[文書名] 米のベトナム政策への協力を非難するソ連の対日覚書(ヴィエトナム問題に関するソ連政府の覚え)
(2月17日クズネツォフ第一外務次官より中川大使に手交せるもの)
最近、日本政府は一切{前1文字ママとルビ}ならずヴィエトナム情勢に関して不安の念を表明し、同地域における情勢の正常化に協力する用意のある事を言明した。
この様な言明は、もしそれが、日本政府の具体的なステップによって裏付けされたならば、歓迎することが出来よう。
ヴィエトナムにおいては米国のヴィエトナム国民に対する公然たる侵略が行なわれて、ますます拡大されつつあることは周知のとおりである。ヴィエトナムにおける戦争の停止を願う国は全て米国を非難せざるを得ず、又、ヴィエトナム国民に同情せざるを得ない。
もし、日本政府が、この様な立場に立つならば、米国の同盟国である日本は、ヴィエトナムにおける米国の侵略を停止させる目的をもつて米国に働きかけるために、その可能性を利用することが出来るであろう。しかるに現実にはまつたく逆の事が行なわれている。
ソ連政府は、1965年3月22日付及び8月31日付の覚書において、日本の領上と物的資源が米国のヴィエトナム侵略のために利用されている事実につき、日本政府に注意を喚起してきた。
これについては、日本外相のモスクワ滞在中に同外相の注意をも喚起した。
最近の事件はこのような事態を阻止するために何らの措置もとられなかつたばかりか、逆に米国が自己の主要な後方基地及び中継基地の一つとして日本領土を益々広く利用し、また、ヴィエトナム侵略を拡大するために日本の工業と人的資源に依存していることを示している。
日本の港にはヴィエトナム沿岸における軍事作戦に直接参加している米海軍の艦船がますます頻繁に寄港している。日本の軍事産業はヴィエトナムで行動する米軍の軍事材料及び軍需品の調達と修理の注文を遂行している。このことは最近読売新聞紙上に発表された、資料が証明している。同紙は特に1965年4月より9月の間に米軍調達機関がこの目的のために2億2,〇〇〇万ドルをついやしたことを書いている。すなわち、日本の会社「日本航空機」は1965年に3百3〇万ドル{百にママとルビ}に及ぶ米国機修理の注文を受け、また、トヨタ自動車会社は毎月米軍に対し、3〇万乃至4〇万ドルに及ぷ自動車部品を売却している。米国のクリスチャン・サイエンス・モニター紙の報道によれば、米国機がヴィエトナムに投下するナパーム弾の少くとも9〇%は日本の2つのコンツェルンが納入している。
日本の新聞に報道されたように、事態は日本の防衛庁職員がオブザーヴァーの資格で自ら米国空軍のヴィエトナム空襲に参加するまでに至つた。
今年1月末の米国による野ばんな北ヴィエトナム爆撃再開は日本の非難を呼びおこさなかつたばかりか、1月31日付けの日本内閣官房長官の声明から判断出来るように、日本政府はこの行為を正当化しようとすらしている。
またヴィエトナム問題を国連安保理事会の議事日程に加えんとする米国提案の同理事会における表決にあたつて、理事会の議長たる日本代表が問題は北越空襲の再開とインドシナ侵略拡大計画に憤激した世論をまどわさんとする米国の策略に関するものであることがまつたく明らかであるにもかかわらず、同提案を支持したことを指摘せざるを得ない。
ソ連政府は前述の事実につき、日本政府の注意をさらに喚起するとともに、もし、日本が真にヴィエトナムにおける平和の樹立に協力する事を希望するならば、日本が、米国のヴィエトナムにおける侵略に協力する目的で行なつている米国による日本の領土、工業及び人的資源の今後の利用を阻止するため適当な手段をとるものと期待することは、理の当然である旨言明する必要があると考える。日本はジュネーヴ協定と同協定に沿う北ヴィエトナム政府の提案及び人民解放戦線のプログラムを厳守することを基礎としてヴィエトナム国民に対する米国の侵略を停止させ、かつヴィエトナム問題を解決することに寄与するために自己の影響力を行使することが出来るであろう。