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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 核兵器実験停止問題に関するフルシチョフ・ソ連首相あて書簡

[場所] 
[年月日] 1962年4月10日
[出典] 外交青書7号,19−20頁.
[備考] 
[全文]

 私は四月六日フェドレンコ大使を通じ、閣下の書簡を受領しました。

 私は三月十日付書簡をもって、核兵器実験停止協定の成否は閣下の決断にかかっていることを指摘し、同協定をすみやかに締結するために最善の努力を払われることを要請しました。私はその後も重大な関心をもってジュネーヴの軍縮委員会の成行きを注視してまいりましたが、核兵器実験停止協定締結のための交渉は国際管理の問題で全く行き詰っているように見受けられます。

 閣下は、今回の書簡において、同協定の締結を阻んでいるのはソ連邦ではなく、国際管理制度を主張している米英側であると述べ、かつ、この国際管理制度にソ連邦が反対する理由として、各国の探知技術の発達がこれを不要ならしめたということと、国際管理とは国際スパイを意味するものに他ならないということを挙げておられます。

 私は、遺憾ながら、各国の探知技術の発達が、国際管理制度を不要ならしめるにいたったとの閣下の所論には同意しかねます。あらゆる種類の地下震動を洩れなく探知できる技術が完成されたとしても、地下核爆発によるものか、あるいは、地震によるものかを識別し、更にこれを検証することができなければ決して十分ではありません。仮に、ある国の領域内で地下震動があり、周辺の諸国がこれを地下核爆発によるものと主張し、それに対し、当該国が地震であって核爆発でないと主張した場合を想像して下さい。かくては各国民の間の不信感、不安感は一層増すばかりでありましよう。

 現在行なわれている軍縮委員会において、単に米英両国だけでなく、東西両陣営のいずれにも属さない諸国も、なんらかの形の国際管理の必要性を認めているのは理由のないことではありません。すなわち、国際管理制度は、いわば、平和を希求する世界の与論となっているといっても過言ではなく、私がさきの書簡において、閣下のこの問題に対する決断を要望したのは、かかる世界の与論を考慮に入れたものでありました。

 また閣下は、国際管理とは国際スパイを意味すると主張されておりますが、私といたしましては、この主張には到底納得できないのみならず、国際管理は元来各国平等に実施されるものでありますから、特に貴国が一方的に不利を蒙るというがごときことも考えられません。平和共存を唱え、国際緊張緩和の必要を説かれる閣下としては、あらゆる形の国際管理を直ちに国際スパイとして拒否されることなく、むしろ進んで国際管理の原則を認めて、諸国民間の不信感、不安感の一掃に努められるべきではないかと思います。

 私は、ソ連邦政府が、国際管理制度を原則的に承認するとの従前の立場にかえり、有効にして公正な国際管理制度を発見するための具体的検討に進むことに同意せられることを要望してやみません。

 全面完全軍縮が世界平和のために望ましいことは今更申すまでもありませんが、しかしその実現になお若干の時日を要するとすればともかくもこの際国際管理を伴う核兵器実験停止協定が一日もすみやかに締結されることこそ、核爆発の唯一の被災者たるわが国民が切に願ってやまないところであり、ここに重ねて閣下のえい知と決断とを期待する次第であります。