[文書名] 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言,参考書簡
書簡をもって啓上いたします。
日ソ両国間に恒久的の友好関係を樹立するため、すみやかに両国間の国交正常化を図ることは、本大臣のかねて抱懐する念願であること、閣下の承知せられるとおりであります。
本大臣は、今日に至るまでの両国間の交渉経緯にかんがみ、この際領土問題に関する交渉は後日継続して行うことを条件とし、まず、(一)両国間の戦争状態終了、(二)大使館の相互設置、(三)抑留者の即時送還、(四)漁業条約の発効及び(五)日本国の国際連合加盟に対するソ連邦の支持の5点について、あらかじめソ連邦の同意を表明せられるにおいては、両国間の国交正常化を実現するため交渉に入る用意がある旨を通報いたします。
前記の五条件については、在東京貴国漁業代表部主席チフヴィンスキー氏より河野農林大臣及び高碕国務大臣との数回にわたる非公式会談において、ソ連邦政府としては同意である旨の意思表示が行われました。
本大臣は、前記非公式会談においてチフヴィンスキー氏の表明したとおり、ソ連邦政府が前記の五条件を受諾する用意がある旨の閣下の文書による確認を入手しうれば幸甚とするものであります。閣下による右の確認を接受する場合は、日本国政府はすみやかにモスコーにおいて交渉を再開する用意があります。なお右の交渉においては、後来のロンドン及びモスコーにおける交渉当事者間の妥結事項もできうる限り採択せられるべきことを希望するものであります。
本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向つて敬意を表します。
昭和三十一年九月十一日
日本国総理大臣 鳩山一郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦閣僚会議議長
エヌ・ア・ブルガーニン閣下
(仮訳)
書簡をもつて啓上いたします。
本議長は、貴総理大臣が日ソ交渉を直ちにモスクワにおいて再開すべき日本国政府の用意を表明せられ、かつ、両国間の関係の正常化に関するソヴィエト連邦政府の同意の確認を要請された千九百五十六年九月十一日付の貴簡を受領したことを通報する光栄を有します。
ソヴィエト政府は、両国が相互にあらかじめ討議してきた次の事項から生ずる貴簡に述べられた考慮に即応して、この際平和条約を締結することなく、日ソ関係の正常化に関する交渉をモスクワにおいて再開する同政府の用意を確認するものであります。
1 ソヴィエト社会主義共和国連邦と日本国との間の戦争状態の終結の宣明
2 外交関係の回復及び大使館の相互設置
3 ソヴィエト社会主義共和国連邦において刑を宣告されたすべての日本国民の釈放及び送還
4 千九百五十六年五月十四日に署名された漁業条約の効力発生
5 国際連合加盟に関する日本国の要請の支持
なお、本議長は、ロンドン及びモスクワにおける交渉の過程において合意に到達した諸点に関する貴要望に関しては、双方がこれらの諸点に関し意見を交渉することができるものと考えるのであります。
本議長は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向つて敬意を表します。
千九百五十六年九月十三日モスクワにおいて
ソヴィエト社会主義共和国連邦閣僚会議議長
ニコライ・ブルガーニン
日本国総理大臣 鳩山一郎閣下
書簡をもつて啓上いたします。
本全権は、千九百五十六年九月十一日付鳩山総理大臣の書簡とこれに対する同年九月十三日付ブルガーニン議長の返簡に言及し、次のとおり申し述べる光栄を有します。
前記鳩山総理大臣の書簡に明らかにせられたとおり、日本国政府は、現在は、平和条約を締結することなく、日ソ関係の正常化に関し、モスクワにて交渉に入る用意がある次第でありますが、この交渉の結果外交関係が再開せられた後といえども、日本国政府は、日ソ両国の関係が、領土問題をも含む正式の平和条約の基礎の下に、より確固たるものに発展することがきわめて望ましいものであると考える次第であります。
これに関連して、日本国政府は、領土問題を含む平和条約締結に関する交渉は両国間の正常な外交関係の再開後に継続せられるものと了解するものであります。
鳩山総理大臣の書簡により交渉に入るに当り、この点についてソ連邦政府においても同様の意図を有せられることをあらかじめ確認しうれば幸甚に存ずる次第であります。
本全権は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向かつて敬意を表します。
千九百五十六年九月二十九日
日本国政府全権委員 松本俊一
ソヴィエト社会主義共和国連邦第一外務次官
ア・ア・グロムイコ閣下
(仮訳)
書簡をもつて啓上いたします。
本次官は、千九百五十六年九月二十九日付の閣下の次のとおりの書簡を受領したことを確認する光栄を有します。
〔日本側書簡〕
これに関連して本次官は、ソヴィエト社会主義共和国連邦政府の委任により、次のとおり申し述べる光栄を有します。すなわち、ソヴィエト政府は、前記の日本国政府の見解を了承し、両国間の正常な外交関係が再開された後、領土問題をも含む平和条約締結に関する交渉を継続することに同意することを言明します。
本次官は、以上を申し進めるに際し、閣下に向つて敬意を表します。
千九百五十六年九月二十九日モスクワにおいて
ソヴィエト社会主義共和国連邦第一外務次官 ア・グロムイコ
日本国政府全権委員
松本俊一閣下