[文書名] 北方領土に関するソ連政府の対日口頭声明
ソ連政府は,ソ連と日本の間の善隣関係および相互に利益のある協力の発展が両国の利益に合致し,かつアジアおよび極東における平和と安全の強化に合致すると考えて,一貫して,日本との善隣関係および相互に利益のある協力の発展の路線をとつて来た。周知の如く,近年において,ソ日関係の発展上,一定の積極的な成果が達成された。
しかしながら,ソ連政府は,最近,日本において所謂北方領土に関し,ソ連にとつて非友好的な運動が活発化したことに注目せざるを得ない。この運動は公的な人々によつて奨励され,かつ指導されている一連の事実がこのことを物語つている。
昨年末,総理府に沖繩北方領土に関する特別な官庁が設置された。日本の議会の両院に北方領土問題に関する委員会が活動している。1969年10月より『「北方領土」対策協会』が活動を開始したが,この協会の使命はソ連の領土に関して具体的な対策をたてることにある。日本の文部省および建設省の承認を得て,歯舞,色丹,国後および択捉のソ連の諸島を日本領土として表示した地図,教科書およびその他の資料が出版されている。
ソ連においては,同様に,日本政府が,所謂「領土問題」に関し,他の国家に呼びかけようと試みている事実を看過することは出来ない。日本の外交代表を通じ,外国においても,すでに周知の歴史的事実を歪曲し,ソ連の領土に対し,根拠のない要求をかかげている種々の資料(その中には,日本外務省により出されたものも含まれている。)が配布されている。1970年4月,日本の国連代表部は公的にこの問題に関するパンフレットを国連加盟諸国の代表部に配布した。本年において二度も特別の代表団が米国に派遣されたが,これらの代表団は米国国務省および一連の国々の国連代表部より,日本の立場に対する支持を取付けようと試みた。日本の佐藤総理大臣が,国連総会の演壇をソ連に対する領土要求を提起するために利用し得ると考えた事は,如何なる意味でも日ソ関係の発展および国際緊張緩和の目的に合致し得るものではない。
現在,日本において,公的機関の援助のもとに「北方領土返還月間」が実施されている。この月間においては,ソ連に対する日本の領土要求を支持するための集会や会議,署名や募金運動,テレビおよびラジオ放送が行なわれている。北海道の北方に位し,ソ連に所属する,千島列島南部の諸島に対する日本の要求に注意を向ける目的をもつて,海上からの視察を含めてこれら諸島を「視察」するために国会議員や公的機関の代表が参加する数多くの日本のグループの旅行が行なわれている。
10月12日,東京において「北方領土返還全日本大会」が開催され,この大会では山中国務大臣総理府長官および竹内外務政務次官等の日本の公的人士が演説を行なつた。この大会では反ソ的な言辞が見られた。
この運動の中で,9月9日には在京ソ連大使館の前で,また9月2日および28日には,在札幌ソ連総領事館の前で,無頼な行為が行なわれた。
上記に関連し,ソ連政府はこのような行動はソ日間の善隣関係と両立しないものであり,ソ連に対して非友好的なものとしてしか認められ得ないものであることに日本政府の注意を喚起することが必要であると考える。
ソ・日関係において,いわゆる「領土問題」を人為的に提起し,かつ断え間なく掻き立てることは,ソ連と日本との間の善隣関係の発展に反対し,アジア及び極東の平和の強化に反対している日本ならびにその国外の勢力の利益にのみこたえるものであることを指摘せざるを得ない。ソ連に対する領土要求を支持する運動が日本において活発化していることは,日本側も明らかに関心を有する,われわれ両国間の関係の実際的諸問題の解決を困難にするのみである。
ソ連政府は,第2次世界大戦の結果形成されたソ連と日本との間の国境を再検討しようとする試みは何の根拠もないものであり,かつ,必ず失敗するものであることを断乎として強調したい。そもそも,ソ連の領土に対する要求は,戦後の平和的調整を破壊することを目的としたものであり,現下の国際情勢発展の全般的傾向に逆行するものであることは,ヨーロッパで戦後形成された国境の不動性を確認したソ連とドイツ連邦共和国との間の条約が調印されたことにも現われている。明らかに報復主義的性格を帯びた日本の領土要求は,国際緊張の緩和及び全般的平和に対する諸国民の願望に対して激しい不協和音として響くものである。
ソ連政府は,ソ連との善隣関係を発展せしめかつ,国際緊張の緩和を促進しようとの意欲を一再ならず言明した日本政府が,上述の見解に十分な注意を払い,かつ,ソ連に対する非友好的な運動を中止すべく措置することを期待するものである。