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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ソ航空協定(航空業務に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定)

[場所] モスクワ
[年月日] 1961年1月2l日
[出典] 日本外交主要文書・年表(2),632−637頁.外務省条約局「条約集」,昭和42年(二国間),369−392頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦政府は、

 それぞれの領域の間の及びその領域をこえての航空業務を開設するために協定を締結することを希望して、

 次のとおり協定した。

第一条

1 この協定の適用上、文脈により別に解釈される場合を除くほか、

(a) 「航空当局」とは、日本国にあつては運輪大臣及び同大臣が遂行している民間航空に関する任務又はこれに類似する任務を遂行する権限を有する人又は機関をいい、ソヴィエト社会主義共和国連邦にあつては民間航空大臣及び同大臣が遂行している民間航空に関する任務又はこれに類似する任務を遂行する権限を有する人又は機関をいう。

(b) 「指定航空企業」とは、締約国により、この協定の附属書Iに掲げる路線(以下「特定路線」という。)における国際航空業務の運営のために指定された航空企業をいう。

(c) 「航空業務」とは、旅客、貨物及び郵便物の公衆用の運送のために航空機で行なう定期航空業務をいう。

(d) 「国際航空業務」とは、二以上の国の領域上の空間にわたつて行なう航空業務をいう。

(e) 「運輪以外の目的での着陸」とは、旅客、貨物又は郵便物の積込み又は積卸し以外の目的で着陸することをいう。

(f) 「附属書I」及び「附属書II」とは、この協定の附属書I及び附属書II又は第十八条2の規定に従つて改正される同附属書I及び同附属書IIをいう。

2 附属書は、この協定の不可分の一部をなすものとし、「協定」というときは、別段の定めがある場合を除くほか、附属書I及び附属書IIを含むものとする。

第二条

l 各締約国は、他方の締約国に対し、特定路線における国際航空業務(以下「協定業務」という。)の運営のため、この協定で定める権利を許与する。

2 各締約国の指定航空企業は、この協定の規定に従うことを条件として、協定業務を運営する間、次の特権を享有する。

(a)他方の締約国が指定するその領域内の空港に運輸以外の目的で着陸する特権

(b)国際運輸の対象たる旅客、貨物及び郵便物の積卸し及び積込みのため、当該特定路線について附属書Iで定める他方の締約国の領域内の地点に着陸する特権

第三条

1 いずれの特定路線における国際航空業務も、一方の締約国が当該路線について航空企業を指定し、かつ、その航空企業が他方の締約国により適当な運営許可を与えられた後、即時又は後日開始することができる。この運営許可は、遅滞なく与えられなければならない。

2 運航に関連する技術的及び商業的な事項、特に時間表、決済手続及び地上における航空機のための技術的業務は、指定航空企業間の商業上の取極によつて定められるものとする。この商業上の取極は、必要な場合には、両締約国の権限のある当局によつて承認されなければならない。

3 一方の締約国の航空当局は、lに規定する運営許可を与えるにあたり、他方の締約国の指定航空企業が、当該航空当局により国際航空業務の運営に通常かつ合理的に適用される法令で定める要件を満たすものである旨を立証することを、その指定航空企業に要求することができる。

4 各締約国は、他方の締約国の指定航空企業の航空機が自国の領域内において航行すべき航空路を決定する。

5 いずれか一方の締約国は、このようにして決定された航空路に満足しないときは、いずれの締約国の指定航空企業による協定業務をも停止する権利を有する。

第四条

 締約国は、協定業務の安全かつ効果的な運営を確保するため、附属書IIに定めるすべての必要な措置を執らなければならない。

第五条

1 一方の締約国の法令であつて、国際航空に従事する航空機の当該締約国の領域への入国若しくはそこからの出国又は当該領域内にある間の当該航空機の運航及び航行に関するものは、他方の締約国の指定航空企業の航空機に適用されるものとする。

2 一方の締約国の法令であつて、航空機の旅客、乗組員、貨物及び郵便物の当該締約国の領域への入国及びそこからの出国に関するもの、特に上陸許可、旅券、税関、通貨及び検疫に関するものは、当該締約国の領域への入国及びそこからの出国の際に、又は当該領域内にある間、他方の締約国の指定航空企業の航空機の旅客、乗組員、貨物及び郵便物に適用されるものとする。

3 2の規定にかかわらず、一方の締約国の指定航空企業の航空機の乗組員が協定業務に従事するにあたり他方の締約国への入国につき査証を必要とする場合には、その査証は、少なくとも六箇月の期間有効とし、両締約国が合意する数についてあらかじめ与えられなければならない。この査証は、その有効期間中、その査証を与えた締約国の領域へのいかなる回数の入国及びそこからのいかなる回数の出国についても有効なものでなければならない。

4 一方の締約国の指定航空企業の航空機の乗組員は、協定業務に従事するにあたり、他方の締約国の領域内に一時的に滞在することができる。その乗組員は、職務上又は病気により必要とされる滞在の場合を除くほか、到着した便又は次の便で出国しなければならない。

5 各締約国は、この条に規定する関係法令の写しを他方の締約国に提供しなければならない。

第六条

l 各締約国は、他方の締約国が指定した航空企業の実質的な所有及び実効的な支配が当該他方の締約国又はその国民(法人を含む。)に属していないと認めた場合には、第二条2に定める特権を当該航空企業に関して一時的に停止し、又は取り消す権利を留保する。

2 各締約国は、他方の締約国の指定航空企業が第二条2に掲げる特権を許与する締約国の第5{前1文字ママとルビ}条1及び2に掲げる法令を遵守しなかつた場合又はこの協定で定める条件に従つて運営しなかつた場合には、当該航空企業による前記の特権の行使を停止する権利又は当該航空企業によるそれらの特権の行使に対し必要と認める条件を課する権利を留保する。ただし、重ねて法令の違反が生ずることを防止するため又は航行の安全上の理由により即時に停止し又は条件を課するやむを得ない必要がある場合を除くほか、この権利は、他方の締約国と事前に協議した後でなければ行使することができない。

第七条

1 各締約国の指定航空企業が協定業務において提供する運航回数、使用する航空機の機種その他の輸送力に関する基本的な事項については、両締約国の航空当局間の合意により決定するものとする。

2 一方の締約国の指定航空企業により特定路線において行なわれる臨時の飛行は、当該指定航空企業が他方の締約国の航空当局に対して提出する許可申請により実施することができる。前記の臨時の飛行を実施する手続は、両締約国の航空当局間の合意により決定されるものとする。

第八条

1 各締約国の指定航空企業は、協定業務から得た収入を、送金の時の公の市場における為替相場により、合衆国ドルでその本店に送金することができる。

2 前記の送金は、いかなる種類の租税をも課されず、また、他のいかなる制限にも服しない。

3 旅行者は、日本国内及びソヴィエト社会主義共和国連邦内の地点の間の並びにそれらの地点をこえての旅行のため、いずれの締約国の指定航空企業の航空機をも利用することができる。この3の規定は、貨物について準用する。

第九条

 いずれか一方の締約国がその管理の下にある空港その他の施設の使用について他方の締約国の指定航空企業に課し、又は課することを許す料金は、公正かつ合理的なものでなければならない。ただし、ソヴィエト社会主義共和国連邦が日本国の指定航空企業に課し、又は課することを許す料金は、日本国がソヴィエト社会主義共和国連邦の指定航空企業に課し、又は課することを許す料金よりも高額のものであつてはならない。

第十条

1 一方の締約国の指定航空企業の航空機による使用のみを目的として他方の締約国の領域内に持ち込まれる燃料、潤滑油、航空機貯蔵品、予備部品及び正規の航空機装備品は、当該領域において通常適用される関税規則に従うことを条件として、関税、検査手数料その他これらに類する課徴金を免除されるものとする。

2 一方の締約国の指定航空企業の航空機は、他方の締約国の領域への入国及びそこからの出国の際に、関税、検査手数料その他これらに類する課徴金を免除されるものとする。

3 一方の締約国の指定航空企業の航空機に積載されている燃料、潤滑油、航空機貯蔵品、予備部品及び正規の航空機装備品は、当該航空機により他方の締約国の領域の上空における飛行中に消費され又は使用される場合にも、当該他方の締約国の領域への入国及びそこからの出国の際に、関税、検査手数料その他これらに類する課徴金を免除されるものとする。

4 一方の締約国の指定航空企業の航空機による使用のみを目的として他方の締約国の領域内で当該航空機に積載される燃料、潤滑油、航空機貯蔵品、予備部品及び正規の航空機装備品は、当該領域における関税規則に従うことを条件として、関税、検査手数料その他これらに類する課徴金を免除されるものとする。

5 l、3及び4の規定に基づいて関税及び課徴金を免除される燃料、潤滑油、航空機貯蔵品、予備部品及び正規の航空機装備品は、他方の締約国の税関当局の許可なしに当該他方の締約国の領域内で取り卸すことはできない。これらの物品は、使用し又は消費することができないときは、再輪出しなければならない。これらの物品は、使用し又は再輪出するまでの間、当該他方の締約国の税関当局の管理下に置くものとする。

第十一条

 特定路線に関する運賃は、指定航空企業間の合意により、国際慣行上合理的と認められるべき水準に定めるものとする。合意された運賃及びその改正は、両締約国の航空当局の認可を受けなければならない。

第十二条

1 協定業務に従事するすべての航空機は、その適正な国籍及ぴ登録の記号を掲げなければならず、かつ、次に掲げる書類を携行しなければならない。

(一)登録証明書

(二)耐空証明書

(三)各乗組員の適当な免状又は証明書

(四)航空機局免許状

(五)旅客を運送するときは、その氏名、乗込地及び目的地の表

(六)貨物を運送するときは、積荷目録及び貨物の細目申請書

2 一方の締約国により発給され又は有効とされている1に掲げるすべての書類は、他方の締約国の領域内において有効なものと認められなければならない。ただし、当該証明書、免状又は免許状が発給され又は有効とされる要件は、国際航空運送において一般に受け入れられている基準より低いものであつてはならない。

第十三条

l 一方の締約国は、他方の締約国の指定航空企業に対し、協定業務の運営を容易にするため、当該航空企業の技術、航行及び営業の要員を自国の領域内に維持する権利を許与しなければならず、また、国内法令に従い、これらの要員による任務の効果的な遂行を確保するために必要な便宜を供与しなければならない。

2 一方の締約国の指定航空企業が他方の締約国の領域内に常駐させる要員の数は、両締約国間の合意により決定する。

3 この条に定める要員及び両締約国の指定航空企業の航空機の乗組員は、締約国の国民でなければならない。

第十四条

 一方の締約国の航空当局は、他方の締約国の航空当局の要請があつたときは、当該航空当局に対し、自国の指定航空企業が協定業務において供給する輪送力の検討のために合理的に必要とされる定期の又はその他の統計表を提供しなければならない。その統計表は、前記の指定航空企業が協定業務において運送する旅客、貨物及び郵便物の総計を知るために必要なすべての情報を含むものでなければならない。

第十五条

 一方の締約国は、その領域内で遭難した他方の締約国の指定航空企業の航空機に対して実行可能と認める救援措置を執り、かつ、当該他方の締約国の航空当局及び指定航空企業に対し、その救援措置の状況をすみやかに通報しなければならず、また、自国の権限のある当局の監督に従うこと及びその国内法令に従うことを条件として、当該他方の締約国の航空当局及び指定航空企業が状況により必要とされる救援措置を執ることを許可しなければならない。

第十六条

1 一方の締約国の指定航空企業の航空機が他方の締約国の領域内において事故を起こし又は不可抗力により着陸した場合には、自国の領域内で事件が生じた締約国の航空当局は、その事件の詳細及び状況をすみやかに他方の締約国の航空当局に通告し、かつ、乗組員及び旅客に必要な援助を与えなければならない。

2 事故又は不可抗力による着陸により、死者若しくは重傷者が生じ、又は航空機に重大な損害が生じた場合には、自国の領域内で事件が生じた締約国の航空当局は、さらに、次の措置を執らなければならない。

(a)証拠を保全し、かつ、当該航空機及びその積載物の安全を確保すること。

(b)他方の締約国の航空当局の権限のある代表者及び事件に係る航空機の属する指定航空企業の権限のある代表者が直ちに当該航空機に近づくことを認めること。

(c)事件の状況の調査を行なうこと。

(d)他方の締約国の航空当局の権限のある代表者及び事件に係る航空機の属する指定航空企業の権限のある代表者に対し、調査に立ち合うことができるよう十分な便宜を与えること。

(e)他方の締約国の要請があつた場合には、当該他方の締約国の航空当局の代表者が検査を行なうまでの間、当該航空機及びその積載物を合理的に実行可能な限りそのままにしておくこと。

(f)当該航空機及びその積載物が調査に必要でなくなつたときは、直ちに解放すること。

(d)他方の締約国の航空当局に対し、調査の報告書を作成した後直ちに、これを送付すること。

第十七条

 この協定の解釈又は適用に関して両締約国間に紛争が生じた場合には、両締約国は、両国の間の交渉によつてその紛争を解決しなければならない。

第十八条

1 いずれの一方の締約国も、この協定の実施に関するすべての事項について緊密な協力を確保し、又はこの協定を改正するため、いつでも、他方の締約国との協議を要請することができる。この協議は、要請を受領した日から六十日の期間内に開始しなければならない。

2 附属書I及び附属書IIの改正は、両締約国の航空当局間の合意により行なうものとし、外交上の公文の交換によつて確認された後に効力を生ずる。

第十九条

 この協定は、いずれか一方の締約国が他方の締約国からこの協定を終了させる意思を有する旨の書面による通告を受領した日から一年を経過する時まで効力を存続する。

第二十条

 この協定は、各締約国により、それぞれの国内法上の手続に従つて承認されなけれぱならない。この協定は、その承認を通知する外交上の公文が交換された時に効力を生ずる。

 以上の証拠として、下名は、各自の政府により正当に委任を受け、この協定に署名した。

 千九百六十六年一月二十一日モスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。

 日本国政府のために 椎名悦三郎

 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために Е.Погинов