[文書名] 北西太平洋日ソ漁業委員会第二回会議の議事録
北西太平洋日ソ漁業委員会第二回会議は、千九百五十八年一月十三日から四月二十一日までモスクワで開催された。
日本国側からは、
衆議院議員 平塚常次郎(二月六日に委員を辞任した。)
在ソヴィエト連邦日本国大使館公使 都村新次郎(二月六日に委員に任命された。)
水産庁生産部長 坂村吉正
大日本水産会副会長 藤田巌
ソヴィエト連邦側からは、
全連邦海洋漁業海洋学研究所長代理
生物学博士、教授 ペ・ア・モイセーエフ
太平洋海洋漁業海洋学研究所長
生物学博士候補 カ・イ・パーニン
ソヴィエト連邦外務省参事官 ゲ・イ・パヴルィチェフ
が、それぞれの国別委員部の委員として参加した。
委員会は、次の決定及び勧告を採択した。
I 次回会議の日時及び場所
委員会は、その第三回会議を千九百五十九年一月十二日から東京で開催することを決定する。
II 定例年度の委員会の議長及び副議長の選定
委員会の議長にはペ・ア・モイセーエフが、副議長には藤田巌がそれぞれ選定された。
III 統計その他の資料
委員会は、条約第四条(ハ)に基き、次のとおり決定する。
両締約国は、委員会の定例会議において統計その他の資料を千九百五十八年度以降委員会第一回会議の議事録別添二及三並びに様式第四、第五の一、第五の二、第六及び第七(別添一)に従い委員会に提出するものとする。
IV 科学的調査研究の調整
両締約約国{ママ}が関心を有する北西太平洋の漁業の最大の持続的生産性を維持することを目的とする科学的調整研究を推進し、及び調整するため、委員会は、条約第四条(ニ)及び(ヘ)並びに第五条に関し、次のとおり勧告する。
1 両締約国は、千九百五十八年において別添二の計画に示された科学的協同調査を実施するものとする。
2 両締約国は、さけ・ますの損傷を少くする目的をもつて流網の糸の太さを太くする可能性を究明するため、千九百五十八年に専門的調査を実施し、その結果を委員会の次回の定例会議において審議のため提出するものとする。
3 両締約国は、千九百五十八年において、さけ・ますの魚種別規制の問題について、漁業上及び科学上の調査研究を行い、その結果を委員会の次回の定例会議において審議のため提出するものとする。
4 両締約国は、千九百五十八年において、べにざけの若年魚の混獲許容制限の設定の問題について、漁業上及び科学上の調査研究を行い、その結果を委員会の次回の定例会議において審議のため提出するものとする。
5 両締約国は、釣漁具によるさけ・ますの損傷の程度及びこれを少くする可能性をさらに究明するため、委員会が合意した計画(別添三)に基き、千九百五十八年において必要な調査研究を行い、その結果を委員会の次回の定例会議において審議のため提出するものとする。
6 両締約国は、漁業資源の研究及び保存並びに漁業の規制についての経験を相互に交換するため、千九百五十八年において漁業に関する学識経験者の交換を行うものとする。
V 条約第六条2の実施
委員会は、条約第六条2の実施に関し、次のとおり勧告する。
両締約国は、条約第六条2に基き漁船に対して発給された許可証又は証明書についての相互の通報をその発給の日から十日以内に行うものとし、かつ、その通報には、各漁船について、船舶の名称及び舷側番号、許可された漁獲量、漁具及び操業区域並びに許可証又は証明書の発給年月日及び名儀人の氏名を掲げるものとする。
VI 条約第七条2第二項の実施
委員会は、条約第七条2第二項の実施に関し、次のとおり勧告する。
両締約国は、条約第七条2第二項の実施に間する技術的問題について、できるだけすみやかに協議するものとする。
VII 条約附属書の修正
委員会は、条約第四条(イ)に基き、
1 条約附属書1(ヘ)の末項の前項の規定を「但し、流網の網と網との間隔に関する前記の規定は、北緯四十八度以南において操業し、かつ、日本国の港を根拠地とする小漁船については適用しない。」と修正し、
2 条約附属書1(ヘ)の末項の規定を「流網の網目については、結節から結節までの長さを五十五ミリメートル以上とする。但し、この長さは、カムチャッカ半島東方及び南方の北西太平洋(ベーリング海を含む。)の区域において操業する母船に属する漁船については、六十ミリメートル以上とする。」と修正し、及び
3 条約附属書2第一項の規定を「長さ二十一センチメートル(ふん端から尾びれの中央軟条の末端まで)未満の未成熟小にしんの漁獲は、行わないものとする。」と修正する。
VIII 条約附属書1(ヘ)の解釈
委員会は次のとおり確認する。
条約附属書1(ヘ)において、流網の長さ及び網と網との間隔についての規定における「網」とは、「網の配列」を意味する。
IX 条約附属書の内容に関する決定
1 委員会は、条約附属書1(ロ)及び委員会第一回会議の議事録VI(1)に関連し、次のとおり決定する。
(1) 千九百五十八年においては、オホーツク海の公海におけるさけ・ますの漁獲量は、六千五百メトリックトンとし、一隻をこえない母船に属する漁船によつて操業されるものとする。
(2) オホーツク海の公海においては、さけ・ますを自然産卵場へ向う途上において漁獲することは、この貴重な魚種の資源の保存及び増大のため適当な条件を作るものでないことを考慮して、オホーツク海の公海におけるさけ・ますの漁業を千九百五十九年一月一日以降停止するものとする。
(3) 千九百五十八年においては、規制区域における移動漁具による海上漁業の禁止区域は次のとおりとする。
(イ) 北緯四十八度以北の北西太平洋(オホーツク海を除く。)においては、次の各点を順次直線により結んだ線をもつて東及び南より区画される区域
オリュートル岬より南二十海里の点
ゴーヴェン岬より南東二十海里の点
オゼルノイ岬より東二十海里の点
アフリカ岬より東二十海里の点
クロノツキー岬より南東二十海里の点
シプンスキー岬より南東二十海里の点
ウタシュート島より南東二十海里の点
ロパトカ岬より南東四十海量の点
ロパトカ岬より南東四十海里の点及びシャシコタン島北東端より南東四十海里の点を通過する直線と北緯四十八度線との交点
(ロ) コマンドルスキー群島の周辺水域においては、海岸線から起算して四十海里の区域
(ハ) オホーツク海(北緯四十八度以南東経百四十五度以東の水域を除く。)においては、島しよ及び大陸沿岸の海岸線から起算して四十海里の区域
(ニ) 北緯四十八度以南東経百四十五度以東の規制区域においては、島しよの海岸線から起算して二十海里の区域
前記の禁止区域のうち北海道に近接する区域においては、前記の移動漁具による海上漁業の禁止の規定は、日本の小漁船には適用しない。
2 委員会は、実施のため日本国代表団及びソヴィエト連邦代表団の間にできた次の合意を採択する。
条約附属書1(イ)の規定する規制区域内のさけ・ます年間総漁獲量は、委員会が不漁年とみなしている千九百五十八年についてのみ、十一万メトリックトンとする。
3 委員会は、委員会第一回会議の議事録VIの(III)に規定されたべにざけ資源の保護措置に関連して、次のとおり決定する。
べにざけ資源の保護のため、北緯五十二度以北東経百七十度二十五分以西のカムチャッカ半島東方海域におけるさけ・ます漁業を千九百五十八年において七月二十日以降停止するものとする。
千九百五十九年度以降は、前記の区域におけるさけ・ます漁業の停止については、委員会において再検討するものとする。
4 委員会は、条約附属書3に関連し、次のとおり決定する。
千九百五十八年及び千九百五十九年においては、カムチャッカ半島西海岸に近接する北緯五十一度以北北緯五十三度以南の区域において、かにの商業的漁獲を行わないものとする。
その後の措置については、前記の区域における両締約国の科学的協同調査の結果に基き、千九百六十年における委員会の定例会議において検討するものとする。
X その他の事項
1 委員会は、科学技術小委員会の報告(委二科技第二十八号、第三十二号及び第四十九号)を確認した。
2 委員会は、さけ・ます漁業の規制措置の問題の審議に際し、日本国側及びソヴィエト連邦側の声明(委二第六十一号及び第六十二号)を聴取した。
3 委員会は、かに漁業の規制措置の問題の審議に際し、日本国側及びソヴィエト連邦側の声明(委二第五十六号及び第五十七号)を聴取した。
以上の証拠として、委員会の両国国別委員部の委員は、この議事録に署名した。
千九百五十八年四月二十一日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により、本書二通を作成した。
日本国国別委員部のために
藤田巌
坂村吉正
都村新次郎
ソヴィエト社会主義共和国連邦国別委員部のために
ペ・モイセーフ
カ・パーニン
ゲ・パヴルィチェフ
(別添一) {表は省略}
(別添二)
千九百五十八年度科学的協同調査計画
一、さけ・ます
日本国側
さけ・ますの生活、ポピュレーション構造、数量変動及び魚群行動を明らかにする。
1 母船調査
ポピュレーション構造の生物測定学的研究及び漁獲量分析によるポピュレーションの数量の減少過程の研究を主とする。
方法 漁船の漁獲物について、罹網状況、年令組成、体長、体重組成、肥満度及び生殖素を調査する。
2 科学調査船調査
生活領域(若年魚及び成魚の分布と回ゆう)、生長、食性及び各発育段階の自然減耗を明らかにする。
科学調査船 百五十トン級五隻
調査区域 北緯四十五度以北西経百六十五度以西の太平洋及びベーリング海
調査期間 四月から八月まで
3 一般的海洋観測及び漁場環境特性の調査
生活領域の物理及び生物環境を調査する。
科学調査船 六百トン級一隻及び二百五十トン級二隻
調査区域及び期間 2と同じ
ソヴィエト連邦側
北西太平洋さけ・ますの生活及び漁業の研究を目的として、千九百五十八年五月から八月までの期間次の事業を行う。
1 試験的漁獲により、さけ・ます(しろざけ、ます、べにざけ、ぎんざけ及びますのすけ)の成熟魚及び未成熟魚の分布、回ゆう及び生態を解明する。漁獲物の生物統計学的分析(体長、体重、性別及び年令)のための資料、これらの魚類の食性を明らかにするための資料及び生殖素の成熟度を判定するための資料を収集する。
2 さけ・ますの各魚種の標識放流を行い、さけ・ますの個々の群及び年令別グループのせい息場所の判定のための生物学的資料を収集する。
3 カムチャッカ及び千島列島の東方及び南方海域における海況を調査する。一般に海洋観測が行われている水深において、海水の温度、塩分、透明度、その他の環境条件並びにプランクトンの組成及び分布を研究する。
科学的調査計画を実施する前記の期間中、漁業及び科学上の適当な装備のあるそれぞれ約三百五十排水トンの科学調査船二隻を使用する。この調査船には、必要な分野の専門家のグループが乗船する。
二、かに
日本国側
たらばかにの生活、ポピュレーション構造、数量変動及び群の行動を明らかにする。
1 母船調査
ホピュレーション構造の生物測定学的研究及び漁獲量分析によるポピュレーション数量の減少過程の研究を主とする。
方法 漁船の漁獲物について、罹網状況(おす、めす、若年及び脱皮がに)並びに甲長、甲巾及び体重の組成を調査する。
2 科学調査船調査
回ゆう、幼生及び小がにの生活領域、成体がにの生活領域(特に食性との関係)並びに脱皮に関する研究を主とする。
科学調査船 百五十トン級一隻
調査区域 カムチャツカ西沿岸
調査期間 四月から九月まで
調査漁具及び器具 各種目合の刺網、底曳網、ドレッジ及び採泥器
かにの標識放流 標識放流は、一万尾以上を予定する。その再捕かにの資料に基いて資源状況の調査を行う。なお、年令と成長との関係に関する資料を求める。
ソヴィエト連邦側
千九百五十八年において、カムチャツカ西沿岸におけるたらばがにの生活、分布及び回ゆうに関する調査を行う。商業的漁獲物並びに科学調査及び探索船のかにの試験的漁獲物に関する生物統計学分析(甲長、甲巾、体重及び性別組成)を行う。
たらばがにの回ゆう経路及び速度の解明のため、五千尾以上の成体がに及び小がにの標識放流を行う。
めすがにの抱卵率、幼生ふ化の期間及び条件並びに幼生及び小がにの生活及び分布を研究する。
かにの食性に関する資料を収集する。
調査は、科学調査船一隻及び数隻の漁船により、千九百五十八年四月から十月までの間に、トロール網、建網及び他の適当な科学的装備によつて行う。
三、にしん
日本国側
にしんの生活、ポピュレーション構造、数量変動及び魚群行動を明らかにする。
1 北海道沿岸の漁獲物組成調査
ポピュレーション構造の生物測定学的研究並びに漁獲量分析によるポピュレーション数量の減少過程及び種族に関する研究を主とする。
2 科学調査船調査
分布、回ゆう、生長、食性及び沖合漁場の環境特性に関する研究を主とする。
科学調査船 調査区域 調査期間
五十トン級二隻 オホーツク海及び日本海 三月から五月まで
二百トン級一隻 オホーツク海 七月から九月まで
七十トン級五隻 オホーツク海 七月から九月まで
ソヴィエト連邦側
1 にしん成熟魚の標識放流を行う。
2 産卵場所における放卵状況を研究し、産卵に向うにしん親漁数を判定する。この作業は、樺太沿岸における潜水調査により行う。この作業実施のため船舶二隻及び潜水施設二を当てる。
3 稚魚期のにしん及び当該年級群の豊凶を規定する自然的要因の総合的研究を行う。
4 指定漁区及び指定漁船における生物統計学的資料(年令、体長、体重、抱卵率など)を収集する。このため、科学調査船一隻及び科学調査装備のある探索船五ないし六隻を当てる。
5 樺太・北海道にしん群の数量の回復について判断の基準となる次の事項の観察を行う。
(イ) 主要産卵区域における産卵場所の面積
(ロ) 年令別平均抱卵数
(ハ) 若年にしん(一ないし四年魚)の数量
(ニ) 年令別平均体長
(ホ) 年令別平均体重
(へ) 漁獲にしんの年令組成
(別添三)
釣漁具によるさけ・ますの損傷に関する千九百五十八年度協同調査計画
両締約国は、千九百五十八年において、釣漁具によるさけ・ますの損傷の程度及びこれを少くする可能性をさらに究明するため、次の協同調査を行うものとする。
日本国側
1 研究担当機関 水産庁北海道区水産研究所
2 期間 千九百五十八年五月上旬から七月下旬まで
3 場所 釧路から花咲に至る北海道の太平洋側沖合
4 方法
(イ) さけ・ますはえなわ漁業によつて魚体に損傷が生ずるのは、釣針の離脱、枝糸の切断及び釣針が魚体に喰いこむことによることが多いので、はえなわ漁具について、最も簡単な方法により、釣針の離脱及び枝糸の切断を防止する研究を行うとともに、科学調査船(百五十トン級一隻)を使用して試験漁具による試験的漁獲を実施する。
(ロ) 釣針による損傷を受けたさけ・ますの数の記録を作成する。
ソヴィエト連邦側
1 千九百五十八年において、日本の漁船の釣漁具による損傷を受けたさけ・ますの漁業企業による捕獲魚について詳細な研究を行う。
2 千九百五十八年において、科学調査船一隻により、カムチャツカ半島東南方の水域において釣漁具によるさけ・ますの試験的漁獲を行う措置を執る。