国の利害関係に照らして、検討を行つた。国務省は、この検討に基いて、次のとおり意見を開陳するものである。

 米国政府は、日ソ間の戦争状態は正式に終了せしめられるべきものであると信ずる。

 元来この戦争状態は、ソ連邦がサン・フランシスコ平和条約の署名を拒否した一九五一年当時から、つとに終了せしめられていなければならなかつたものである。日本はまた、日本が加盟の資格を完全に有する国際連合に、久しい以前から加盟することを認められていなければならなかつた。さらにまた、ソ連邦の手中にある日本人捕虜は、降伏条項に従つて、久しい以前に送還されていなければならなかつたのである。

 領土問題に関しては、さきに日本政府に通報したとおり、米国は、いわゆるヤルタ協定なるものは単にその当事国の当時の首脳者が共通の目標を陳述した文書にすぎないものと認め、その当事国によるなんらの最終的決定をなすものでもなく、また領土移転のいかなる法律的効果を持つものでもないと認めるものである。サン・フランシスコ平和条約−この条約はソ連邦が署名を拒否したから同国に対してはなんらの権利を付与するものではないが−は、日本によつて放棄された領土の主権の帰還を決定しておらず、この問題は、サン・フランシスコ会議で米国代表が述べたとおり、同条約とは別個の国際的解決手段に付せられるべきものとして残されている。いずれにしても日本は、同条約で放棄した領土に対する主権を他に引き渡す権利を持つてはいないのである。このような性質のいかなる行為がなされたとしても、それは、米国の見解によれば、サン・フランシスコ条約の署名国を拘束しうるものではなく、また同条約署名国は、かかる行為に対しては、おそらく同条約によつて与えられた一切の権利を留保するものと推測される。

 米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、択捉、国後両島は、(北海道の一部たる歯舞諸島及び色丹島とともに)、常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ、正当に日本国の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に到達した。米国は、このことにソ連邦が同意するならば、それは極東における緊張の緩和に積極的に寄与することになるであろうと考えるものである。

一九五六年九月七日 ワシントン

国務省